表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/52

十一話 原因はタキオン同士の事故?

「申し訳ありません。実は、あの実験について黙ってた事があります」


 不意に西田が発言する。

 皆、仕出し弁当の残りを片付けようとしていた時であった。


「実は、タキオンの発射実験は計4回行われました。2回、3回、4回目の発射量に対する観測量は、平均で98,6%です」


 含みを持たせた言い方に大山が飛びつく。


「それで、一回目は?」


「……39,2%でした」


 大山が目を剥いた。


「という事は、タキオンが暴走して栄太の体を貫いた有力な証拠になるんじゃないですか?」


 大山の発言に担任の渡辺も追随する。


「それって損害賠償問題に発展したりするんですか? JJAXAの西田さんがお答えになるって事はそちらの非を認めるという事で?」


 西田と丹羽が目配せし、やがて西田が重い口を開こうとした瞬間、

「そうはなりませんよ、渡辺先生」


 幸太が答えた。


「え? そういう意味での告白ではないの? ならなんで……」


「おそらく善意からでしょう。栄太が死んで悲しんでるだけの席ならきっと西田さんも黙ってたはず。けど、大山先生が言ったように雲を掴む話しながら、前向きに栄太の魂がどこかで……なんて会話をしてるもんだから、事実を教えてくれたんだと思いますよ」


 第一、俺が訴えるつもりがない。しても100%負けるし、医療費と葬儀代をJJAXAでもってもらってる時点で誠意以上のものを感じています。と渡辺に伝えた。



「なんというか、幸太君の大人感覚に頭が下がるよ。我々もしたたかな大人の一人でね、こちらの不手際になるような告白ならJJAXAの社員として口に出来たもんじゃないが、先ほどの幸太君の説がね、理に適ってるもんだからつい後押ししたくてね、乗ってしまったというわけなんだ。この場でいう事じゃないかもしれないが、我々もそう何度も顔を出せる立場の人間じゃない事を理解して頂けるとありがたい」


 さらに西田は渡辺に向き直ると、

「タキオンという物質は自然界に常に降り注いでいる物質とされていまして、光と一緒で体を貫通するんです。故に栄太君の体に向けて発射されたとしても現状は無害とされているんです。事実、何度精密検査をしてもどこも異常がありませんでしたし、JJAXAの見解としましては禁止区域で気絶した少年を善意で医療負担していた、という事なんです」


「……なんとなくずるい気もしますが、こうしてわざわざ葬儀に来てくださってるわけですし……複雑です」


 女性の感情でしか考えれない部分がでてしまう渡辺がなんとか納得する。


「それで西田さん、丹羽さん。一回目が39%だった件、どういう解釈がでたんですか?」


 質問した大山に、今度は僕がと、丹羽が語りだした。


「こちらも、なんの立証も出来ない空想の域の話しなのだけれども、横槍が入ったんじゃないかと思っています」


「と、いうと?」


 大山が先を促す。


「JJAXAのタキオン発射台がピッチャーマウンド、宇宙ステーションの的をキャッチャーミットだとすると、二人のいた丘の位置ってサードベースにあたるんですよ。タキオンが放物線を描く物質なら2,3,4回目の内容と合致しないし、過去のEU研究所の実験でもそんなデータは一度も出たことがない。という事で恐らく、タキオンの交通事故ではないかと思うんです」


 続けて丹羽は発言する。


「先程も言ったように、タキオンは常に地球上に降り注いでる物質であり、2,3,4回目の平均値は98,6%だから、逆にいうと、1,4%は縦方向に発射した我々のタキオンが自然界に降り注ぐ横方向のタキオンに弾かれて的を反れてしまった。我々科学者はそういう解釈をしているのだけど、約60%のタキオンが弾かれるなんてはずがないんです。ないんだが、もし弾かれたと仮定するのならば、人為的なタキオンの塊と我々が発射したタキオンの塊がぶつかり、丘にいた栄太君の体を貫いて、体のどの部分にあるかわからない魂をさらってしまった。なんてメルヘンチックな考え方をすれば、一応全てに説明がつくんですが、あまりにも天文学的確率すぎて、科学者としては言い出せたもんじゃないんです」


「実証するには、まず動物に向けてタキオンの大量照射ですかね? 動物の魂が抜けるようなら、それでやっと天文学的数値になるのかな? それに人為的なタキオンの塊というと、地球外生命体がどこかの星から発射したって事になるのかな? 光より速い物質同士の単発衝突なんてどういう計算式になるんだろう?」


 幸太は天井を見ながら想像した。


「つまり、地球外生命体が既にタキオンの運用をしていたと仮定し、我々人類がタキオンを振りかぶって投げた所に、一塁の方向から来たタキオンと衝突し、三塁にいた栄太の人体にぶつかって、人体は無害だったが、魂だけどこかへ弾き飛ばされてしまった。……そう考えると全ての辻褄はあう、という事なんですね?」


 大山は丹羽に確認すると、それこそファンタジーな確率になりますが、と念を押して頷いた。


「それでも、それでもなんか嬉しいなぁ」


 と言う大山に、

「先生、弾かれた栄太の魂がどこかの誰かに着地するとなると、さらに倍率ドン! だよ?」


 皮肉屋の部分がでてしまう幸太に、大山はあぁぁ~と頭を抱えるのだが、

「ま、建設的な考え方は気持ちが良いよね」

 と、軽くフォローを入れておいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