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第23話 夢の話


「夢の話していいですか?」


「……やっぱりチーズ肉まんとストロングレモンチューハイ合うわー」


「き、聞いてくださいよ」


「ちなみにどっちの方の夢?」


「夜寝るときに見る夢です」


「無価値」


「ひ、酷い……」


「おっさんにとって、小娘の見る夢の話なんて、この世で最も聞く価値のない話なんだと自覚しろ」


「……ちなみに、もう一つの夢の話は?」


「つらい」


「……」


「話したかったら聞くけど、お前、おっさんにキラキラした夢聞かせてどうする気だ?」


 た、確かに松下さんは、熱い夢を語れるキャラではない。


「ということで、昨日見た夢の話をします」


「……お前、俺の意見まったく反映されてないじゃないか」


「無価値な話とつらい話の二者択一で選びました」


「いつお前が二者択一の選択をさせたと言うんだ?」


「まぁまぁ」


「くっ……言っておくが、俺はこの路上で好き勝手に帰れる権利を持つ日本国民であると認識して生きていけよ」


 そんな松下さんの不満はとりあえず置いておいて、私はとにかく話そうと思っている。だから、話す。


「それが不思議な夢だったんですよ。私が起きたって思ったら、もう一人の私が私を見てまして。それが結構リアルなんですよ。なぜか夢ってわかってるのに、そのまま夢が続いてるんです」


「それは明晰夢というやつだな」


「なんですかそれ?」


「……オーケーグーグル、明晰夢の意味は?」


「し、知らないんですか」


「明晰夢(めいせきむ、英語: Lucid dreaming)とは、睡眠中にみる夢のうち、自分で夢であると自覚しながら見ている夢のことである。明晰夢の経験者はしばしば、夢の状況を自分の思い通りに変化させられると語っている」


「が、グーグルの検索結果読んだだけじゃないですか」


「引用はウィキペディアだよ」


「でしょうね!」


 このおっさんは、なんなんだろうか。


「というのは置いておいて、よくあることだ。俺も結構、明晰夢見るしな。思春期特有の自分だけが特別な人間だなんてことは、くれぐれも思わないことだ」


「……別に思わないですけど」


「じゃあ、次は俺の番だな」


「ん?」


「俺の夢はーー」


「ちょ、ちょっと! 私、聞くって言ってないですけど!」


「順番だろう?」


「……っ」


 正論。圧倒的に正論ではあるが、おっさんが見た夢なんて圧倒的に聞きたくない。


「ちょっと思い出すから待っててな」


「思い出すくらいなら言わなくても全然いいですよ」


「……」


 か、考えはじめた。


「……」


「……」


         ・・・


 私は、今、なにをやっているんだろう。これは、いったい、なんの時間なのだろう。聞きたくもない、松下さんの夢の話を聞くために、待っている。聞きたくないのに、それを聞くために、待っている。


 なんで、こんなことに、なってしまったのだろう。


「せ、せめて松下さんのキラキラした夢の話しません?」


「30歳過ぎのおっさんの夢がキラキラしてると思うか?」


「くっ……キラキラしてなくてもいいから、聞かせてくださいよ」


「……それは、いつか言うよ」


「……」


「いつか……な」


「……」


 なぜ、もったいぶられなければいけないのか。別にキラキラもしていない松下さんの夢の話を、聞きたいって言って、断られて、もったいぶられている。いったい、なんなんだ。


 と言うか、何分考えているんだ。


「よく考えたら、夢ってあんまり覚えてないな」


「今、最高にホッとしました」


「もうちょっと長考するから」


 !?


「まだ考えるんですか! いいですよ、別に私聞かないでも大丈夫です!」


「いや、ここまできたら言いたい」


「私は聞きたくないんですよ」


「俺はお前の夢の話、聞いたじゃん」


「……っ」


 なんでなんだ。なんで私は松下さんに、昨日の夢の話をしてしまったんだろう。それをしてしまったがために、私の時間は奪われていく。おっさんの昨日見た夢の話を聞くために、長時間待たされている。


「あーあっ……」


「お、思い出しましたか!?」


「……あっ、これは違うやつだ」


「違ってもいいから! とりあえず、それくださいよ! その話、プリーズ」


「別にいいけど、そしたら二つになるよ?」


「な、なんですと!?」


「小娘よ。社会をなめるんじゃあないよ。俺は昨日の夢の話をしたいんであって、別の話をしたいんじゃないだから。それがこの契約社会だ」


「……」


「俺が社会だ」


 なんとなくだけど、社会って恐ろしいものだって思った。


「じゃあ、さっさと昨日の夢を思い出してくださいよ」


「はいはい。そんなに急かさない」


「くっ……」


 松下さんは、ひたすらにそのスタンスを崩さない。別に聞きたくないのに。おっさんの昨日の夢の話なんて、全然、まったく、これっぽっちも聞きたくないのに。いつのまにか、めちゃくちゃ聞きたがってることになっている。そんなポジションに、成り下がってしまっている。


 おそるべし、松下マジック。


「……あっ」


「お、思い出しましたか!?」


「思い出した!」


「よかったー……安心しました。じゃあ、早速話してください」




















 結果としては、クソつまんなかった。




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