ハンプティの発見 ―報告会―
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「報告します! オズ様!」
工場地区での騒ぎから数時間後。エメラルドシティ行政地区内にあるオズの屋敷にて。やや焦った様子で書斎の扉を開けたのは、赤い短髪の軍人ペーター・パイパーだった。
「何事だ」
「ここより北方の自動車工場地区にて、爆発騒ぎがあり、魔力探知機にも反応が見られました。それに関してお耳に入れたいことが二点ございます」
「聞こう」
様々な書類に目を通しサインをしていたオズは、羽ペンを置いて机の上で手を組んだ。パイパーは「はっ」と敬礼して報告を開始する。
「爆発騒ぎの原因は例の怪物です。前回と同じく食糧・衣類を強奪し、そして今回新たに大量の書籍を持ち去ったとのこと」
「書籍か……なるほどな」
「また工場の人間の話では、ヤツが暴れたことで稼働中の機械へ過剰な電圧がかかり、爆発に至ってしまったと。近くにあった薬品にも引火したそうです。他にも壁の倒壊や路地の陥没など、復旧には最低一週間を要する見込みです」
「了解した。で、もう一点は」
「その爆発騒ぎの現場付近に、魔力保持者を含む三人組が現れました」
怪物の出現報告については大したことはない、という様子で聞いていたオズが、その一言によって鋭い眼光をパイパーに向ける。
「内訳は」
「はっ! 住民の話では、万物を創造する背の高い魔法使いの男、光る魔法具を持つ若い娘、もう一人は獣のような身体能力を持つ男、だそうです」
「勇者アリス、動き出したようだな……。だが、アレは魔法具がなければただの小娘だ。多少は頭が回るようだが、こちらの目的に到達したところで何も出来まい」
「おっしゃる通りです。また、これまでに確認できたクラウ・ソラスの形態ですが、ハンプティを拘束した『布』と追跡を阻んだ『壁』のみ。マーリンとしても戦力とは言い難いでしょう」
「とは言え、大事な見せしめとしての価値はある。引き続き捕獲対象としておけ」
「承知しました」
一礼したパイパーは、何かを察知して天井を見上げる。
「いるのか? ハンプティ」
「うわ、よく分かったねぇ、パイパー」
天上にある隠し扉からシュタッと降り立ったのは、裏仕事担当の暗殺者・ハンプティだった。片膝をついてオズに頭を下げてから、ニヤリと笑みを向ける。
「只今戻りましたよ、オズ様。ボクからもオイシイ報告あるんで、いいですか?」
「構わん」
「このエメラルドシティから西に数十キロで荒野になるでしょう? その辺りに保険で設置されてた探知機にあった反応、追えたんですよ。ほらコレ、何だと思います?」
ハンプティが提出した一枚の写真を、オズはじっと見つめて一言。
「棺か」
「その通り。御覧の通り中身は空っぽだったんですが、近くに結構な量の血痕がありました。棺の中にいた人物のものか、あるいは……」
「中にいた人物が、外にいた者を襲ったか」
「そういうことです」
ハンプティが大きく頷いたところで、パイパーが眉をひそめて口を挟む。
「オズ様、奴の妄想に付き合う必要はございません。写真を見る限りですが、埋められて少なくとも百年は経過していた様子。空だったからと言って、中にいた者が血を流したり何かを襲ったりできるでしょうか。肉体は腐敗の末に風化したかと。傍に血痕があったのも偶然でしょう」
「じゃあ魔力の反応はどう説明するんだい? パイパー、ボクだってその手の可能性はいくつも検証したさ。その全てを踏まえて報告に来たんだよ」
「何だと?」
「こちらもあわせてご覧ください。ボクが棺の中身に価値を見出した、絶対的根拠です」
続けてハンプティが提出した写真に写っていたのは、棺の蓋に刻印された二種の紋章だった。一つは、今やおとぎ話として伝承されているキャメロット王国の国章。もう一つは……
「見覚えのない紋章だ。ハンプティ、これは?」
「ボクも古い資料で確かめるまで気付けなかったんですけど、驚きましたよ。こっちの紋章は、キャメロット西部にあった特別自治区・ワラキアのシンボルです」
「ワラキアだと? その自治区は確か……」
オズの声色が変わり、ハンプティはより一層愉しげに口角を上げた。
「ええ。もし棺の中で眠っていたものが目覚めたのだとしたら、それはただの人間じゃない」
「どういうことだ! 簡潔に言え、ハンプティ」
ワラキアという地名を聞いても何も浮かんでこなかったパイパーが、しびれを切らした。が、ワントーン低くなったハンプティの応答に、黙らされることとなる。
「吸血鬼だよ」
「なっ……お前、正気か? オズ様、根拠など何も、」
「……いや、有り得る」
驚愕を隠せないパイパーに対し、オズは「むしろほぼ確実と見ていい」とさえ返す。それでも腑に落ちないというパイパーの心境を察し、オズは付け加えた。
「三百年以上も前の資料だ。軍人のお前が覚えておらずとも問題はない。旧ワラキア自治区と言えば、ペンドラゴン王家に古くから仕えるペリノアと言う貴族に迫害を受けていた場所の一つだ。その迫害から民を守り、自治区のリーダーとして任命されたのが、ドラキュラ家」
「一説によると、ドラキュラ家がワラキアを救うために得た力こそ、吸血鬼の力だったってね。血液の摂取によって普段の数十倍、もしくは数百倍の力を発揮できるとか。けど更に興味深いのは、不老不死であるということさ。現に、三百年もの間、この棺に眠っていた吸血鬼は目覚め、脱走したようだしねぇ」
「まさに私の研究対象に相応しいじゃないか。ハンプティ、引き続き吸血鬼の足取りを追え。パイパー、お前は工場地区に現れた魔力保持者について情報を集めろ。必要であれば、勇者と共に処分する」
指示を出された二人は、それぞれ敬礼を返す。
「了解です」
「承知しました」




