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四十六話 戦闘開始5

 戦闘も停滞気味でロケット花火時の10人殺しが効いたのか、通常の2倍程の間合いを盗賊はとっていた。


 盾兵の疲労度も中度に達し、ララスとカルツが指示して荷車まで戻ってくると美味そうに経口補水液(スポーツドリンク)を口にし、息を吹き返して戦場に戻っていく。


 向かってこない敵を倒すのは非常に体力を削がれるのだが、それでもカーンは相手のほんの少しの油断を感じ取るとリスクを取って踏み込み、少しづつ相手の数を減らし続けるのだが、その代償で疲労の蓄積を溜めていった。


 カーンはドカッと椅子に座ると無言で左腕を指差し、見ると皮一枚切られていて出血している。

 3度目の治療で小慣れたリンスは手際よく傷を洗いながし、異世界のマキリンという消毒液を塗るとテーピングで傷を塞ぐ。


 わずか30秒足らずの早業で疲れて話す気も失せているカーンも、

「しかし大したもんだな」

 と半笑いになりながら感心した。


 ベルカンプはカーンの様子を窺いながら体に触れてみる。すると、危険な程熱を持っているのに気がついた。

 慌てて上着を脱がし、リンジーに換えのシャツを持ってこさせ水に浸して着させると、カーンは多少気持ち良さそうに目を細める。


 それで(ひらめ)いたベルカンプは、

「カーン、3秒我慢して」

 と言うと半ズボンの前をガバっと開け、股間にコールドスプレーを噴射した。


 ううっと前につんのめるカーンの血の気が見る見る引いていき、止めに頭から水をぶっかけると、ほんわずかだがジュゥ~と音がし、水分が頭皮に吸収されていく。


 そこでピピッとアラームが鳴り、前のめりになったカーンがそのまま立ちがると、

「強烈だが、だいぶ頭がスッキリした。……後でもう一度やってもらうかもしれん」

 と言い残し、がに股で前線に歩いていった。





 シーラは手首を斬られて逃げてくる傭兵がいなくなり、もうやく一息ついたところであった。


 すると、脇の荒野を迂回して走ってくる一人の男に目が止まる。

 警戒の目を向けていると、その男は自分の部下のボストであった。

 そのボストがシーラの元まで来ると、信じられない報告を耳元で囁いた。



 カノー達30名が全滅……?

 どうしたらそんな事になるのかと信じられないシーラはボストの胸倉を掴み根掘り葉掘り報告させる。



 ボストはカノーに命じられ、南西の位置で単独で見張り役を任されていた。

 何か動きがあれば西壁にいる俺に報告にこいと言われ、ひっそりと闇の中で息を潜めていたのだが、不意に南門で相手の兵士らしき悲鳴があがった後、南壁を飛び越えて疾走する影を目にした。


 その影形と走り方がカノーに似てたものだから、援護しようとその疾走する男をするすると追うと、弓兵に撃たれて崩れ落ちるのを目撃する。


 自分も撃たれてはならないと咄嗟に隠れながら西門に移動すると、火傷を負い息絶えた傭兵の死体が転がっており、やはりカノーはおらず、先程弓兵に撃たれた男はカノーだったのだと確信をした。


 そのまま順に偵察を続けると北門にはナップの死体を確認し、東門にも2名の傭兵の死体を確認するが、ウォーの姿は見当たらない。


 西、北、東の砦壁のいずれにも見張り兵が立っていたので砦側の勝利なのは間違いないと思うが、カノーが南壁の内側から飛び出してきたようにウォーも中に進入出来てたとしたら、確実に相手側も相応の人的被害は受けているはずだとボストは訴えた。


「砦兵20名死傷と仮定しても、カノー、ウォー、ビッツ、ナップの損失……。なんだいこの割りに合わない取引は!」


 シーラの苛立ちは頂点を極め、やり場のない怒りをどこにぶつけてよいのかわからず震えはじめる。


 特にカノーとウォーと言えばガライでも名の通っている武芸者で、少数精鋭で徒党を組んでるシーラはその部下達の才能の豊かさで、ガライでも色物扱いされずに一目置かれている盗賊集団であった。


 その内の4人を一夜にして同時に失い、怒りから来る震えが寒気による震えに変わってくるのだが、それでもなんとか平静を装い、シーラは正面を見据える。


 おそらく、北、西、東側には大掛かりな仕掛けがあり、それによって仲間の多くを失ったと考えるのが妥当だと判断したシーラはますます南側からの突破が必要だと感じ取り、セジュに伝令を出して一斉攻撃を開始せよと命令した。




