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第12話 親戚の子的な立ち位置


 拉致。あえて、俺はそれを拉致と呼ぼうと思う。サトが就職を決めた翌日、『今日の夜、飯食いこい。奢るから』と岳のメールを受け取って、ホクホクとイタリア料理店に行ったら、凄い怖い顔をして扉の鍵を閉められたこの行為を。


「おい、お前どう言うつもりだ?」


 今やほぼ唯一の友達となってしまった岳が約束のナポリタンを出してくれる。


「いただきます」


「いただく前に答えろよ。あのサトって子はお前のなに? 遠縁の親戚の子?」


「……まあ、それに近い立ち位置」


「えぇ……!? ピンポイントで親戚の子と言う立ち位置じゃないと、問題だろ」


「ちょっとくらいいいじゃん」


「その『ちょっと』が全てなんだよ! 同じ血をひいていると言うことが親戚のおじさんと言う立ち位置は全てなんだよ」


「……お前、このナポリタンうまいな」


「誤魔化すんじゃない! お前、彼女の歳聞いたか?」


「俺の前でサトの歳は言うなよ。見立てでは28歳だから」


「そんな訳ないだろ!」


「年齢という物差しで人を見たくない」


「見ろ! そこは、見ろ!」


「俺が怖いのは法律だけだ」


「か、確実に青少年育成保護条例恐れたんじゃねぇかこの犯罪者予備軍」


「……年齢で人を判断する、恐ろしい世の中になったもんだな」


「恐ろしいのは確実にお前の方だけどな。俺はYahooニュースで捕まっているお前を視聴しないことを祈っているよ」


「別になにもしてない。声をかけてくるのも全部あっちだったし……ただ警察の車が通るときは、少しだけ離れてもらう」


「も、もう確信犯じゃねぇか」


「でも……俺たちも歳とったんだなぁ。もう、若い女の子とも満足に話すこともできないなんて」


「……頼むから『たち』をつけるな」


「もう、立派なおっさんだな」


「立派なおっさんは、青少年育成保護条例にビクビクしながら生きてないんだよ」


「でも、本当に下心はないよ。別にサトとなにかがあるって訳でもないし、そんな展開になるなんて思ってもないし」


 そもそも、顔面のレベルが違いすぎる。それにつけて、フレッシュさまで出されたら、もう完全にお手上げだ。


「ほんとだな? もし、なにか、万が一、億が一、間違えて告白されたとしてもか?」


「……それは事情が違ってくる」


「下心まんまんじゃねえか!」


「でも、そこは待つよ。もし、仮に万が一そんなことがあったら、サトが十分大人になるまで待つ。俺は、待てるおっさんだから」


「基本的に『あきらめる』という考えがないことに、俺は凄く驚いているよ」


「……おっさんになると言うことは、なにかをあきらめなくちゃいけないのかな」


「やめろ! なんだか、凄く可哀想になってきちゃうから」


「……」


「……まあ、お前ってサイコパスではないから基本的には信じてはいるが」


 同い年で、結婚してて、子どももいる岳は、大きくため息をつきながら俺を見る。


「でも、その前提条件は、はっきり言って有り得んだろ。それぐらいは自覚してるよ。自覚おっさんだよ」


「なんなんだよ、自覚おっさんて……まぁ、でも若い子って経験が不足してる分、どこに引っかかるかわかんないしな」


「……難儀なもんだな。おっさん前だったら経験が不足してて、間違えて、いざおっさんになるぐらい経験値積んだら、もうあきらめないといけないんだから」


「……」


「安心しろよ。Yahooニュースにはのらないよ」


 サトにとって俺はそんなんじゃないし、俺にとってサトはそんなんじゃない。お互いを意識してなんていないし、だからこそ色々と話せるんだと思う。


「じゃあ、お前にとってあの子はなんなんだ?」


「……」


 そんな風に尋ねられると、なんだか無性に考えてしまう。友達、恋人、片想い、知り合い、家族……自分の知っている拙いボキャブラリーの中で、しっかりとした言葉が見当たらない。


「……」


「パートナー?」


「それセレブ的芸能人が言う妻的なやつ!」


「……こうして考えると、日本語って閉鎖的なんだよな。いい言葉が本当に見つからないんだよ」


 あいつとは毎日のように会って、歌を聴いて。事あるごとに仕事の愚痴を言って、たまに『もう聞きたくありません』なんて、耳塞がれて。


 で、あいつの話は聞くけど、なんかそれが世間とはズレてて。毎日話しているけど、友達じゃない。お互いを想ってる訳でもないのに、なんだか一緒にいて。


「お前は変わんないよな」


「……変われないんだよ」


 おっさんになったら、なにかをあきらめないといけない。あきらめなくちゃ生きていけないんだと思う。いい加減、現実を理解して身の丈に応じて生きていくべきなんだと思う。


 でも、心がそれを否定する。自分の心が、まともなおっさんになることを否定するんだ。


「たまにちょっとだけ羨ましくなるときがあるよ。お前が夢を追って、もがいてるのを見てさ」


「……」


 ここでよく小説を書いている。なにかを求めることは、なにかを失うことだとわかったのはおっさんになってからだ。俺は見事に家族を持つことをあきらめ、夢に賭けることを選んだ。


 ……いや、選んだんじゃない。逃げたのかもしれない。自分の現実を見ることが怖くて。自分がどの程度かを知ることが怖くて。


 それでも、もう残されていない道を、歩き続けるしかないことに、どうしようもなく不安で。

















 そんなとき、アイツに会ったんだ。

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