降臨二発目 邪神、食事をする
「う~ん、読めば読む程、凹むな……」
俺は創造主ムメイからの贈り物である攻略本を読みながら言った。今、読んでいるのは邪神についての部分。
邪神:世界に災いをもたらし破滅に導く神。はっきり言って世界の敵。
身も蓋も無い、内容だった。はっきり言って最悪だ。俺には基本的に味方がいない、敵だらけということだ。あえて味方と言うなら、邪神を崇拝する邪教集団が思い付くが、そんな奴らとは関わりたくない。
「全く、最低な新生活スタートだな……」
俺は攻略本をその辺に置いて、ため息をついた。
俺が邪神になった事は残念ながら事実らしい。あまりにも常識はずれな事態だからな。少なくとも、俺がもはや人間ではないのは確かだな。黒髪はまだしも、紅い瞳に長い尖り耳の人間など見たことが無い。
更に言うと俺が今いるのは、遺跡の地下室らしいが、全く明かりが無いのにはっきり見える。これも邪神の力かね。
だが、そんなことより深刻な問題が有った。腹が減った……。
この地下室らしい部屋には食料など無い。有るのは瓦礫ぐらいだ。これは困ったぞ、どうすれば良い?。
そうだ、攻略本だ!。閃いた俺は攻略本を読もうとするも、攻略本が無い。おかしいな?、その辺に置いた筈なのに……。
その時、
「何かお探しですか?」
突然、知らない少女の声がした。
そこにいたのは、十三~十四歳ぐらいの栗色のショートカットの髪、栗色の瞳、黒いとんがり帽子を被り、黒いマントを身に付けた一人の少女だった。そんなバカな、さっきまで、俺以外誰もいなかったぞ!。
とりあえず、訊ねてみるか。
「お前誰だ?」
「質問に質問で返さないでください、貴女バカですね」
確かに先に質問してきたのは向こうだが、いきなりバカ呼ばわりされた!。しかも疑問形でなく断定形!。何者なんだこいつ?。
「まぁ、良いでしょう。自己紹介します、私は貴女が先ほどまで読んでいた攻略本の化身です。創造主ムメイ様が、ここはやはり、美少女キャラを投入しようと考えられて、私をこの姿に変えられました。計画性の無いお方です」
あのバカの仕業か……。
攻略本が美少女になったのは驚いたが、まぁ良い。それよりも腹が減った。何か食べる物について教えて貰おう。
「なぁ、お前に訊きたいんだが、何か食べる物について教えてくれ。腹が減った」
「その辺に有る物を適当に食べて下さい」
酷い返事が来た。どこの鬼嫁だこいつ!。
「ふざけるな! その辺に有る物って瓦礫ぐらいだろ! そんなもん食えるか!!」
「大丈夫です、貴女なら食べられます。何故なら貴女は邪神ですから。正確には邪神スキルのおかげですが」
攻略本の化身が言うには、俺は邪神スキルなるものを身に付けている。そういえば、攻略本の俺のページに書かれていた。
そして、その一つにジャシンアクジキなるものが有る。それは如何なる物でも食べられる能力だとか。
「その辺の草木は無論、石や土、その気になれば放射性廃棄物やウンコも食べられます」
「誰が食うか!!」
「便利だと思いますが? ウンコを食べられるんですよ? 排泄したウンコをまた食べられる、素晴らしいと思いますが?」
「ウンコ、ウンコ言うな!!」
「貴女も言っていますよね」
「お前のせいだろうが!!」
可愛い顔して、とんでもない下ネタをかましやがる……。
とりあえず、食べ物を探しに外に出る事にした。攻略本の化身は瓦礫を食えと言っていたが、お断りだ!
明かりの無い通路を歩く俺達。俺のいた部屋は、地下の隠し部屋だったらしい。俺は攻略本の化身の後を付いて行く。本来なら真っ暗の筈だが、今の俺には問題無し。はっきり見える。俺はふと気になって攻略本の化身に訊ねた。
「そういえば、お前の名前は何なんだ?」
「私に名は有りません」
「名無しか、そりゃ困るな。よし、攻略本の化身だから『コウ』にしよう」
「安直なネーミングですね、発想力貧困ですね貴女は」
「悪かったな! 名前を付けてやったのに文句言うな!」
顔はともかく、性格は可愛くないなこいつ。
そして外に出た俺達。俺がいたのは、何か大きな建物の廃墟だった。周りにも廃墟がいくつも有り、荒れ果てていた。更にその周囲は不気味な鬱蒼とした森。
「ずいぶんと荒れ果てた所だな」
「ここはかつて、貴女の先代の邪神の本拠地だった所です。そして私達が出てきた建物の廃墟こそ、邪神を奉っていた神殿です。今は見る影も有りませんが」
「何が有ったんだ?」
「人間、魔族の連合軍によって攻め滅ぼされたのです。邪神は世界の敵ですから」
「マジかよ……」
普通は敵対している人間と魔族が手を組むなんて、どこまで嫌われているんだ邪神。まぁ邪神は世界の敵なんだから仕方ないと言えばそうだが。しかし困った、今や俺が当の邪神だ。攻め滅ぼされるなんてまっぴらゴメンだ。
「なんか俺、せっかく転生したのにいきなり詰んでねーか?。俺は世界の敵たる邪神、周りは敵だらけで味方はいない。どうしろっていうんだ?」
「そこは自分でなんとかして下さい、貴女は邪神でしょう。それに貴女にあっさり死なれたらムメイ様が困ります。新作の話がいきなり終わりますから」
そういえば、俺は新作小説のネタの為に転生させられたんだよな。まぁ、今さらどうにもならない。せっかく転生したんだ、あっさり死んでたまるか!、とことんあがいてやる!。その為にもまずは腹ごしらえだ。
「コウ、さっきから腹ペコだし早く食べられる物を教えてくれ」
「分かりました、森へ行きましょう。そこで木の実を採ることにしましょう」
かくして、コウの案内で近くの森へ入った俺達。
「この木の実にしましょう。美味で栄養豊富。しかも腹持ちも良いです」
それはバナナの様な木の実だった。ただし、紫色に水色のまだら模様の気色悪い柄をしていたが……。だが、確かに旨い。腹にも溜まる。
「旨いなコレ。お前もどうだ?」
「私は書物の化身なので食事は不要です」
「そうなのか」
旨いのに食えないとは不憫な奴だな。ところでこの木の実の名は何だろうな?。
「コウ、ちなみにこの木の実、なんて名前なんだ?」
「キョジンゴロシと言います」
「は!?」
キョジンゴロシ?、なんだか嫌な予感が……。
「もしかして、コレ毒なのか!?」
「はい、猛毒です。一口で巨人をも殺す事からキョジンゴロシと名付けられました」
「ブフォーーーーーッ!!」
食べていた物を吹き出す俺。ヤバい、かなり食ってしまった!。俺の第二の人生いきなり終わった!。
「食べた物を吹き出すなんて勿体ない……」
「猛毒の実なんか食えるか! お前、俺を殺す気か!」
「大丈夫ですよ、貴女はステータス異常無効ですから。猛毒の実であろうと普通に食べられます」
涼しい顔で言うコウ。こいつ俺の味方なのかなぁ?。そういえば俺の味方とは一言も言っていない。
「さぁ、せいぜいあがいて、ムメイ様の新作のネタになって下さい!」
「お前もムメイも最低だーーーっ!!」
俺、この先どうなるのかな?。
では、次なる降臨を待て!。
とりあえず、降臨二発目をお届け。後先は考えていません。完全に行き当たりばったり。




