CVR Incident ・zero 『消失』
このお話しは外伝である。
何故なら今回のIncidentは全て、航空無線で構成されているからだ。
しがってー
彼等が最後のその瞬間。本当はどんな言葉を交わしていたのかは、永遠の謎である。
「どっちが西だか分からない。
海さえ、いつものようじゃない!」
CVR Incident ーzero
『消失』
December・8・1945 アメリカ/フロリダ沖・東方海上 SB2U 第17編隊
【東部標準時刻14:10。
5機のSB2U、通称ヘルダイバー艦上爆撃機が、フロリダ半島南端の海軍基地、フォート・ローターデールを飛び立った。
それが後に航空史上、最大のミステリーと呼ばれる「第17編隊事件」の始まりだった】
‐15:40
不明「現在位置が分からない」
【この日。フォート・ローターデール上空を飛行中のPB4Y-2哨戒機。コールサイン『サンダー・ストーンヘッド』の無線機に突然、4805サイクル(訓練飛行用周波数)で誰かが誰かに呼びかけている声が入ってきた】
‐15:41
不明「おい。コンパスは何度になっている? きっと、さっきのターン(旋回)のあと迷ったにちがいない」
‐15:42
サンダー・ストーンヘッド
「こちら、フォート・ローターデール上空を飛行中のサンダー・ストーンヘッド(以後・SSH)。機位を失ったみられる飛行機。もしくは船舶。応答せよ。援助できるかもしれない」
【最初、応答はなかった。
が、何度かの呼びかけの後、相手は答えてきた。相手はFT-17と名乗った】
‐15:55
SSH「FT-17。何か面倒が起こったのか?」
FT-17「どうやらコンパスが二つとも壊れてしまったようだ。そちらに戻りたいんだが、現在位置が分からない。
今は陸の上だが、切れ切れの陸だ。
フロリダ半島南端の小島帯上空に違いないんだが、どれだけ南に来たのかが分からない」
‐15:58
SSH「今、小島帯上空なら太陽を左翼に見て海岸沿いに北上すれば、フォート・ローターデールはそのほんの30Km先だ。
マイアミを過ぎれば次の港で、基地はそのすぐ左側にある」
FT-17「了解」
SSH「そちらの高度は? 今から南に飛んで迎えに行こう」
‐16:01
FT-17「こちらの高度は2000フィート。大丈夫だ。位置は分かった。迎えはいらない」
SSH「了解。2000だな。とにかく迎えに行く」
‐16:03
【SSHはフォート・ローターデールを呼び出し、FT-17が迷子になっている事と、今から彼等を迎えに行く事を告げた】
‐16:06
FT-17「SSH。聞こえるか」
SSH「FT-17。聞こえている」
FT-17「基地に連絡して、レーダーで我々の位置を確かめてもらえないか? そんなに遠くに来てるハズはないんだ……」
SSH「基地には連絡してある。コンパスが壊れたのか?」
FT-17「2ラウンド目でおかしくなったらしい。それで私が有視界飛行に切り換えて、正しい位置に戻そうとしたんだが……。やはり私の機のコンパスは二つとも壊れてしまったようだ」
‐16:09
SSH「FT-17。10分ではここまで着けそうにないな。君は30ノットの向かい風。もしくは横風を受けている」
FT-17「了解。今、何時だ?」
SSH「現在16:10時。非常用のIFFをつけろ。それとも装備していないのか?」
FT-17「ネガティブ(装備していない)」
*IFF=「Identification Friend or Foe」
敵味方識別装置の事で、この場合。装備していればレーダースクリーン上の映像を鮮明にすることができた。
‐16:12
SSH「FT-17。ZBX(基地への方向を指示する装置)をつけろ」
‐16:13
SSH「FT-17。ZBXをつけろ」
‐16:14
SSH「FT-17。ZBXをつけろ」
【この呼びかけに、FT-17からの応答はなかった】
