7.愛らしいドロシー、登場する。
どんどん合体し、強固になっていく〈隊長〉…。
わたしはあのフランス人形を思い出し、ゾッとした。
「この日本やこの世界各地で、魔法主人公たちは日夜戦ってるんですか…」
「あ、違います」
「え?」
わたしの重々しい言葉はスズキにあっさり否定される。
「戦ってるのはこの街だけです。この街での勝敗がこの世界の鍵を握っています」
「え?このO市ってだけって事ですか?」
「そうです。魔女のカケラは世界の拠点となる場所に根を張るんです。それがこの世界では日本のO市です。各地に散らばった〈隊長〉たちもここを目掛けて集まります。それで私はこの地にいて、魔法主人公たちに力を与えてるのです」
「…」
「凄いでしょ。この街を落とされたら、この世界が終わるんだから」
言葉が出ないわたしに小海さんは笑った。
大きな街まで快速列車で40分。
高齢化が問題になってきてるこの街が。
世界を守る最後の砦…。
「あたしは中学生から戦ってるの。メンバーはいろんな人が入れ替わって、今は1人なんだ。だから…一緒に戦ってくれたら、嬉しいんだけど」
※
わたしはぼんやりと初めて魔法主人公になった時のことを思い返していた。
あれから月日が経ち、わたしは26歳になっていた。
小海さんは2年前、長く付き合っていた男性と結婚する為、街を離れた。
魔法の力はスズキが回収したけど、記憶はそのままにしておいた。
わたしは空港へ見送りに行き、思わず号泣した。
小海さんは「馬鹿ねぇ」なんて言ってたけど。
そしてそれ以来連絡もなく…そんなクールなところも小海さんらしいと思ってた。
離婚…本当なんだろうか。
とりあえず、缶チューハイを飲み干した。
翌朝、昼近くに起きてとりあえず洗濯。
そして、スーパーに出かける。
休みのうちに色々買いだめしておかなくては。
近所にあったスーパーが閉店しちゃったから、少し遠くまで歩かなくちゃいけなくて面倒なんだけど。
「あ!みなぎさーん!」
歩き始めてしばらくすると、弾けるような明るい声がした。
「粋夏ちゃん!」
「もう、みなぎさんっ」
あ、そうだった。
頰をふくらませる姿にあわてて、
「すーちゃん。こんにちは」
「はい!」
にっこり満面の笑顔。
志田粋夏ちゃん、13歳。
中学生だけど、小柄で愛くるしいのでまだ小学生に見える。
夏生まれだと丸わかりの自分の名前が好きではないらしく(男子に「やーい、スイカ!」と言われるらしいけど、多分気を引きたいんだろう)、あだ名で呼ばれるのを好む。
「この辺りにいるなんて、どうしたの?」
「パトロールですよ!」
耳の下で結んだツインテールが揺れる。
「ワタシは遅い時間、パトロールできないので!休みの日の昼間くらいは頑張りたいんです!」
健気…良い子…。
わたしのカサカサの心が潤っていく。
すーちゃんは、最初はわたしと一緒に戦っていたけど、今は1人でこなしてる。
スズキ曰く、センスも才能も抜群の天才少女、というお墨付き。
「なんだか薄っすら〈隊長〉の気配がして、ここまで来たんです」
「え、そうなの?最近〈兵隊〉ばっかりだったんだけど」
「うーん、勘違いかなぁ?」
すーちゃんは首を傾げるけど、彼女の方が正しい気がする。
「どの辺りかな?一緒にお散歩しようか?」
「はい!」
うーん、可愛い。
「こっちです」
すーちゃんが先に歩き、後についていく。
…本当だ。
どんどん、重たいオーラが体にのしかかってくる。
これを受信してたなんて、才能かな、若さかな…。
わたしたちは3年前に閉校した小学校の前に辿り着いた。
「うん、感じるね」
「ですよね…」
わたしたちは同時にグラウンドの方を見た。
あっちだ。奴の気配。
「『女神様の名において宣言する!我が名はシンデレラ』!」
「『女神様の名において宣言する!我が名はドロシー』!」
わたしたちは片手を天に向け、宣言した。
光に包まれ、すーちゃんも〈魔法主人公・ドロシー〉となった。
銀色のバレエシューズに青と白のギンガムチェックのエプロンドレス。
髪には輝く大きなリボン。
「じゃ、行こう!」
「はい!」
わたしたちはグラウンドへ走り出した。