4.シンデレラは初参戦する。
「スズキ!」
すぐさま小海さんから咎める様な声がした。
「小海さんはそっちに集中していて下さい」
スズキはわたしから目を離さずに静かに答える。
「えぇと…お名前をまだ聞いてませんでしたね?」
「…橘です。橘みなぎ」
わたしは戦っている小海さんとスズキに交互に視線を送る。
「みなぎさん。好きな童話とかありますか?」
「えっと…シンデレラですかね…」
フランス人形の攻撃をかわしながら、赤い光線を繰り返し放つ小海さん。
そんな彼女をハラハラと見守りながら、わたしはとりあえず答える。
「なるほど。了解致しました」
スズキはわたしの手からチョコバナナをひょいと奪うと、もぐもぐと食べはじめた。
「えっ、ちょっと…」
わたしがスズキに注目すると、ゆっくりと微笑む。
「我らが女神に宣言して下さい」
「我らが女神…?」
「繰り返して下さい。『女神様の名において、宣言する』」
「女神様の名において…宣言する」
「『我が名はシンデレラ』」
「我が名はシンデレラ…?」
「もっとはっきりと大きな声で」
「『我が名は、シンデレラ』」
自分の声がエコーがかかったように響く。
次の瞬間、青白い大量の光がわたしを包み込んだ。
まず目に飛び込んできたのが、履いていたスニーカーが透明なハイヒールに変わる光景。
身につけていた制服はライトブルーの膝丈のドレスへと形を変え。
両腕は肘上までの光沢のある白い手袋に包まれていた。
「えっ?えぇ?」
「貴女には『魔法主人公・シンデレラ』としての力を与えました」
「マジカル…ヒロイン??」
わたしはスズキの顔を見返す事しか出来ない。
「ったく、信じられない」
小海さんがわたしの腕をグイッと引っ張った。
「説明は後!こうなったらちょっと力を貸してもらうわよ」
「で、でもどうしたら…」
その時、フランス人形から再び黒い光が伸びてきた。
小海さんが腕で宙に大きく楕円を描くと、巨大な鏡が出現した。
鏡は光を反射し、油断していたフランス人形はまともにくらう。
「ギャャア!」
不快な甲高い叫び声を上げてフランス人形は飛んでいく。
「今のうちに。スズキ、この子の固有魔法は何?」
「ガラスを生み出す事…ですね。うまく使えこなせば、かなりの攻撃タイプになるでしょう」
「…了解。みなぎ、って言ってたっけ。大丈夫?」
小海さんは声のトーンを優しくして、わたしの目を見つめた。
わたしはなんとか気持ちを落ち着けようとしながら、首を縦に振る。
「自分の中に魔法があるの…感じるでしょう?集中してみて」
言われるまま、自分の両手や足をじっと見つめる。
確かにさっきまでとは違う、体の中が熱くなっている。
そして…。
わたしは片足を一歩踏み出す。
ただの土の地面がわたしの足の周りだけ、薄い氷のようにガラスになった。
魔力を注ぎ込むようにするということが、なぜだか自然に出来る。
ザッと背後に気配を感じた。
振り返ると、いつの間にか移動していたフランス人形だった。
「っ!!」
思わず手で振り払う仕草をすると、大量のガラスの粒がフランス人形を襲った。
「ギャャア!」
体の表面を切り刻まれたフランス人形が再び叫び声を上げて、遠ざかる。
「いけるじゃん、『シンデレラ』」
小海さんースノーホワイトはニヤリと笑った。
「2人で力を合わせてあいつを倒そう。久々に〈ピース〉を手に入れなくちゃ」
ピース?
わからないことだらけだけど、また知らない単語が出てきた。
きっと…このフランス人形を倒さなくちゃ、何もかも説明してもらえないんだろう。
だったらもう…やるしかない。
わたしは腹をくくった。