‐16:19
SSH「FT-17。聞こえるか。そちらの声が薄れてきた。何か具合が悪いんだ。そちらの高度は?」
FT-17「(微かに)4000フィート……」
【ここでSSHの受信機のパワーが切れて、4805サイクルでの交信ができなくなった。
SSHは9つあるVHFのチャンネル全てを使って、交信を試みたが成功しなかった。
後にSSHは「FT-17の通信はますます薄れてきたので、彼等は北に向かっていたことは間違いない」と、証言している】
‐16:25
【SSHの通信機が使えなくなってから、フォート・ローターデール(以後、FRD)の管制官が、FT-17との交信に成功していた】
FRD「FT-17。聞こえるか?」
FT-17「よく聞こえる。我々は今、小さな島の上空を通過した。他に陸は見えない。今、何時か教えてくれ」
‐16:26
FRD「FT-17。現在16:26時」
FT-17「こちらは方位010。高度3000フィート。このエリアには、我々の所在を見つけてくれるレーダーはないのか?」
‐16:28
FRD「FT-17。君の編隊に正常なコンパスを備えた機はいないか? その機にリーダーを譲って、基地へ導いてもらえないか?」
FT-17「了解」
【FRDでは編隊長機と他の機のあいだの交信を断片的に傍受した。彼等は推定位置とコンパスについて意見を交換していた。受信状態が悪く、正確な状況はつかめないが、他機がリーダーを引き継いだ様子はなかった】
‐16:39
FT-17「我が編隊の1機が、方位270度に向かえば帰還できると主張しているが、どうか?」
FRD「了解。スタンバイ」
【この時点ではFRDでもFT-17の正確な位置を特定できていなかった。結果的に見て、この主張は正しかったのではあるが、FRDの管制官は即断を避けた。
FT-17との交信は、しだいに困難になってきていた】
‐16:45
FT-17「我々はこれより方位030にて30分間飛行し、のち北へ向かう。メキシコ湾上空にいるのではないことを確かめるためだ」
‐16:46
FRD「FT-17。無線の周波数を緊急用の3000サイクルに切り換えろ」
‐16:47
FRD「FT-17。無線の周波数を3000に切り換えろ」
【これらの要請にFT-17は応答しなかった。
またこの時。メキシコ湾区域。および東部区域のHF/DF通信網は、FT-17からの通信を傍受すべく、全力を上げていた】
*HF/DF=High Frequency Direction-Finding 高周波無線方位探知機。
無線が発せられた方向を知る事ができる装置。これを多所使用することで、発信源の位置を特定する事ができた。
‐16:48
救難隊「FRD管制官へ。待機中」
FRD「了解」
【基地内の救難隊も、即時出動体制に入った】
‐16:49
救難隊「FRD管制官へ。FT-17との連絡は取れないか」
FRD「ネガティブ」
‐16:51
救難隊「ERD管制官へ。TF-17にZBXをつけるように要請して欲しい」(この要請はすでに16:12に試みて失敗している)
‐16:56
FRD「FT-17及び、随伴する全ての機へ。ZBXをつけろ。ZBXをつけろ」
【応答なし】
‐16:58
救難隊「FRD管制官へ。二機の救難飛行艇が即時離陸可能」
FRD「了解。そのまま待機を頼む」
救難隊「了解」
‐17:01
不明「西だ。西に飛べばいいんだ。そうすりゃ、基地にかえれるんだよ」
不明「そうとも。 西に行きさえすれば帰れるんだ!」
‐17:07
FT-17「編隊長から全機へ。 方位090へコースを変更。10分間飛ぶ」
‐17:09
不明「もうどのくらい飛んだんだ? もう二度ほど東へ旋回しよう。俺達は東より北へ来すぎてるんだ」
不明「このままじゃ、何があったって、見えっこないぞ」
不明「今、何時だ」
