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三十八話 完全分業制

「カーン、先程20人程度なら道連れに出来ると言ったけど、力尽きる理由ってやはり体力?」


「まさにそうだな。相手が体勢を整えて来ると、周りを囲んで個人で斬り込んでこねぇんだ。それで背後の奴ばかり攻撃して来やがって、グルグル回りながら剣振り回してると……いずれ体力ばかり削られてって感じだな」


 ふむ、なるほど。と一人納得したベルカンプは、

「明日の作戦なんだけどさ、異世界にはボクシングっていう拳で殴りあう競技があるんだ。その競技方法なんだけど、3分戦っては1分休んでってのを繰り返すんだ。きっと、その間隔で休むとニンゲンもコルタも長く戦えるんじゃないのかなって思うんだよ」


 全員がポカーンとする。


「おい。途中の意味がわかんなかったぞ? さんぷん? いっぷん? なんだそれ?」


 全員もうんうん、と相槌を打つ。


「それを説明するのにですね、段階をいくつか踏まないといけないの。3分、1分ってのは時間の長さの単位なんだけど、先ずは皆さんに地球で使われている数字を暗記してもらいます」


 何人かはウッ、と露骨に嫌な顔をし、カーンなんかは既に顔面蒼白である。


「大丈夫大丈夫、異国の文字と恐れないでいいよ単純な記号だから。基本は11個だけ覚えればいいんだよ」


 先に書いて見せた方がいいなと、持ってきたノートにゼロ、イチ、ニ、サンと声に出しながら数字を書き込んでいく。


 …………あれ? 意外と簡単な記号だぞ? と表情を持ち直す一同に、

「日が落ちるまでにこれだけはやっておきたい。各自目の前の砂場を正し、この記号を書いて覚えよ」


 少しきつめの言い方をしたお陰で、文句が言いたそうなカーンもとりあえず砂に指でなぞって文字を写していく。


 2、3度書いただけで覚えたソシエは、

「これって小学の試験に変な計算方法で解いてた記号よね? あれって数を表す記号だったんだ」

 と、記憶力の良さを披露した。


 覚えた者から個人指導で10から先のパターンを教え、これも簡単なパターンであった為、みんな元気を取り戻していく。

 最後に残ったカーンも横をチラチラ見ながらなんとか10から先のパターンを理解していき、全員が合格した所で次の段階に入った。



 ストップウォッチを水戸の印籠のように前面に押し出したベルカンプは、

「全員、ここの数字に注目!」

 と言いながらストップウォッチのスイッチを押すと、数字のカウントが始まる。


「お、おおぉぉぉ~」


 全員数字が進む不思議な機械に見とれつつも、今やったばかりの勉強を思いだし、何が起こってるのか理解をし始めた。


「57……58……59……60!」


 ベルカンプが音読して60まで数えたのと同時に、60を刻んだ機械からピピッ、と電子音が流れた。


「皆さん、これが1分です。大体の時間の感覚、掴めましたか?」


 まぁ……なんとなく……と周りの皆と顔色を合わせるのだが、

「1分か。思ったよりみじけぇな。一息ついて水を一口って感じか」


 カーンが素直な感想を漏らした。


「そんなもんかもね。じゃぁ3分戦って1分休むのを実際やってみよう」


 ベルカンプはカミュ以外の全員を横一列に並べ、適当に体を動かさせる。


 やがて3分のアラームが鳴り、

「カーン戻れ! 他の前線の者は1分後のカーン復帰までその場を死守せよ」


 のろのろと戻ってくるカーンを横目に、

「カミュ、前線の援護を頼みます。この1分の死守はカミュのセンスにかかってるんだ」


 強めに声をかけカミュにイメージさせる。

 カミュが意味を理解し、空の弓を構える仕草を始めだした。


「おいおい、もう休んでいいのかよ。3分もみじけぇな」


 余裕着々のカーンを目の前の椅子に座らせると、

「ソシエ、リンス、リンジー、リタ。この1分が貴方達の持ち場です。この余裕のカーンがその内手傷を負い、疲労困憊で帰ってくるのを少しでもサポートするのが目的です。傷の手当、給水、疲労箇所のマッサージ、4人で手分けして作戦を立ててみてください」


