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四十五話 戦闘開始4

 バシャッ。水をかける音が聞こえる。


 油分が燃え切ったのであろう。勢いよく燃えていた砦壁の火柱が半分以下になり、それでもゆらゆらと燃え続ける西側の壁が、端から火の勢いが急速に収まっていく。


 3度目の水の音で我慢できなくなった9名の傭兵がそろそろと壁際に近づくと、砦の住民らしき中年の女性が端から水をかけ鎮火作業を繰り返していた。


 9名全員で目を凝らし何度も人気を確認するのであるが鎮火作業はその女性しかやっておらず、一定間隔で水をかけるタイミングも13度目でほぼ掴めて来ていた。


 これは好機なのではないかと9名の傭兵は意を決し、スクラムを組みながら一番初めに鎮火した壁に手を付いた。

 先端は既に炭化しており、丸太の内部からはジュゥ~とまだまだ熱を宿してる音が聞こえてくる。


 20m程離れた右方向で14度目の散水の音が聞こえた後、傭兵の一人は仲間の屈んだ肩に足を乗せると補助と共に立ち上がり、砦壁に手をかけた。


 手ににぶい熱さを覚えるが腕力だけで懸垂し壁の上に顔を出すと、鬼の形相で大鍋を抱えた兵士4人がこちらに突進してくる。


 4人の兵士達の苦悶の表情に一瞬言葉を忘れた傭兵が、

「に、にげっ」

 となんとか言葉を発した所で、熱さに我慢出来なくなった4人の兵士が傭兵めがけて大鍋ごと砦壁に叩きつけた。


 顔面に大量の熱湯を浴びせかけられ受身も取れずに仲間達の上に落下すると、同時に落ちてくる熱湯に足場になっていた連中全員がのた打ち回る。


 7人は動けないほどの重度の熱傷の為その場で兵士に止めを刺され、やや軽症だった2名は逃走を計り、夜が明けた後西の斜面の水汲み場で動けなくなっていた所を発見され、捕虜となった。


 西側と東側の報告を受けたオットーは火矢を持つと、北東と北西の上空に2度放つ。

 北側でその火矢を眺めていた生き残りは、カノー、ビッツ、ナップと傭兵2名だけになっていた。


 ビッツ、ナップは盗み、商人に化けるのに特化していて戦闘向きではなく、北門に突っ込む戦好きのならず者共を制止出来なかった。

 カノーは自分の配置ミスだったのかと頭を悩ませたのだが、それよりも、放たれた火矢の意味と相変わらずどこかで泣き声のする獣の対処の為、暗闇に集中し直していた。


 すると、北門の砦壁に弓を持った兵士がちらほら現れ始める。

 砦から兵士が斬り込んで来るのかと前方を警戒していると、なんとカノーの左後方から複数の矢が飛んできた。


 その内の一矢がナップの背中に突き刺さり、致命的な箇所ではないにしても戦意を削がれる。

 わずか40名程度の砦防衛側が、まさか自分達の背後に弓兵を控えさせる余裕があると考えもしなかったカノーが舌打ちをすると、今度は右後方からまたもや複数の矢が飛来し、傭兵の一人が二矢を浴びて地面に崩れ落ちた。


 背後に2部隊…………。


 一瞬固まるカノーにさらに追い討ちとばかりに、ゴウウの爪がナップの革靴を横薙ぎにし、ビッツの悲鳴でカノーは反射的に立ち上がると、

「北門に突っ込む! 走れ!」

 と、無傷の傭兵の背中を叩いて先頭を走らせた。


 蓋を開けてみるとわずか3名の弓兵を2部隊後方に隠してただけなので、本来のカノーならば一人でどうにでも対処出来る案件であった。


 だがテンポの良い背後からの三連打と、仲間の悲鳴で冷静さを失ったカノーは背後に絶望的な人数がいると錯覚し、罠が仕掛けられている北門に向かって走り出してしまった。


 傭兵を先頭にカノーが続き、背後にビッツが必死にくっついてくる。

 ナップは背中と足首の負傷で指示に反応できず、背後から近づいてきた弓兵に必死に抵抗を試みるも、最後には満身創痍で力尽きた。


 北門に近づくと砦壁から十数本の矢が飛んでくるのだが全速力で走っている3人にはいずれも当たらない。

 先頭を走る傭兵は門を越えてそのまま直進しようと突っ走った所でやはり足を抱えてうずくまった。


 カノーは心の中ですまないと念じながら傭兵の体を踏み台にして跳躍すると、南門に向けてそのまま駆け抜ける。

 北門から南門までの道には途中途中に松明が焚かれており、20m先には剣を構えて立っている兵士が待ち構えていた。


 カノーは走りながら抜刀し、通り抜けざまに兵士の首を跳ねあげるイメージを膨らませたところで、左右の上空から3m手前の地面に矢が突き刺さり、カノーは慌ててサイドステップでかわすと待ち構えていた兵士の剣が脳天に降って来る。


 体の重心を左右に振られたカノーは天性の運動神経でなんとかその剣を受け止めると、体勢を崩しながら腕の力だけで兵士の太腿を一薙ぎした。


 太腿を斬られ悲鳴をあげる兵士は、それでも根性でカノーの手首を蹴り上げ、カノーの剣を手から離す事に成功すると崩れ落ちる。

 カノーは落ちた剣を拾おうか迷うが、視界の先に抜刀したホウガとオットーが追いかけてくるのを見ると素手のまま南門に走り出した。


 途中に出くわした兵士の剣を体術で交わすとカウンターで相手の顎を打ち抜き、一瞬で気絶させる。

 ホウガ達にたいして差も縮められずに南門に到達したカノーは、南門の渡り廊下に続く階段を勢いよく登ると、そこにいた見張りの兵士をドロップキックで地面に突き落とした。


 ドスンという音と共に苦悶の声を出す兵士の声を聞くとカノーは通り抜けてきた砦内を一瞥し、そのまま南壁を飛び越えた。


 せめて奴らに背後から一撃でもと、腰から短刀を取り出し南門からシーラの所まで続く道を疾走すると、道の先にうっすら明かりが見える。


 敵を視認したカノーが殺意を溜め込むと、

「カミュ! 敵だ! 手ごわいぞ!」

 と、背後からホウガの怒鳴り声がカノーを通り過ぎた。


 二つの明かりの一つがこちらを向くと目を細めるほどに明るくなり、カノーの目の前には弓を構えた兵士が一人立っている。


 弓兵ならば初矢さえかわせばと、走力をやや抑えサイドステップを踏める準備すると、弓兵の後ろから音がする物体が飛来し、自分の目の前で爆発した。


 カノーは初めて見るモノにやや体勢を崩すが、その後に女性が投げつけたナイフをまだ余力の半分程を残してかわす。

 後はこの弓兵の弓をかわすだけだと短刀を握る手に力が入るのだが、その途端にセジュの前で閃光が走り、ズドン、と言うまるで豪弓のような音が聞こえた。


 胸に鈍い衝撃を覚え視線を下ろすと、心臓には深々と矢が刺さっている。


(またしても、敵の力量を見誤ってしまった……)


 口から血を吐き、自虐的に口角をあげて地面に崩れ落ちたカノーは、そのままその生涯に幕を閉じるのであった。

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