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三十三話 シーラの論戦

「シーラ、そろそろ砦に着く頃だ。集団を脇に隠して休ませ、ゴヤかセジュを斥候に出した方が良い頃合いじゃないか?」


 バロルが助言をする。


「そうだね。ゴヤ、行ってくれるかい? おまえぐらいの子供が一人砦に入っても誰も怪しみはしないさ。堂々と砦の中を探っておいで」


 任せとけ! とゴヤは自慢の足で駆けていくのだが、目視出来るぎりぎりまで駆けていったゴヤが同じ速度で戻ってきた。


 どうしたんだ? とシーラは立ち往生するのだが、ゴヤの声が聞こえる位置まで来ると、

「ばれてる! 馬が一頭走ってくる」

 と、ゴヤの後ろから一頭の雌馬が駆けて来た。


 シーラは思わず舌打ちするが、今更隠れようもない。

 シーラ率いる158名は馬の到着を道のど真ん中で待ち受ける事となった。



「お尋ねする。私は砦の副将を務めるオットーという者だが、この先の砦に何か用であるか?」


 見ると、そこそこの身なりの兵士風の男の首根っこに、ゴヤの半分の年ぐらいの少年が必死でしがみ付いている。

 恐怖で震えているのだろうか? 兵士の耳元で少年は何度も呟いていた。


「用と言えば用だね。お前達の砦をちょいと拝借しようと思ってね。どうだろう? お互い殺しあうのも不経済だ。無抵抗で明け渡すなら一日ぐらい待ってやるけどどうだい?」


 先にばれてしまった以上、迎撃準備された砦に攻撃を仕掛けるのも効率が悪い。

 シーラは正面切って脅す方に切り替えた。


 後ろに控えているならず者達も一応は戦闘を生業にしている手前、歩き詰めでヘトヘトなのを隠し、今からでも襲いますよと表情をギラつかせる。


「クリスエスタ管轄の砦を奪うという事の意味はわかっているのか? ガライは、クリスエスタと戦争になるのだぞ?」


「あたし達は確かにガライの住民だけどね、その二つの都市の関係がどうなろうと知ったこっちゃないんだよ。あたし達に無抵抗で砦を明け渡し、あたし達が他の奴に砦を売り渡した後に奪い返してくれたら言う事ないんだけどねぇ」


 不適な笑みを浮かべながら答えるシーラ。


「たったそれだけの人数で、砦を奪えるとでも思っているのか?」


「おっと、これだけの人数じゃ足りなかったかい? あたしはてっきりこの第一陣(●●●)だけで足りると踏んでたんだが?」


 ハッタリをかますオットーに、ハッタリで返すシーラ。


 言葉が出なくなったオットーに、

「……そうだねぇ。あたしは今機嫌がいいからね、特別サービスしてやるよ」


「…………どういう事だ?」


 オットーが話しに乗ってきた。


「実は後ろの連中にね、砦の女、子供は報酬の一部として好きにしていいと言ってたんだけどね、おまえらが無抵抗で砦を明け渡すなら一切手出しはさせないよ。個人の荷物も目を瞑ってやる。その代わり、食料庫の食料の持ち逃げは許さないよ!」


 どうせこんな貧乏砦、資産の持ち逃げをされた所でたかが知れている。

 それよりも無傷での放棄、食料の奪取の方が遥かに実利になるのだ。

 個人の荷物を許してやればそれだけ相手が折れやすくなる心理的逃げ道も用意してやり、実に良い一手であった。


「……私は副将だ。決定権は私には無い。一日待ってくれれば返事が出来るが」


 折れた! シーラは心の中で膝を叩いた。


「そうだねぇ。ではこちらから二人、砦に同道させてもらうよ。食料庫の中身を誤魔化されたら適わないからねぇ。それと砦門が目視出来るギリギリまで前進させて貰う。砦に同道した二人が無事帰ってきたら明日の日没まで返事を待ってやろうじゃないか。半日経っても二人が帰ってこなければ、それが開戦の合図としようかね」


「こちらからも言わせて貰うが、今言った内容を少しでも違えば、食料庫を燃やし我々は命賭けで近隣の村へ援助を請いに奔走するぞ。砦から意気揚々とガライへの岐路に着く道すがら、クリスエスタの騎士団に蹂躙される想像を是非して頂きたい」 


 この砦の近隣の村の一つにベナンがある。

 ベナンまでたどり着いてしまえば、リラに滞在中の騎士団の耳に入ってしまうのは容易に想像が出来た。


「負けず嫌いだねぇ、言うじゃないのさ。こっちはこれから荒くれ者のこいつらに女の褒美を諦めさせるのに骨を折る所なんだよ。あんまり偉そうにしてるとこのまま雪崩れ込むけどそれでもいいのかい?」


 本当は疲労困憊で雪崩れ込む余裕など毛頭ないのだが、シーラは強がった。


「…………では、付いて来る2名は誰なのだ?」


 オットーはこれ以上の挑発は悪手だと思い、交渉を前に進めた。


「セジュ、ゴヤ、頼んだよ」


 シーラの脇に控えていた二人が前に出て、オットーを通り抜けて砦方面に歩き出した。


「では、明日の日没時に返事をする」


 オットーはシーラにそう告げると馬を反転させ、先行して歩く二人の歩調に馬を合わせた。

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