挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界ファンド 作者:陽向 舞桜

第四章 夢想

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

44/47

第十二節 安堵

 星空の下、リリアと二人肩を並べて歩いた。二人だけの時間がゆっくりと流れる。


――何も分からないところからここまで歩いてきたけど、最初は二人だけで始めた旅だったんだよな……。


 この世界に来てから今日までのことが、思い出されては消えていく。ふと隣を見ると、そこには当たり前のようにリリアがいる。彼女の横顔を眺めていると、胸がきゅーっとなった。

 家に着くと、そこにはリリアを心配するリンカとテトの姿があった。

「リリア! 無事で良かった……」

「ごめんね。二人とも、心配かけて」

「いいのよ。大丈夫なら良かった……というか、二人とも早く中に入りなさい!」

 テトが中に誘導してくる。

「もうこんな時間だし、お腹空いているんじゃない? 今から料理を用意してあげるから……少し待っていなさい!」

 そう言うとテトは厨房へと消えていった。

「テトちゃん。私も手伝うわ」

 リリアもテトの後に続き、奥へと消えていく。

「リンカは行かないのか?」

 そう尋ねると、リンカは深妙な面持ちでこちらを振り返った。

「リリアがいなくなったの……やっぱり私が悪かったのか……?」

 リンカが不安そうに、らしくない顔をする。

「いや、あれは僕の不注意だ……リンカは悪くない」

「そうか、少し私も考えてしまってな……。それよりタケル、なぜ私をいきなり押し倒してきたんだ? 強引な男は嫌いじゃないが……もう少し……その……場所は考えて欲しかったな……」

 リンカの顔がブワッと赤くなる。その姿を見て、まだ解けていない誤解がここに残っていたことに気づく。

「あ、あれは水着に着替えようとして……その時足を踏み外してそれで……」

 ありのままの事実を伝えようとする。リンカは少し考えるとこう切り出した。

「……じゃあ、あれはわざとやったという訳じゃないのか?」

「もちろん! あんなところでそんなことやるわけないよ!」

 即答する。

「そうなのか……」

 リンカは何か思いつめたような表情を浮かべていた。

「ま、まあ……あれは不慮の事故ってやつだな。ははは……! じゃあ、私も夕飯の支度を手伝ってくるか!」

「うん……」

 笑顔でリンカが立ち上がり、くるっと後ろを向く。

「私だってタケルの事……」

 去り際に小さな声でリンカが呟いたが、その声は小さく過ぎてよく聞こえなかった。

 厨房へと急ぐリンカを見送ると、ソファーに体全体の体重を預けた。そして自分の世界に入り込む。

 無意識にリリアの事を考えていた。

 リリアの洞窟内での様子。彼女が必死で訴えてきたその胸の声。己の中からふつふつと湧き上がった感情。その余韻はしっかり心に刻み込まれていた。

 リリアのことを想うと同時に、今まで無かった新たな人間関係に戸惑いを隠せなくなっている自分に気づく。そしてこの感情は何なのか、その問いを模索する。

 そうして思考を巡らしていると、奥から三人がやってきて、出来上がった料理をテーブルに並べ始めた。

「タケルー! 夕飯の準備が出来たよ!」

 食欲と……リリアの満面の笑みとに誘われて、三人がいるテーブルの元へと向かう。テーブルには、リリアと会った時に初めてご馳走してもらったシチューが人数分並べてあった。

「タケル! 知ってたか? リリアすごい料理上手なんだぞ!」

 リンカが驚いた様子で喋る。

「今日はリリア特製のシチューよ!」

 テトがシチューを差し出してくる。

 シチューからは旨味溢れる香りが立ち込め、空きっ腹を激しく刺激してくる。舌には唾液が溢れ、食欲が頂点へと達した。

「さあ、召し上がれ。タケル」

 トドメのリリアの囁きで、全てが壊れてしまいそうになる。木製のスプーンをリリアから受け取り、そのスプーンでシチューを掬い上げ、口へと運んだ。心も体も幸福で満たされ、体内の細胞が活性化していく。

「お、美味しいよ! みんなありがとう」

「そうだろー。私も手伝ったからな」

 リンカが得意げな顔をする。

「べ、別にタケルの為に作った訳じゃないんだから!」

 テトが恥かし混じりに話す。

「タケル。いつもありがとう」

 リリアの微笑みに、もう何もかも忘れてしまいそうになる。

「さあ、みんなで夕飯にしよう」

「はーい!」


 ◇◆


 四人でテーブルを囲み、リリア特製のシチューを存分に味わう。そこは皆の笑顔で溢れていた。幸せな時間がゆっくり時を刻んでいく。

 夕飯を平らげ、お腹も落ち着いた頃、ある決意を皆に告げる。

「三人とも聞いてくれ。明日にはこの街を出ようと思う。この街では、今まで想像もしていなかったヘッジファンドの闇を、少しだけ垣間見ることができた。でも、まだこの世界や、ヘッジファンドについては分からないことだらけで……僕はそれをもっと知りたいと思ってる……その為に、前に進みたいんだ……」

「そうか……私はタケルが行くところへどこでもついて行くぞ! 連れて行ってくれ!」

 リンカが元気よく喋る。

「タケルが行くところへ……私はどこまでもお伴するよ」

 リリアがお淑やかに話す。

「テト、君はどうする?」

 少し間が空く。だが、テトはすぐに決意に満ちた表情でこちらを見てきた。

「私もついて行くわ! ずっと殻の中に閉じこもってきたけど、もっと世の中を知りたいと思ったの。こんな風に考えたこと今まで無かった。あなた達と会えて本当に良かったよ……」

「そか! じゃあ決まりだな! みんな宜しくな!」

 リンカの一言に皆が一致団結する。

「ま、まあ宜しくしてやってもいいけど! 特別だぞ!」

 テトの言葉に皆が笑う。

 互いに打ち解け合いながら、楽しい時間を過ごしていた。家からはこれまでずっと疎遠だった笑い声で溢れ、優しい時間が流れる。

 次第に夜は更けていった。

「ゴゴゴゴゴゴゴゴッ」

 その時、地中内部では怪しげな音が振動とともに轟音を発していた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