手違いで復讐を手伝うことになりました
続きを書くことがないだろうと思い投稿。
終わりを意味するならそれは間違ってはいないのかもしれない。不意に読んでいた小説の最後の文章を思い出した。
『過去に囚われ続けた。それがあなたの人生の終わる原因だ』
読んでいたのはなんだったか。その文章から鑑みると推理小説のような気もする。今話題のネット小説のファンタジーかもしれないし、好きだったライトノベルシリーズの最新刊だったかもしれない。
人の気配を感じない路地裏にぼろ雑巾のようにされた僕は雨に打たれながら考えていた。
人の雑踏から離れた無人の空間。辺りにあるのはゴミ箱ぐらいだけど、雨が匂いを掻き消してくれる。
そもそも僕はどうしてこうなっているんだったか。たまたまだったのか自分から向かったのか。
相手はどんな奴らだったか。危険な奴だったか人外だったか。
ああ疲れた――――思い出す作業が億劫になった僕は、ゆっくりと瞼を閉じた。
『復讐する気は?』
声が聞こえる。脳内に直接問いかけてくる形で。
僕は死んだのか否か。その結果を自身が知りえないのに声が聞こえた。が、最期の状況を思い出すと僕は死んだと認められる。
なぜなら、良いように体を殴られ、両腕の骨を力任せに折られ、顔面にはいくつもの切り傷が存在し、両足は膝から綺麗になくなっていたのだから。
改めて考えると自分のスプラッタな光景で笑えるものなんだと自分の感性に驚く。
今や僕の生前の事なんて覚えていない。ただあるとすれば、死んだと思われる状況の記憶と自分の中の相当『異常』な部分。
――と、ここまで考えて僕は今しがたつらつらと考えていたという事実を認識し、驚いた。
あれ?
『ようやく話を聞く気に成った?』
そう言えば声を聞いてこんな風に考えられるようになったような……。
『少しは私の話を聞きなさい!』
……なんで怒られたんだろう。
『まったく。あなた一人に時間をかけている余裕なんてないんです』
……『あなた一人』?
『ようやく、ですか。まぁ良いでしょう。コホン。えー、あなたは自分で考えた通り死んでいます。その経緯から、復讐を終えるまで現世に復活するかそのまま成仏するか選択できます』
僕は考えることなく成仏、と思った。
『……私が提案してなんですが、復讐しないので?』
だってもう忘れたし。
『ああ……そうですか』
声の主は脱力したご様子。正味な話死んだのならそのままでいい気がしてきた。どうせ誰かが見つけて解剖からの火葬コンボだろうし。
というか復活して復讐って仮にもどうなんだろうか。そんなことしたら色々滅茶苦茶な気がする。
『では成仏という形で……分かりました。では次の方』
もう終わり、ね。これでこそ本当に――
「…………あ」
んん? ちょっと待って。なんで僕は空を仰いでいるんだ? しかもあの時と同じような雨に打たれながら。
念のため、というより確認する様に首を動かしてみる。すると首は普通に動き、視界が正常に動かした先を映し出す。
見えたのは草木。どうやら森の中だろう。という、シチュエーションが違うので僕はなおも困惑する。
両腕に力を入れてみる。何やらガシャンという音が聞こえながらも、腕に力は入る。
あれ成仏したはずだよね…? あの時の記憶が残っていたのでそう考えながら頑張って起き上がり、爪先から自分の服装を見て驚く。
なぜならファンタジー世界で出てくるレギンスや鎧、籠手を装備しているからだ。生憎全部銀色。
結構な重量のはずなのに雲しないこの人の身体どんだけーと思っていると、空からひらひらと紙が落ちてきたので地面に着く前にキャッチする。
落ちてきた紙は手紙だったらしく、僕はそれを読んで驚いた。
『拝啓生前成仏を即答してくれたあなたへ』
『これを読んで理解できているなら、まず謝罪を申し上げます。理解できないのでしたら破り捨ててください』
『次に、そのような現状になりました経緯についてご説明いたします。あなたの何番目か後に復讐するという男がおりましたのでそのものを復活させる際、魂の波長が似ていたせいかあなたまで巻き込まれてしまいました。その上素直に成仏を選んだあなたの徳のおかげで、肉体に宿る優先順位があなたになってしまわれました』
『その結果、その復讐を選んだ男はあなたが腰に身に着けている剣に宿りました。そしてそれは、完全に世界に認識されてしまったため戻すことは不可能になります』
『故にあなたにやってもらいたいのは復讐の手助け。彼の復讐が終わったのをこちらが確認してから肉体事消滅させます。それまでの間、よろしくお願いします。敬具』
…………通りでさっきから剣が勝手に動こうとしてるのね。
地味に装備に当たるからうるさいんだよなと思いながら鞘から剣を引き抜くと、こっちに向かってきたので地面に頑張って突き刺す。
剣は自力で地面から出て来たいのか頑張っているのでおとなしく観察していると、やがて動きが止まった…と思ったら頭の中に声が響いた。
『くそっ! なんで俺が剣になんか宿って赤の他人が俺の身体に入ってやがる!?』
ついつい僕は声を発した。
「手違いらしいよ」
『ハァ!? ふざけんな! おいお前、俺とかわれ!!』
「それは無理らしいよ」
『なんでだよ! 身体に戻らなかったら復讐できねぇじゃねぇかよ!!』
「いやまぁ手伝うよ? 僕」
『……あ?』
何やら胡散臭そうに聞き返してきたので、僕は何ともないように言った。
「だから手伝うって、君の復讐。僕としても、何か得られるだろうし」
そういうと剣は黙ってしまった。
黙ったので剣を引き抜いて鞘に戻す。と、『……いいのかよ。赤の他人の復讐手伝って』と聞こえたので雨に濡れながら僕は空を仰いで答えた。
「いいさ。それが成仏できる近道なら」
自分という存在、いや在り方かな。それが完全に消える時期が少し伸びてしまっただけだ所詮。この復讐を終えれば消えるのならば、そうするだけである。
『……相手、俺がいた国の宰相だぞ?』
「え゛?」
……こりゃ素直に辻斬りは不可能そうだ。