三十四話 美味い水
「カーン! 動きがありました! オットーは盗賊らしき者2名を連れて帰ってきます」
「脅されている節はあるのか?」
「いえ、ベルカンプもオットーの背中にいますし、危機迫る様子はありません」
後ろで聞いていたソシエがほっと胸を撫で下ろす。
「各門、警戒を怠るな! 東、西、北門に弓兵3名配置。南門は俺が見る」
カーンが指示を飛ばすと兵士達は手馴れたようにそれぞれ散らばっていく。
無造作に兵士から双眼鏡をもぎ取ると10秒ほど自分で確認し、兵士に戻した。
やがてオットーら一向が南門まで来ると、オットーはカーンに手を挙げて合図する。
ギギギと門が開き、全員が入場していく。
「そこの道を直進だ。進んでくれ」
下馬したオットーは前の二人に話しかけると、オットーにカーンが横付けしてきた。
オットーは歩きながら手短に一連の説明をすると、聞き終わったカーンがクソッ! と一声苛立つが、それ以降は感情を押し殺して2名に同道した。
「56……57……58……59袋か。ではこの小麦は持ち逃げ厳禁ですよ。それとそこの干し肉もです。数が足りなかったら追っ手を差し向けるんでその御覚悟で」
セジュはおそらく総大将であろうカーンを睨みながら告げた。
「あぁ、わかったよ」
機嫌が悪そうに返事するカーンを横目に、
「そういえば、そちらの第二陣はいつ到着するのだ?」
オットーが真偽を確かめる為に質問を投げかけた。
「さてね。ですが第二陣を心配する必要があるんで? この兵力差でそれはいらぬ心配と思うんだが?」
セジュはそう言うと視線を一周させる。
周りの兵士は無言で睨みつけるのだが、それ以上は何も出来なかった。
「では退場頂こう。約束の通り、翌日の日没時に返事を持っていく」
オットーに急かされ南門に踵を返す2名であったが、セジュは汲み置きの水樽を見つけるとその水を口に含んだ。
「放った斥候の言うとおりだ。水だけは美味いなこの砦は」
以前ゴヤが話していた受け売りなだけなのだが、この砦の調べは既に付いているという含みは砦の住民の士気を下げるのに十分に効果的であった。