‐17:10
ERD「救難隊へ。位置の特定ができるまで、救難機は離陸させずに待機させておいてくれ」
救難隊「了解」
‐17:11
不明「まだ東への来かたが足りないんじゃないか? もうどのくらい東に来たんだ?」
‐17:14
FT-17「FRD。こちらFT-17。聞こえるか? オーバー」
‐17:15
FT-17「FRDへ。 受信状態が非常に悪い。我々は方位270度へ飛行中」
FRD「FT-17。了解」
‐17:16
FT-17「FRDへ。我々は方位270度で海岸を見つけるか、燃料切れになるまで飛ぶ」
‐17:20
ERD「FT-17へ。 無線の周波数を3000に変更できないか? 切り換えられるのならそうしてくれ」
‐17:21
FRD「FT-17へ。周波数を3000に切り換えてくれ。切り換えたら連絡たのむ」
【この要請は3回繰り返えされたが、応答はなかった】
‐17:23
FT-17「編隊長から全機へ。誰かの燃料が10ガロンになったら、一緒に海に着水しよう。みんな、分かったな?」
‐17:24
FT-17「FRDへ。電波が非常に弱い。そちらの気象状態はどうか?」
FRD「FT-17へ。基地上空の天気は良好。CRVU。ハバマ諸島上空は曇り、雲高はかなり低い。視界悪し」
*CRVU=雲高および視界無限の意味
‐17:30
FT-17「編隊長から全機へ。左翼に見えるのは船か?」
【編隊各機からの返答は聞き取れず】
‐17:33
FT-17「FRDへ。今、何時か?」
FRD「FT-17へ。現在17:23時。オーバー」
【応答なし】
‐17:34
FRD「FT-17へ。周波数を3000サイクルに変更できないか?」
【3回試みられたが、応答なし】
‐17:50
FT-17「FRDへ。そちらの通信は非常にかすかだ。こちらの送信機はしだいに弱まる一方だ」
【この日、4805サイクルには空電のノイズが非常に多かった。またキューバ放送局の音楽が受信の妨げになっていた。
FT-17からの通信は、非常に明瞭に聞こえるかと思えば、次の瞬間にはまったく聞こえなくなった】
‐17:52
FRD「FT-17へ。最後の通信は受け取ったか? 周波数を3000サイクルに切り換えろ」
FT-17「ネガティブ。周波数は変えられない。編隊を掌握しなければならないからだ」
‐17:59
不明「周波数は変えられない。4805サイクルを保つ」
【この頃には陽は落ちて、あたりはすっかり暗くなっていた】
‐18:00
【HF/DFは、FT-17を、北緯29度15分。西経79度00分の半径100マイルの位置に同定することに成功していた。
それは、ハバマ諸島の北。フロリダ半島のニュー・スマーナの東にあたる大西洋上であった。
だがその情報は計算されただけで、どこにも送られなかった】
‐18:02
不明「もう今にも海に突っ込みそうだ」
‐18:03
FT-17「編隊長機から三番機へ。聞こえるか?」
‐18:04
FT-17「聞こえるか?」
‐18:05
FT-17「編隊長から三番機。俺達は今……どう思う?」
‐18:06
不明「これは……」
‐18:07
不明「灯りが見えなきゃならないはずだ……」
‐18:08
FRD「FT-17。聞こえるか?」
‐18:09
FRD「FT-17。聞こえるか? ワン、トゥ、スリー、フォア、ファイブ、シックス、セヴン、エイト、ナイン、テン……」
【FT-17の18:07時以降のコースは不明。
またこの時点でもHF/DFによる位置情報は、テレタイプでも、ラジオでも何処にも送信されていなかった。
実際にはFRDのテレタイプは、この最も重要な時期に故障していたのだ】
‐18:15
FTー17「いいや。我々の現在のコースは……メキシコ湾の上空だよ。 まだ東への飛び方が足りないんだ。
このコースを、もうどのくらい飛んだのかな?
くそっ。今、何時だ?
