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四十四話 戦闘開始3

「オットー隊長。西、東、北から均等に約10名づつ。じりじりと歩幅を合わせて接近して来ます」


 各方面からの報告をまとめた見張りの一人がオットーの脇で発言し、元の持ち場に駆け出していく。


 30か…………。


 独り言で呟いたオットーは、

「防衛戦を止め、殲滅戦に切り替える! 西門に弓兵2名を残し砦壁に火を放て! 北門を開門せよ」


 周囲にやや怒号を混ぜた声色で叫んだ。


 ベルカンプ達が前線で多勢相手に戦ってくれている。


 防衛に有利な砦側が同数の敵にのらりくらり守っていては、後に敵の数を減らして戻ってくるベルカンプ達に比べて明らかに仕事不足であると考えたオットーは、30人全員を殲滅出来る作戦に賭けて見る事にした。


 西門にいる兵士が砦壁に火を近づけると、昼間に塗っておいた油のせいで勢いよく燃えはじめる。

 油分の発火のせいで火柱は2m近くにも及び、こちらから盗賊が乗り越えて来るのはかなりのリスクが必要と思われた。


 一方開門した北門はぽっかりと盗賊を迎え入れるか如く開ききり、東門は静けさを保ったままである。

 配置の終えたオットーは相手がどう出るかと、弓を緩く構えながら静かに北門を見つめていた。





 カノーはいきなり炎上を始める西側の砦壁に目を剥いた。


 北と東に回ってる仲間の仕業にしては早すぎるし、火の勢いが通常より激しいので、おそらく何か砦側の意図があるのだろうと判断した。

 カノーは9名の傭兵達に火の勢いが収まるまで待機し、その後好機が来たら攻撃しろと命じ、自らは北側に移動を開始する。


 少々迂回し北門がギリギリ見える位置まで来ると、何故か北門が開門しており、連れてきた屈強な男3名が盾を構えながらまさに今前進するところであった。


 仕掛けが無いはずはないのだが、舐められていると解釈したプライドの問題なのだろうか、3名は北門へじりじりとにじり寄っていく。


 3名は門前まで来ると打ち合わせしてたかのように門を超え、直進する者、左折する者、右折する者と3方に走り抜けようとするのだが同じ所ですっ転び、足を押さえてうずくまった。


