家と母さん
「真名説明するのじゃ」
魔道門の黒い門を抜けたレナが開口一番声を張り上げた。
「説明、心がスグルの体液を体に取り込んだ。それが心のパワーアップの理由」
「なんじゃと!? 特異点にそんな能力があると聞いたことがないぞ」
「私も初耳」
俺も初耳だ。当然だけど。
つまり俺の体液はパワーアップアイテムってところなのか。
「おそらく、特異点のパートナーと近しい者しか知らない事柄。本来は秘密にすべきもの。もし漏れればスグルは多く人間に狙われる」
「確かにそう。そんな大事なことを言うという事は信頼しててくれてるのじゃな」
「肯定、もしもの時この情報の認知の有無の差は大きい。そして特異点の体液に摂取は、私たち並の器じゃないと効果はでないむしろ身を崩す。そして。何の力もない一般人が体液を摂取してもなんの効果はない。効果があるのは私たちのような特殊な人間だけ」
「さっきから言ってる器って何なの?」
心が質問する。
「器とは、大きな力を受け止める体。エネルギーを溜めるタンクと思えばいい」
「なるほど、大きなエネルギーを溜める容量がないと入れすぎてタンクが損傷して悪影響が出るってとことかの」
「概ね正解」
「なるほど、こんなの私達やレナ、真名陣営の誰かに知られたらスグルが攫われそうね」
「勘弁してくれよ」
正直な感想を述べる。
これはかなりのヤバい情報だ。
下手したら一生軟禁の上体液を搾り取られかねない。
「ところで真名この情報、俺たちとお前以外で誰が知ってるんだ?」
「おそらく私の両親のみ。情報漏洩心配の必要はない。私たちの一族は代々特異点と結ばれ力を高めてきた。特異点であるスグルの身の安全は保障する」
「ならいいんだが」
少しだけ安心する俺。真名の両親はとても個性的だが信用できる人物だ。
「話は一端置いておいてスグルの家に向かいましょ。もう夕焼け空になり掛けてるし」
「そうだな。俺の家はこの先を真っ直ぐだ」
いつの間にか、オレンジ色に染まり掛けた太陽をバックに三人を誘導する。
そして歩いて数分自宅前
「…………………………………………」
「…………………………………………」
「…………………………………………」
「…………………………………………」
無言になる俺たち、俺の自宅の前にあるモノをみてだ。
「……スグルのお母さんよね?」
心がおそるおそる言った。
そう自宅の玄関の前で俺の実の親がいた。
しかも、仰向けに大の字になって。
その表情はニヤニヤという表現がしっくりくるいやらしさ全開で爆睡中。
何これ?
どういう状況?
何で母さんが玄関で爆睡してんだ?
「母さん。何してんの?」
母さんの頬をぺちぺちと叩く。
「うへへへ。私の専用機……」
ニヤニヤとよくわからない事をいう母さん。
「真名。頼む」
「理解。魔道清水」
バシャ―と大量の水が真名の手元から溢れ、母さんの顔に直撃。
母さんはうぁぷと奇声を発した。
「何があったの母さん?」
「あら、なんでこんなところにUFOに変形するロボットに乗り込んでいたはずだけど……」
「俺たちが来た時にはここで寝てたよ」
その言葉に俺の母さん神崎海は顎に手をあて思考中のポーズをとる。
実年齢よりかなり若く見えるのが自慢らしが今はどうでもいい。
「ニュースでUFOが人型ロボットに変形する胸熱展開が起きた物だから、この目で収めようと家を出たんだけど。ああ、そうか勢い余ってすっ転んだだった」
そして、母さんはポンと手を打った。
どうやら思い出したらしい。
話の流れの端を取るならニュースのロボットに興奮して、現場に行こうとしたところですっ転んで気を失っていたというところだろう。