 カーンの正面に対峙する男の一人に伝令が駆け寄ると、辺りが騒がしくなり始める。

 皆戦闘の色を濃くした瞳を宿しはじめ、敵に殺意が沸きあがってくるのをカーンは感じ取った。


「15歩後退だ」


 独断でカーンが告げると盾兵と歩幅を合わせてそろそろと下がってくる。

 慌ててベルカンプ達も荷車を引き一定間隔を保つのだが、その最中にバゴン、バゴン、と盾が鈍い音をさせて悲鳴をあげた。


 音の原因はというと、後方の盗賊達が暗闇の中手探りで石を確保し、最前線と入れ替わって投石をはじめたのであった。


 女性達も荷車に積んであった予備の盾で慌てて身を隠し、流れ弾に当らないように身を屈める。

 カーンは投石の持ち球が無くなるまで1歩下がり盾の恩恵に預かっていたのだが、その内の一つが左舷の盾の上辺に当り、イレギュラーバウンドでカーンの左目を直撃した。


 剣を落とさず耐えたところでアラームが鳴り、カーンを椅子に座らせ左目を確認するとぎりぎり眼球には直撃しておらず、わずかに逸れていた。


「でもこれは……腫れ上がるかもしれないなぁ」


 心配そうに負傷箇所を見つめるベルカンプをよそ目にソシエが必死にアイシングをする。

 大丈夫大丈夫、見える見えるというカーンがさらに2ラウンドを終えて帰ってくると、完全に左目に覆いかぶさるぐらいに見事に腫れ上がり、目蓋は青々と内出血していた。


 これは処置が必要だと感じたベルカンプは女性陣を呼び出し、指示をするとカミュの所まで行く。

 カノーの件でホウガがそのまま居座ってくれていた為、背後をホウガに託すとカミュを前線まで連れてくる。

 ライターでソシエの投げナイフを炙っているリンスの脇を通り抜けると丁度アラームが鳴り、右目だけで見づらそうなカーンとすれ違いになった。


 入れ違いでカミュを盾兵の真ん中に据えると、

「みんな、5分だ。カーンの処置に5分かかる。なんとか乗り切るぞ!」


 ベルカンプは気合を入れなおす為に吼えた。


 対峙する盗賊達は初めて見る弓兵に一応盾を構える者も出てきたが、カーンよりも攻略しやすそうだとジリジリと間合いを詰めてくる。

 それを見たカミュは静かに弓を引き絞り、正面に放った。



 ――――ズドン。



 豪弓のような音をさせながら飛来した矢は正面の盗賊の右目を貫通し、矢尻が後頭部からはみ出る程であった。

 それを見た横の者が咄嗟にカミュに飛び掛るのだが、速射の技術もあるカミュにあっさり心臓を貫かれてしまう。


 この一連の行動を見てさらに飛び掛る者は無く、一端下がると盾を持っている者達がじわじわと間合いを詰めてくる。

 致命傷の部位を隠した5人がじわじわやって来られると弓兵としてはだいぶ分が悪く、足を射抜こうか思案していると脇からベルカンプが出てきた。


 ベルカンプは持っている長細い棒にライターを近づけると、それを前方の盗賊達に向ける。

 すると、ポンという音と共に火花が盗賊達のほんのわずか上空を通り過ぎ、慌てて盾を握りなおした盗賊の上空を2発目が通り過ぎる。


 3発、4発と続けて放たれる火花に完全に怯えた盗賊達は、盾に隠れながら必死で後ずさりし、8連発花火を打ち終えた時には、まさにカミュの間合いとなるぐらいの距離まで盗賊達は引いてしまっていた。


 カミュは火花が止まって安堵し、隙が生まれている盗賊を狙って一人、また一人と屠っていく。

 新たに4人が矢の餌食になり、これに慌てた盗賊達が再度陣形を組んでじりじりと間合いを詰めてにじり寄ってきた。


 二度目の8連花火を怖がってくれるか心配だったベルカンプだったが、背後から

「待たせたな、もういいぜ」

 の声を聞き、ほっと胸を撫で下ろす。


 見上げると、ナイフでざっくりと目蓋の血を抜かれ、止血の後にガムテープで強引に目蓋をおでこに引っ張られているカーンが見えた。

 酷く不恰好ではあるが左目はしっかりと見えており、視界を確保するには問題無さそうに思える。


「あの花火って奴だけど、なんで敵に当てないんだ?」


 5分休めて会話をする余裕が出てきたカーンが背中のベルカンプに尋ねると、

「実はあの花火って、見た目と違って威力が凄く弱いんです。直撃させて威力の弱さがばれちゃうと二回目が通用しないから、ギリギリを狙ってわざと外してたんですよ」


 ……なるほどな。というカーンの声への置き土産か、カミュが前線の一人の足の甲を打ち抜く。

 悲鳴をあげてすっ転ぶ盗賊にカーンは止めを刺し、それを見たカミュとベルカンプは満足そうに後退するのであった。

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