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プロローグ ―部活見学―

懲りずに冒険ファンタジー書きます。

高校生になった鈴が、新たなファンタジーに誘われます。

それではどうぞ、お楽しみください。

「はい、ここで問題です! 人類が発明した物のうち、最も人類を死に追いやっているのは何でしょう?」

「核兵器じゃね?」

「鉄砲でしょ」

「ぶぶーっ、恵太(けいた)(すず)もハズレ」

「えー? じゃあ毒ガス」

「地雷……ってか、ダイナマイト!」

「違います」


 父親から母親のケータイに「同僚と飲み会行くことになっちゃいました! ごめんね!」とメールが来たのが2時間前。夕飯(おそらく親子丼の予定だった)の準備をし始めていた母親は、「信じられない! これもある意味ドタキャンよね!」と散々鈴に愚痴を吐き、結果、今夜は父親への当てつけという名目で外食になった。


 そんな流れで、それなりに高級な雰囲気のハンバーグ専門店に来たのだが、吹っかけられたのがこの話題である。母の神経を疑うごく稀な瞬間が、今まさに訪れている。が、クイズの答えが気になるので鈴も恵太も割と真剣に考えているのだった。


「ベルトコンベア」

「それちょっとズルくない? 用途の幅が広すぎる」

「パーツじゃなくて、品物で答えてね」

「飛行機は? 戦闘機込みで」

「あ、鈴それすごく惜しいわー」

「車……?」


 ニンジンをむしゃっと食べながら呟いた恵太に、母親は眉を下げながら微笑んだ。


「正解、皮肉よねー」


 確かに、と鈴は妙に納得しながらハンバーグをまた一口食べる。

 この地球上で平和ランキング上位国家である日本においても、交通事故はまぁまぁ起こる。その事実は、未だ車という発明品(ここでは車輪をつけた金属の塊と言い表せる物全般)が、人類を死に追いやっていることを明示している。


「だからお母さん、免許取らなかったのよー、怖いもの」

「バイクは?」

「恵太ったら! そんなのもっと怖いに決まってるでしょ、自分の装備が更に薄くなっちゃうじゃない」

「あー」

「だから鈴、遊びに行く時は本当に気を付けるのよ」

「何に?」

「車に()かれないようにとか、電車のホームから落ちないようにとか」

「てか、何の話だよコレ」


 呆れながらライスのおかわりを頼む恵太に対し、鈴は何となくだが察せた。きっと、鈴自身が高校生になったから、「遠出する時は気をつけろ」という感じの話をしたいのだろう。それにしては大変遠回りな話題運びだが、考えがいのあるクイズだったから別段気にならなかった。



 ***



 高校生活は、「目まぐるしい」の一言に尽きる。


 あのヘンテコな異世界に飛ばされ、それなりに命の危険を伴った冒険をしてから、鈴は無事第一志望に合格した。母親の方が先に泣いてしまったから、鈴は「手応えあるって言ったじゃん」とわざとらしく冷めた返答しか出来なかった。


 来る日も来る日も小テスト。英単語、古典、数学。二次関数はそこそこ強敵だが、今のところは大丈夫だ。そんなことより教科書の先の方に書いてある謎の計算式に出会うのが今から恐ろしくて堪らない。

 ちなみに、お昼を一緒に食べる友達は一応できた。部活動を決めるより先にオリエンテーションという名のグループワークがあり、くじの結果に恵まれたのだ。


「鈴、葉月(はづき)、どっか本入部した?」

「私はやっぱりソフトテニスかなー、莉紅(りく)は?」

「管楽!」


 くせっ毛のボブショートで、前髪をまとめて額の上にピンで留めているのが矢嶋(やじま)葉月。ストレートのロングヘアを左耳の下で一つに結んでいるのが相模原(さがみはら)莉紅。

 葉月は口調も穏やかでパッと見はほのぼの系女子だが、趣味はテニスで運動神経抜群。莉紅はテンションが常に高くミーハーな第一印象を抱いたが、親の影響で小学校の頃からクラリネット一筋らしい。鈴の個人的な意見だが、楽器を続けている人は「お坊ちゃん・お嬢さん」な感じがする。


「鈴は卓球?」

「んー、考え中」


 グループワークの際、中学時代に所属していた部活について話したので、莉紅は鈴が高校でも卓球部を選ぶと思ったようだ。

 が、鈴としては「運動部で主将や副主将を務めた方が、良い通知表を取りやすい」という打算のもと、入った部活だった。卓球が嫌いなわけではないが、特別な思い入れもない。まして、高校になれば中学より本格的になるはずだ。正直、運動が得意ではない鈴にとって、高校の運動部は荷が重い。