その予想は的中していて母さんは、ばつが悪そうに口を開いた。
「歓迎するわ、未来の息子の恋奴隷達」
「いきなり何いってんだ!」
「何って女の子が好きな男と結ばれるってことは、ほとんどが夫の恋奴隷よ。母さんだってお父さんの恋奴隷なんだから!」
「本当は恋奴隷って言いたいだけだろ!」
「当たり! だっていいじゃない恋奴隷」
これだから母さんは……。
俺の母、神崎海は普段からこんな感じだ。
仕事の一環だと言っているけど。
どう考えても素の行動だ。
自宅でボケ倒す以外の姿はほとんど見たことがない。
これでも売れっ子の小説家。
俺は母さんの作品(ほとんどがラブコメ小説)は読んだ事はないけど。
読者からファンレターは沢山送られてくる。
それでも俺は母さんの小説は読むになれない。
何故なら普段から母さんボケにはツッコミ倒しているのに娯楽である小説の世界にまでツッコム気力はない。
「おお母上どのよくわかっておるな。ワシらは皆スグルの恋奴隷じゃ」
「レナそれでいいのか? ラブがついているが奴隷だぞ奴隷」
「否定、スグルが恋紳士なら問題ない」
「なんかよくわかんなくなってきたわ。私」
恋奴隷恋紳士などという謎の言葉に心は顔をしかめぎみだ。
というか俺たちはさっきから何でずっとルビをつけているんだ?
もういいだろこれ。
「まあ、それは置いておいて家に入りましょう。未来の娘候補達」
「何だよ母さん。急に真面目なトーンで」
「何言ってんのよ。私がラブコメを書き続けてきたのは一人に相手を複数の人物が奪い合う。
憧れのシュチレーションが現実世界で目にできないうっぷん晴らしの為よ! それが目の前にあるのよ! 早くラブコメの定番ネタを見せなさい! 我が息子スグル!」
「そんな欲望から書いてたのかよ!」
「当たり前じゃない! 作家は誰しも作品の自分コンプレックスや願望、中には悩みまで作品に組み込む物よ。
作品とは作家そのもの中に実在する恥ずかしい一面をさらけ出すみたいなものなのよ!」
「深いようで浅すぎんだろ! 普通に仕事を恥ずかしい物みたいにいうな!」
「何言ってのよ! 作品なんて最初に書いたものを読み返すと、作家なら誰だって恥ずかしくなるのよ! そう思えるから作家なんて地位にいるのよ!」
「そういう物なのか?」
「当然よ。最初に書いた作品なんて技術やネタがメタカスだから今読むと、吐きがするほど低レベルと思えて仕方ないわ!」
「ってよく聞いてみたら、仕事を恥ずかしい物扱いにする答えになってねーじゃねーか!」
「ちっばれたか、これは作家の性癖にまでかかわる事柄なのよ。ない物は出ないというように作品ってのは、自分の中にないなら書けないのよ!」
「わけわかんねーぞ!」
「スグルちょっとペース飛ばし過ぎよ。作家の性欲の話はこれぐらいにいしなさい」
「一ミリもいってねーだろそれ!」
「流石、母上とスグルじゃ、漫才のようなやり取りは幼少時代から比べると驚くほど上達してるのう」
「笑、懐かしい光景」
「そうね。おばさんといるときはよくしゃべるのよね。スグルって」
「まぁ、母さんはほっといて三人とも入ってくれ」
自分の恥を曝した感が半端ねえ。
その気恥ずかしいい感情を抑えつつ家のドアを開ける。
「おじゃまします」
「邪魔するのじゃ!」
「入家」
「さぁいらしゃい。ハプニング大歓迎よ!」
キラキラと子供のように目を輝かせる母さんを無視して家に入った。
レナ達は空間を拡張したとかいってたけど。
どこに部屋を作ったか聞いてなかったな。
「お前ら、空間を拡張したとかいってたがどこに部屋を作ったんだ?」
「おおそうじゃな。とりあえず二階に上がればわかるぞい」