 カノーの視界から消えた3名の場所から鈍い音が何度も聞こえ、やがて静かになる。


 その3名が突っ込んだ後、後ろから援護しようと弓を構えていた4名が呆然と立ちすくむのだが、その背後で「チウ」と声がしたかと思うとアキレス腱に鈍い痛みが走った。


 背後の暗闇から急に襲われて恐慌状態に陥った4名の内2名は正面の北門にそのまま突っ込み、先程と同じように争ったような騒音の後、静かになる。


 一瞬で5名を失い、眩暈を覚えるカノーは北門を指揮していたナップの所に行くときつく叱責をするのだが、時折背後で聞こえる「チウ」という声のせいで説教に身が入らない。


 シーラから指示されていた、敵兵をいくらかでも南門以外に引き付けるというごく簡単な役目なはずだったのだが、北門には兵士の一人も目視出来ず、しかも開門すらしている。


 後方からはモグラ族の鳴き声が時折聞こえており、不用意に動くのは適切ではないと本能が警笛を鳴らすのだが、この自分達の体たらくにカノーは唇をきつく噛むのであった。





 モグラ族アハリのゲリラはウォー率いる10名の背後に穴を掘り、身を潜めていた。


 ベルカンプがコルタにも聞き取れる名前を付けてくれてから時折、自分を見つめる目が他人のそれと違うのをゲリラは気づいていた。

 あの申し訳無さそうな瞳の意味はなんなのだろう? 一つ言えるのは、自分は他の5匹とは確実に何かが違うのだとはっきり感じる。


 わさびと言う気絶する程の美味しい薬味を貰い、コルタの名前をくれた少年の意図は計り兼ねるが、ゲリラは他の5匹より明らかに張り切っていた。


 ゲリラは息を潜め東門の前で固まる10名の背後に忍び寄ると、「チウ」と叫びながら盗賊の一人の足首を一閃する。

 ぎゃぁと盗賊の一人が前につんのめって自分の足首を確かめると、ふくらはぎの辺りから血が滲むのが確認出来た。


 慌てて散らばる10名の盗賊達。

 無防備とはいえ、ずっと砦側に背を向けるのも恐ろしいと、それぞれがくるくると体の向きを変え続ける。


 ゲリラはその一人一人に忍び寄り何度も足首に生傷を負わせては、予め掘っておいた穴に退避するのを繰り返していた。


 いくらモグラ族の立派な鍵爪とはいえ、腕の筋力だけで横薙ぎにするだけでは、革靴を突き破ってアキレス腱を切断するまでには至らない。

 とは言え、このままジリジリと一晩中削られ続けるのは堪らないと、ウォーはとうとう東門へ仕掛けることを決意した。


 二人一組になり砦の東壁に到達するのだが、壁に触れる位置に来ても攻撃どころか見張りの兵士すら見当たらない。


 砦の反対側が炎上しているようだし、これはもしかしたら本当にこちら側には誰もいないのかと、3箇所に分かれて7名が砦壁を乗り越えた。


 乗り越える際手にぬるっとした感触がして、それが油だと気づいたウォーは燃える西門を見つめ、しまったと心の中で舌打ちをするのだが今更戻るわけにはいかず、6名の後に続いた。


 砦壁を越えた盗賊達は東門を守る為の板状の渡り廊下をするすると移動する。

 すると板に塗ってあった油に先行の2名が足を滑らせてしまい、つるっと内側の地面に落下した所で待ち伏せていた兵士の刃にかかってしまった。


 待ち伏せを確認した残りの盗賊2名が油の塗ってある板を飛び越え、さらに横に展開しようと小走りをした所で今度は踏み抜いた板が抜け、地面に落下する。


 2名は深さ2mの落とし穴に落ちてしまい、足を挫いて地面に這い出すのが遅れてしまった所を沸騰した熱湯を住民に浴びせかけられ、穴の中で絶叫しながらのた打ち回り、暫くの後に気絶した。


 それを見た残りの3人が渡り廊下から飛び降り、民家の小道に逃げ込もうと目の前の通りに突っ込むのだが、そこには今にも熱湯をぶっけかけようと待ち構えている5人の住民が目に入り、慌てて2人は小道の手前で90度反転し、それぞれ右と左に曲がった所で兵士の横槍の待ち伏せにあい、それぞれわき腹を突き刺されて大地に崩れ落ちた。


 残るは最後尾にいたウォーだけになったのだが、一連の仕掛けを見たウォーは自分が生き残る考えを捨て、壁を背に仁王立ちとなり抜刀した。

 その構えは威風堂々としていて隙も無く、熟練者のそれと見て取れる。



 ウォーは視界を180度展開させる。


 松明が所々焚いてある砦内は程々に明るく、左に2名、正面に3名、右に1名の兵士が自分を囲んでおり、長屋の屋根に弓兵の姿は見当たらず、背後に住民が熱湯入りの桶を抱えているのが見える。


 砦の兵士階級如き、自分の腕なら10名は道連れに出来ると踏んでいたウォーは、背後に控える熱湯だけは気をつけねばとそちらに注意の比重を傾けていた。


 じりじりとウォーと兵士の間合いの取り合いが始まり、誰が最初に仕掛けるかと踏み込みの奪い合いをしていると、風斬り音と共にウォーの右の肩口に矢が突き刺さり、鎖骨が折れる音がした。



 …………空?


 ウォーの警戒範囲の外である上空からの攻撃に不思議そうに空を見上げると、長屋の屋根の上に三本の細い丸太で櫓を組み、その上から矢を放ったであろうヨーガを確認した。


 細い丸太には黒の着色が施されており、暗闇に溶けこみ一瞬で視認するのは酷である。


 利き腕の鎖骨をやられて敗北を悟ったウォーは剣を投げ捨て、

「火傷で苦しみながら死ぬのは嫌だ。すまないが、介錯を頼む」

 と、左腕で短刀を握り締め、自分の首に刺して地面に倒れこんだ。


 それを見た正面に対峙するホウガがウォーの首を両断し、東側から乗り込んだ全員の死亡が確定した。


 東砦外側に残った3名はというと、3名ともゲリラの爪で片足を負傷しており、長い時間モグラ族の鳴き声に怯えながら少しづつ、少しづつ体の一部を引っ掻かれ続ける。


 やがて恐慌状態に陥ってちりじりに逃げると、1名はゲリラの爪の餌食に、2名は見張りに戻ってきた砦の兵士に射掛けられて絶命するのであった。

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