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二十話 ヨーガとハナ

 あれからピエトロは深夜に一度、お忍びで訪れた。

 自分に密偵がついていた事を詫び、今回のオットーの配置替えは自分がベルカンプに執着しすぎたせいかもしれないとさらに詫びた。

 

 いやいやいやと、3人で手を振りながら否定するのであるが、済まなそうにそそくさと退室しようとするピエトロにベルカンプは動物図鑑をチラつかせると、子供のように目を輝かせたピエトロは結局朝日が昇るまでオットー宅に居座る事になる。


 地球の見たこともない生物に一喜一憂したピエトロは、

「マチュラにも似た生物が沢山いる。ニンゲンとコルタもそっくりなように、生物の進化の形状はどこも似たような道を辿るのかもしれないな」

 と、感想を述べた。


 ベルカンプに私もマチュラ地図の精査の為、明日クリスエスタを出発する。この埋め合わせは必ずすると誓ったところで、ベルカンプもピエトロとの約束を思い出し、野宿が続くようですから火打ち石の代わりに使ってくださいと、マッチ箱一掴みを差し出した。


 使い方を説明する為にマッチ棒をこすり、一瞬で手の中から火を生み出したのを見たピエトロは、

「おまえの方が魔術師のようだな」

 と、喜んでそれを受け取ったのだった。




 道中でソシエの友人とお別れの為に数分街中で停車した以外は特に何事も無く、3人を乗せた馬車が西門前に到達すると2台の馬車が出迎える。


「今回この二家族が私達と一緒に異動してくれる事になった者達だ」


 下車したオットーが二人の前に行き、敬礼を受ける。


 中肉中背の目の鋭い丸刈りの男の前に行くと、

「オーガスティ家のヨーガと嫁のハナだ。ヨーガの親が大工でな。向こうで砦の修理などの期待をして帯同して貰った」


 ソシエとベルカンプは二人にお辞儀をし、これからよろしくお願いしますと握手をする。

 

 オットーは続いてはとヨーガよりやや長身でオールバックの男性の横に立つと、

「ドラメンティ家のホウガと、嫁のリンスと娘のクラリスだ。リンスとクラリスは野草の知識があるらしく、薬草や食べれる野草の発見に期待している」


 同じくよろしくお願いしますと握手を交わす。

 クラリスは年頃が14~5といった頃のそばかす顔の純朴な少女といった感じで、リンスの親が開拓民の出身で幼少期に厳しい自給自足の経験があるらしく、街中の生ぬるい暮らしに少々退屈していたところであったらしい。


 我が父ながら適切な選抜だなと関心したベルカンプは、現地に着くまでにもっと親交を深めたいとヨーガの馬車に同乗する事にした。

 西門にもオットーと面識がある兵士達がいくらもおり、軽い審査を受けて出門する時は敬礼で送り出してくれた。




 西門を抜ける3台の馬車に剥き出しの自然の風が吹き付け、ベルカンプは思わず目を瞑る。


「ベルカンプさん、貴方は門外に出るのは初めてですよね? どうですか? 外の景色は?」


 手綱を握りながらヨーガはハナと自分の間にちょこんと鎮座するベルカンプに声をかける。


「管理されてない自然って険しいですね。僕が異世界の知識があるのはご存知でしょうけど、僕の住んでた世界の自然とは偉い違いです。こういう土地を切り開いて人が住めるようにするのは、凄まじい知恵と労力と、お金を使うんでしょうね」


 ハハハとヨーガは笑う。笑うと目が無くなり、一気に愛嬌が出て親近感が沸いてくる。


「6歳とは思えない推察力で本当に関心します。実際に会って話してみると、こうも印象が違うんですね」


 ヨーガも風貌とはかけ離れた丁寧な口調でそのままそっくりお返ししたい気分のベルカンプは、

「恐れ入りますが、勘弁してくださいよその話し方。オットーは貴方の上官ですけど、僕はただの小僧なんですから」


 わざとちょっと悪びれてみた。


 すると、

「じゃぁ……よろしくね、ベルちゃん」

 頬をプニプニつねりながら人懐っこい笑顔をしたハナがちょっかいをかけてきた。


「よろしく、ハナさん」


 暫く頬をプニられてたベルカンプであったが、子供がいないハナが割りとしつこくちょっかいを出してくるので

「そろそろやめないかハナ、旦那が隣りにいるだろう。続きはベッドの上でだぞ」

 とカマすと、ヨーガは過呼吸になるぐらい爆笑した。


 残りの2台の馬車も何事かと覗きこむぐらいであったが、ようやく落ち着いたヨーガは

「いやぁ、面白いなベル。正直子供なんて欲しくもないと思ってたんだが、子供を脇に乗せて手綱を握るのがこんなに心地よいものかと勉強になったよ。子供を生み、育てるメリットってこういう心の得? みたいなものなのかもな」


 僕にはよくわかりませんが、お役に立ったなら良かったです。ハナ、今夜は寝かさないよ。と言うベルカンプに再度過呼吸に陥るヨーガであったが、

「そういえばベルちゃん。異世界の転送術って成功したの?」


 ハナが閑話休題した所でようやくヨーガの心拍数が整ってくる。


「うん。成功したよ。昨日の夜も向こうの入れ物に質量を感じたので転送術をしたから数日後に届くはずなんだけど……」


 送る方は難しくてさ、まだ練習中ですと言うベルカンプはポケットから100円ライターを取り出す。


「とりあえず一度目の転送で送られてきた物で、役に立ちそうな物はこれぐらいかな?」


 そう言うとシュボっと手の中に小さな火を出してみる。


 おお~と二人の歓声が上がり、

「頼もしい。これで夕飯の火起こしはベルの担当だな」


 え? 僕の仕事速攻で終わるじゃん。ハナ、ヨーガが薪を集めている間に木陰で用事がある。と三度ヨーガを半殺しにし、ヨーガ夫妻から異世界の質問をいくつかされるとやがて開けた場所で先頭の馬車が止まり休憩となるのであった。

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