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(前半)一話 幸太と栄太

 夜風にあたっているのだろうか? 顔は冷たく体は何かに包まれているのか、心地よい温度だ。


 それに、軽い振動もする。なんだろうこの感じ。


 寝起きのような感覚に頭がうまく回らない。


 あ、思い出した。この揺れは誰かに抱かれながら歩いてるんだ。


 心地よい上下振動にウトウトしているとやがてその揺れは止まり、20呼吸もしただろうか? 不意に床に置かれてしまった。


「グルシ ヴァッサ ボルグゥ」


 ……え? 外国人?


 聞きなれない言語に混乱していると、立ち去ろうとしてる女性が振り返り、

「ボルグゥ」

 と、もう一度だけ呟くと駆け出して行ってしまった。



 なんとなく理解できてしまった。俺は今、捨てられたんだ。


 きっと「ボルグゥ」は、(ごめんね)とか(許して)に近い意味なんだろうな。


 しかしなんでだ? 俺の直近の記憶は確か……


 色々思い出そうとするのだけれど、体に違和感があるせいなのかすぐに眠たくなる。


 視界も良好なのだが、瞼が重くてずっと開けていられない。


 今の状況を考えながらまたウトウトしていると、不意にふわっと宙に浮く感覚がした。


 しかし、背後から抱きかかえられたんだな、と理解しつつとうとう瞼を開ける事ができなかった。






「やべぇ。えらい場違いなとこに来ちまった」


 通り過ぎる同年代の制服は、TV番組で見る、ニューヨークに行きたいかー! で見たことのある有名校ばかりだ。


 種後島宇宙センター、JJAXAの休憩室の椅子に腰を降ろすと、双子の兄幸太は後悔の念を呟いた。


「部費で旅行費が無料ってとこまでは妙案だったんだけどねぇ」


 弟の栄太は嬉しそうに二人の前を駆け抜けて行く顧問の大山を一瞥(いちべつ)して返事を返す。


「しかしほんと嬉しそうだね、大山先生」


 そう言いながら栄太はカップの自販機で砂糖、ミルクをMAXまで増量にしてコーヒーのボタンを押した。


「公立のウチの学力なんて中の上だろ? そのレベルの学校が見学の応募をして当選する確率って結構えぐいんじゃねぇの?」


 入れ替わりで幸太は落ちてくるつり銭に自分の小銭を足して、氷抜きでコーラのボタンを押す。


「おい! 俺の釣り銭! あと、中の上じゃなくて上の下な」


 いやいや中の上だろ、いやいや、と何度か押し問答しながら二人はなんとなく会館の外に出てみた。



「あ、あそこ行ってみようぜ」


 幸太が差す方向を見ると、緩い丘に寝転んだら気持ち良さそうな芝が敷き詰められている。


「ロケットとかの打ち上げの時、あそこで寝転びながら見たら圧巻かもな」


 いや、打ち上げ場所たぶんここじゃねーし。とかワイワイ言いながらやがて丘に到着し、芝生に腰掛ける。


「大山先生に言わないで良いの? ……いいか、携帯番号知ってるし」


「まさかこの双子が、共に宇宙飛行士になるとはこの時誰も思わなかったのであった」


「宇宙を目指す兄弟……そんな漫画既にあるし!」


「ハハハハハハ」


 案外大山先生が、双子を連れて行きますのでって提出して、JJAXAが悪乗りしたんじゃね? なんて話題で散々盛り上がると、

「今日はどういう実験をするんだっけ?」


 栄太は兄にパンフレットを読めと急かす。


「え~ まぁ~ かいつまんで言うと、タキオンという素粒子を宇宙ステーションまで飛ばして、速度を測る実験だな」


 パンフレットなんか見るまでも無いと答える幸太。


「本当に光より速いんかね? そのタキオンってのは」


 宇宙飛行士に興味がない栄太も、そういう話しには一般的に興味があるらしく話しを膨らませてくる。


「第一、計測方法すら俺にはわからんけど、光より速い物質が見つかれば移動に何光年かかるっていう原則が崩れるわけだろ? それはワクワクするよな」


「そうだなぁ。速さの最速値が何光年から何タキオンになるってわけだろ? 光より早いとワープが可能なのかな?」


 話しの終わりを待つかのように○○時より実験を開始しますとアナウンスが入り、わかりやすくタキオン発射時に音を出してくれるらしい。


 同時に顧問の大山から着信があり、折角なんで丘で見てから戻りますと言うと携帯を切った。


 暫くしてわかりやすい準備音が鳴り響き、止まったかと思うと、バシュっと軽い衝撃音が流れた。


「ん? 今のでいったのか? ほんと擬似音だしてくれないとなんもわかんね~な」


 相槌を貰おうと隣を待っていたのだが、暫くして返ってきた返事は、意識を失って幸太にもたれかかってきた栄太の体であった。

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