「できれば文化部。そんなに入り浸る必要がない程度の」

「何その要望、謎っ」

「だって休み時間にしょっちゅう集まるとか嫌だし」

「そっかー、鈴は先輩たちとの上下関係苦手そうだもんねー」

「うん、そう」


 のほほんと返した葉月に鈴が同意すると、莉紅は「えー?」と首をかしげた。


「先輩たち優しいよ? 私こないだ挨拶に行ったんだけど、フツーだったし」

「優しいとかそういうんじゃなくて……まぁ、私が上手に話せないだけ」


 だからもうちょっと考えるよ、と鈴はノートをカバンにしまった。



 ***



 高校1年の中間テストが終わって初めて、本入部が解禁される。ここ数日、鈴の放課後の日課は色々な文化部の見学だった。個人的に抱いた印象だが、文化部の先輩たちは運動部の先輩たちに比べて押しが弱いので、「今日は見学だけです」と言いやすい。


 今日はどこを見に行こうか考えながら、部活紹介チラシが並ぶ掲示板の前に立つ。いっそオセロ部とか行ってみるか……しかし先日お邪魔したチェス部はガチな大会参加を目標としていて、運動部並みの本気が試される感じだった。もらった資料には「他校との合同合宿」とかいう運動部でもなかなかやらないイベントが書かれていて、とてもじゃないが幽霊部員になどなれそうもない。

 もちろん部活に所属することは義務でも何でもないが、鈴の考える「一般的な学生」であるためには、入っておいた方がいいと思う。


「やっぱ、経験がないと無理かぁ……」

「そんなことないよっ!」


 独り言に反応され、鈴はビクッとして声の方を向いた。


「あ、ご、ごめんね! 驚かせちゃって」


 鈴の左側2メートルのところに立っていたのは、鈴より背の低い女生徒だった。肩より少し長めの黒髪は耳の下で二つに結われていて、真面目な印象を抱かせる。両手で抱える本やファイルをぎゅっと握っている様子から、思い切って鈴に話しかけたのだろうと分かった。


「……いえ、大丈夫、です」

「よ、良かったぁ」


 ホッと胸を撫で下ろす彼女のリボンを確認する。青、ということは3年生。この高校では1年生は赤、2年生は緑というように、男子のネクタイと女子のリボンの色が決まっているのだ。


「……あの、部活、探してるの?」

「はい、まぁ」

「良ければ、うちの同好会に遊びにこない? あっ、私、藤堂(とうどう)こだま。3年で一応責任者なの」

「同好会? って、部活とは違うんですか?」


 聞き返した鈴に、こだまは眉を下げて微笑む。


「部活として申請するには人数が足りなくて、だから部費も学校から出ないんだけど……それでも、活動はしてるし、うちは他の同好会とちょっと違って、部室もあるの」

「普通は無いんですか?」

「うん。そうだ、立ち話もなんだから、一緒にどう? 私、ちょうどコレを部室に持っていくところだし」

「じゃあ……行きます」


 歩き出すこだまに付いて行く。


「そう言えば聞いてなかったけど、お名前は?」

「有澤鈴です。……あの、藤堂先輩、それ、半分持ちましょうか?」

「えっ? 大丈夫だよ! 見学のお客さんに持たせられないし。有澤さん、しっかり者なんだね」


 こだまは微笑んでから、思い出したように言った。


「そうだ、何の同好会か言ってなかったよね! 絵本文化研究会っていうの」

「絵本、文化?」

「別に絵本だけじゃなくてもいいんだ。伝承とか、噂とか、都市伝説とか。公式の活動としては、長期休みに保育園や養護施設に行って、読み聞かせをすることになってるの。あ、でも毎日じゃなくて、えっと……去年の夏休みは、結局トータルで3日だったかな。冬休みは1日だけ」


 同好会だから参加は任意だし、交通費もほとんど自費なんだけどね、と付け足すこだま。

 そもそも「同好会」という組織に初めて出会った鈴は、それなりに興味を持って、彼女の説明を聞いていた。

 


 ***



「ただいまー」

「おかえり、鈴。部活決めたの?」

「何で?」


 キッチンの流しで手を洗いながら聞き返す鈴に、夕飯準備中の母が時計を指差す。確かに、今日はいつもの見学に比べてだいぶ時間を割いたらしい。夜の7時を回りそうになっていた。


「うーん……考え中」

「そう。早く着替えてらっしゃい。ついでに恵太も呼んで」

「はーい」


 階段を上がって、恵太の部屋のドアをノックした。「ご飯」とだけ言えば、「んー」と降りていく。それを横目で見送って、自室に入る鈴。制服のリボンをほどき、ぽすんっとベッドに腰かけた。


「どーしよっかな……」


 絵本文化研究会――その名前に惹かれたのは、何故だろう。こだまは「興味があったらいつでも遊びに来てね、同好会って部活より緩いから」と言っていた。緩いから惹かれたのか……いや、多分違う。

 自分の感覚の中に答えを見つけようと目を閉じた、その瞬間だった。



 ―「教えてくれ」


 深く、低く、()びたオモチャのような声だった。

 聞き覚えのない声に驚き、反射的に目を開ける。が、鈴の心拍は落ち着きを取り戻すことなく、むしろ乱れを加速させた。


 鈴が腰かけるその場所はすでに、自室のベッドの上ではなかった。

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