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おいでませ!深淵魔界バスツアー!!  作者: 西条ユウキ
魔界遭難編
2/2

そうだ、温泉にいこう


「その、、ごめんなさい!」


何かが割れた様な音がした。

例えるなら夕立の時の雷の音、もしくは台所で重ねていた鍋が一斉に落ちた様な、そんな、、そんな、、


「そんなぁああアッーーーーーーーッツ!!!」


ハッと目が覚め布団から飛び起きた。

いや、飛び起きたと言うよりは飛び「落ちた」と言ったほうが良いだろうか。

まだ頭の整理が追いつかず、あたりを見回してみる。見慣れた机、見慣れたポスター、見慣れた学生服。嗚呼、、おれの部屋かと気づくのにそう時間はかからなかった。


思い出せば昨日のことが鮮明に蘇る。

このおれ、吉田卓郎(よしだ たくろう)は昨日、約13時間前、入学以来片思いをしていたクラスメイト、篠原琴葉(しのはら ことは)に想いを打ち明け、そして無残にも散った...

まあ思えば当然だ。あまり話したことはないし、本当に単なる一目惚れだった様な気もする。でもおれなりに努力はしたつもりだ。積極的に挨拶したり、何か理由をつけて話しかけたりもしてみた。

もちろん顔が可愛いのもある、だがそれとは別に篠原には何故か惹かれるものがあったんだ。こんな友達未満なおれが付き合えるなんてありえないのにな。

本当によく告白までしたもんだと自分を褒めてやりたいくらいだが、今後クラスで会うことを考えると気分が曇ってくる。


「ハァーー〜〜。」


ビブラートが効いたような効いていないような溜息がでる。ひとまず制服に着替えて学校に行かないとな。幸い明日から夏休みだし、時間が解決してくれる。そう、解決してくれるさ。


「卓ちゃ〜〜〜ん!朝ご飯出来てるわよぉーー!」


「うるせぇ!!朝から気色悪い声出すんじゃねえよオヤジ!!」


階段の下から叫ぶ青ヒゲモンスター、おれの親父だ。モンスター(本物)ペアレントだ。

おれの家はわりと珍しい父子家庭だ。

お袋はおれがまだ小さい頃交通事故で死んだ。その時の記憶はポッカリと穴が空いてるんだけど、後から親父が真剣な顔でそう言っていたからきっとそうなんだろう。

それ以来あのモンスターは父親であり、母親であろうとし、今の形態になってしまった。


「オイ卓ちゃんよ、親父の俺に向かってその言葉遣いは許さねぇぞ、、?」


親父は父モードの時は死ぬほど怖いのだ。


「申し訳ございませんパパ上様、朝御飯いただきます。」


「わかってくれたらいいのよぉ〜〜ん!!」


怖い、2つの意味で。

なんだあの青ヒゲは、そしてなんで真っ赤の口紅なんだ、ちょっと鼻毛出てるんだよオッサン。

そう言いたい気持ちをグッとこらえる、そんな気持ちを知ってか知らずか、モンスターはコンニャクのように揺れているのだった。



◇◇◇



「じゃあお前たち!夏休みだからと言って羽目を外しすぎず、適度に楽しんでこいよ!

あ、宿題やってこなかった奴は罰ゲームみたいなもんを用意してるからな!」


担任の多摩(たま)だ。

汗っかきだから常にタオルを首に巻いている。まあ生徒思いの熱血先生でみんなからは割と人気がある。おれもそんなに嫌いじゃない。

ちなみに生徒からのあだ名は「タマちゃん」だ。実に安直だ。


キンコンカンコンと聞き飽きたチャイムが鳴り、おれは逃げるようにして学校を出た。左後ろの席の篠原の顔はなんだか確認するのが怖くて見れなかった。


「あーーーーー、やっと夏休み開始だよ!ホントこの日をどれだけ待ちわびたか!」

「な!期末テストギリ赤点回避できてラッキーだったぜ。補習だけはカンベンだからな。」

「何するよ!とりあえず明日海いかね??」


校門ではクラスメイト達が談笑してる。チクショウ!おれだってなぁ、おれだってなぁ、補習がなければ夏休みの予定くらい立ててたんだよ!!

ちなみにおれのテストは5教科中4教科...


...20点以下だった


「おうタクロー!お前補習だって?

かわいそうだなあ、頭が!」


「言っとけ!ていうかお前も補習じゃねーか航!」


こいつは安藤航(あんどう わたる)、おれの幼馴染であり腐れ縁であり親友だ。


「タクロー、わかってないよお前は、全然分かってない。お前は4教科落とした、でも俺は3教科しか、おとしてないのさ。」


「目くそ鼻くそじゃねえか。しかもお前数学4点じゃん、ただの糞じゃん。

クソじゃないぞ、フンだぞフン。鳥の。」


などとお互いの点数の低さを確認し合って交差点で航と別れた。あいつと一緒ならまあ補習もそんなに退屈ではないかな。



◇◇◇



いつものバス停に着いた。まだ真昼間のはずなのに今朝の天気予報通り空は厚い雲が覆い今にも雨が降りそうな感じだった。傘持ってきてないんだよなぁ、とか思っていたら、やっぱり降り始めてきた。


「お天気お姉さんってスゲーよな...」


なんて独り言をポソッといってみたが、本当に凄いのはお天気お姉さんではなく気象予報士だったということを知るのはもう少し先の話だった。


椅子に座ってホッとため息をついた時、バス停の壁を見ると今まで見た覚えがないポスターが貼ってあることに気がついた。


☆真華井の森で心も体もリフレッシュ!!森林浴も兼ねた一泊二日温泉旅行!

大自然のエネルギーをあなたも感じてみませんか?☆


温泉か、そう言えば温泉といったら中学の時の修学旅行以来行ってないな...

あの時は航と女子風呂を覗こうとして最終的にバレて、女の子は見れないわ先生に怒られるわモンスターに怒られるわで散々だったな。モンスターが特に酷かった。

...あんまりいい思い出がないな。


「受付は、明日までか。

そんなにいい思い出もないし、今回は見送r」


その時おれは視界の端で見た。

一番下の行だ、見落としていた。

四度見くらいした。

見間違いじゃないかと目をこすった、目を凝らしてよーーーく見た。


♡混浴♡


「この夏は温泉で決まり!!」


そうだ、温泉にいこう。



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