 それを聞いた4人が円陣を組み始め、作戦会議を始める。

 何もやる事がなく鼻くそをほじっているカーンにベルカンプは問いかけた。


「カーン、武器は両手剣ですか?」


「あぁそうだな、ひ弱な奴なら受身を取られても腰の骨ごと折れるから便利なんだわ」


「そうなんだ? だけど明日は片手剣両手持ちでお願いします。振りかぶる体力が勿体無い」


「え? そうなんか? ……まぁ二刀流も一応鍛錬はしてるが……いう通りにやってみっか」


「ちなみに、相手の剣を受け止めるのも原則禁止です」


「なんだと? 無茶いうなよ、そんな戦闘聞いた事ねぇぞ」


 ピピッ。ここで1分のアラームが鳴り、

「もう1ラウンド行きます~」


 ベルカンプは大声を出すとカーンを立たせ、前線に走る。


 ベルカンプは壁に立てかけてあった棒を握り締めると盾兵の前に立ち、

「カーン、二刀流のイメージをして。敵が斬りかかってきたら一歩下がる」


 めんどくせぇなと思いながらも、カーンはしぶしぶ両手に剣を持ったポーズをとる。

 それを見たベルカンプは思い切り踏み出し、カーンに一撃浴びせようと飛び掛る。

 なんとなくだが、言うとおりにカーンは一歩引いてみた。


 バスッ!


 6歳の少年が振り下ろした棒は左右の盾の兵士に素手で取り押さえられ、

「カーン、僕の胴体は今完全に無防備ですけど、その両手の剣でどうします?」


 意味を理解したカーンは音速の速さで踏み出し、幻影の剣でベルカンプの腸を突き刺した。


 ウッ…………。


 カーンの本気の気合にベルカンプは2、3歩後ずさりし、本当に刺されてないかお腹を弄ってみる。


「ハハ。剣の残像でも見えたか? ならおまえにも戦闘のセンスはあるのかもな。ようやくおまえの意図がわかったぜ。こいつらと連携して、防御はこいつらに全部任せろって事だよな?」


 お腹をさすり、何もなってないのを確かめると

「そうです。完全分業制で行きます。攻撃は全てカーンとカミュ、防御は盾の12名で全て賄います」


 盾の兵士も理解を示し、ベルカンプは右舷の舵取りをララス、左舷の舵取りをカルツに任命し、それぞれ5名で守らせ1名を休憩に充てて上手く回すように指示をした。



 ピピッと3分のアラームが鳴り、カーンが後退する。


 ベルカンプは帰り際にカーンの左腕に泥を塗り、

「カーン、左腕に刀傷。中度の疲労、右足に違和感!」


 え? っとなりながらも椅子に座ったカーンに、勘の良い女性陣は見事な連携をとっていく。


 水で洗い流した患部に布を巻いていくリンス。

 足の違和感と聞きアキレス腱とふくらはぎを触診し、マッサージしていくソシエ。

 カーンから剣を取り上げ、血糊を布で拭き落としていく真似をするリタ。

 カーンの顎を持ち上げ、うがいをさせた後経口補水液(スポーツドリンク)を一口飲ませるリンジー。


 キュッと布を締め上げた所でピピッとアラームが鳴り、

「皆さんお疲れ様でした。とりあえず流れはこんな感じです。感触は掴めましたか?」


 全員がうんうんと頷き、カーンは特に女性陣の世話にいたく感動したらしく、

「こんだけサポートがしっかりしてやがるんだ。半端な真似はできねーぜ」

 と、二刀流の練習がしたいと自宅に戻っていってしまった。


 ベルカンプはやれやれと思いつつも、残りのみんなで1分、3分の体内時計の練習を繰り返し、日が完全に落ちた所で解散となった。


 2時間後、息を切らせて走ってきたカミュは、

「この水、凄くいいぞ。いつもより体から力が抜けていかないのが実感できる」

 との評価を頂き、経口補水液(スポーツドリンク)は無事採用となった。

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