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5.レトロ喫茶で世界の数を知る。

「とりあえず、あいつに攻撃を続けて。時間を稼いで欲しいの」


「は、はい!」


わたしは気持ちを集中して、手を伸ばす。


感覚として…空間からガラスを生み出せるという事が段々わかってきた。


細かい粒が一筋の光の波のようにフランス人形に向かっていく。


フランス人形は黒い光を鞭の様に動かし、それらを振り払う。


瞬間。


「あっ!」


凄い速さで躱す間も無く、黒い光はわたしの体にぶち当たった。


熱さに近い痛みと衝撃で、地面に片膝をついてしまう。


でも、わたしはすぐさま地面に両手を押し当てる。


ガラスの槍が3本、植物のように地上へ伸び、そのままフランス人形へと飛んでいく。


2本は躱すことが出来たけど、一本は彼女のスカートに刺さり、その体は地面に固定された。


よし!


思わず小さくガッツポーズする。


「…驚いた。センスあるみたいね」


小海さんは目を丸くし、


「おかげで魔法を練り上げられたわ」


小さく微笑むと倒れてるフランス人形の上にふわりと浮かび上がった。


りんごの形をした赤い光が7つ出現し、ジタバタと暴れるフランス人形を取り囲む。


そして、その光は順番に小人に姿を変えていく。


7つの光は7人の小人になり、小人は全員斧を手にしている。


「では、さようなら」


小海さんが一段高く浮かび上がった瞬間、小人たちは一斉に斧を振り下ろした。


光が爆発し、フランス人形の絶叫が響く…!


光が止むとその場所には彼女の体はなく、地面に何かが落ちているだけだった。


小海さんはそれを拾い上げる。


透明な、小さなパズルのピースの様なものだった。


「スズキ」


「はい」


呼ばれたスズキは、いつのまにか銀色の箱を手にしている。

金の装飾が施された品物だ。


それは自然に開き、小海さんが投げたピースをするりと受け止め、満足したように蓋がしまった。


「さて、と」


小海さんは変身を解いた。


グレーのプリーツスカートに白いワイシャツ、赤いネクタイの制服姿だった。


わたしも変身を解くよう意識してみると、簡単に元の制服姿に戻った。


すると時間が止まっていたように静かだった世界は変わり、お祭りの喧騒が聞こえてきた。


「改めまして。私は嵯峨野小海。高校3年生」


「あ、橘みなぎです。高1、です」


「ねぇ、スズキを交えて少し話さない?聞きたいこと、沢山あるでしょう」


「はい!」


勿論、山のようにある。


「チョコバナナ、スズキが全部食べちゃったみたいだし。なんか奢るわ」


「え?えぇ?」


スズキはただの棒になってしまったものを軽く左右に振り、涼しい顔をしている。


「初めて食べましたけど、チョコレートとバナナは合うんですね。気に入りました」


「…良かったですね」


わたしは力なく答えた。




それからわたしたちは老舗の喫茶店に向かった。


赤い絨毯と布のソファー席がレトロで歴史を感じさせる。


いつも女性客がお喋りに夢中で、いくらわたしたちがヘンテコな話をしていても誰も気にも止めないだろう。


「みなぎさん。貴女は今、生活しているこの世界だけが唯一の物だと思っていますか?」


どうやら甘党らしいスズキが、チョコレートケーキにフォークを当てながら言った。


「違う…んですね?」


わたしは向かいに座る彼に聞き返す。


「このような世界は100近くあると言われてます」


スズキはあっさり答え、ケーキを口に頬張る。


「100…」


「基本は決して混ざり合いません。貴女たちがこうしている間、別の世界では誰かが泣いたり笑ったりしているだけです。他の世界の人たちはこの世界を知らない。そう考えると大した問題ではありません」


確かに…お互い知らないんだから、どうという事もないだろう。


「そして、私は別の世界からここへやってきました」


スズキは今度はコーヒーカップを口に運んだ。


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