とにかく、燃料の切れるまで東へ飛ぼう。そうすればできるだけ海岸近くで拾ってもらえる可能性が……」
‐18:17
FT-17「編隊長機から三番機へ。君のコースは?」
【応答確認できず】
‐18:23
FRD「救難隊へ。FT-17の燃料は19:30には尽きる。これはかなり重大だ。そちらのダンボ(救難機)は出動可能か?」
救難隊「二機がいつでも離陸可能」
FRD「了解」
‐18:37
不明「今のコースはどうなってるんだ?」
‐18:43
FT-17「三番機から一番機へ。我々ー」
【会話の意味不明瞭。
雑音が激しく、交信はほとんど聞き取れず。
三番機が自機のコールサインを呼んでいるのが聞こえる】
‐18:44
FRD「FRDより三番機。聞こえるか? どうぞ」
‐18:48
FRD「FEDより三番機。電波の感度が非常に悪い」
‐18:50
FRD「三番機。こちらFRD。オーバー」
‐19:04
FRD「FT-17へ。聞こえるか? オーバー」
‐19:26
FRD「FT-17。 FT-17。こちらFRD。聞こえるか? オーバー」
‐19:49
FRD「FT-17。 FT-17。こちらFRD。こちらFRD。こちらFRD」
‐19:54
FRD「FT-17。 FT-17。こちらFRD。聞こえるか? オーバー」
‐19:56
FRD「FT-17。 FT-17。こちらFRD。聞こえるか? オーバー」
‐19:59
FRD「FT-17。 FT-17。こちらFRD。聞こえるか? オーバー」
【FT-17の燃料は20:00時前後までは飛行可能な量だった。
この時ようやくHF/DFで判明したFT-17の推定位置(17:50時)の情報が届けられた。
FRDはすぐさま推定位置に向かって、救難機を飛ばすように救難隊に要請した】
‐20:10
ダンボ・37「離陸」
‐20:11
ダンボ・49「離陸します」
‐20:13
救難隊「ダンボ・37は推定海域まで最短コースで進出せよ。ダンボ・49は推定海域の北方から回り込め」
ダンボ・37&49「了解」
‐20:15
救難隊「推定海域に到着後、方型拡大捜索を開始せよ」
ダンボ・37&49「了解」
‐20:17
救難隊「両機とも三十分ごとに位置レポートを送ること。また、4805サイクルの監視をすること」
ダンボ・37&49「了解」
‐20:50
ダンボ・37「推定海域ETA。NXST・20」
救難隊「了解。ダンボ・37」
*ETA= en Estimated Time of Arrival
航空機 船舶 車両 あるいはコンピューター・ファイルが ある場所に着くと予想される時間、時刻の事・「到着予定時刻」
‐20:51
救難隊「ダンボ・49。聞こえるか? オーバー」
‐20:53
救難隊「ダンボ・49。聞こえるか? オーバー」
‐20:54
救難隊「ダンボ・49。聞こえるか? オーバー」
【その後。ダンボ・37は予定通り推定海域に到着したものの、ダンボ・49は一度も交信する事なく、そのまま消息を絶った。
救難隊の通信士は一時間ぶっ通しでダンボ・49を呼び続けたが、応答が帰ってくることはなかった】
【こうして、五機のFT-17編隊の他に、一機の救難機までもが、誰もが「魔の海域」と呼ばれる、夜の海に消えたのだ】
****
この事故に対する海軍の調査は数ヶ月に及び、その報告書は400ページをゆうに超えたものであった。
報告書ではまず、FT-17の主な失踪原因として、以下の四つをあげている。
1)編隊長機のコンパスが故障した事。
報告書においては、遭難したSB2Uのどの機体に時計がついていたかには触れられていないが、乗員の誰かが時計を持っていたかどうかについても、触れられていない。
編隊長が、幾度となく時間を聞いているところから、彼が時計を持っていなかった事は明白である。
方向が分からなくなった上に、飛行時間までも測れなかったとすれば、彼が位置を失う条件は全て揃っていたと、考えられる。
2)編隊長は、このフライトのほんの少し前に、フォート・ローターデールに転属になってきたばかりだった。
まだ基地周辺の地理に詳しくなかったという事は、東方海域のバハマ諸島を、フロリダ半島南部の小島帯と見間違える可能性の高さを秘めていた。
彼は自分達がフロリダ半島の西側にいるか東側にいるかも分からず、ただ闇雲に何度も飛行方向を変え、部下達を引きずり回した。
編隊長以外の搭乗員も、全員が訓練中のパイロットや後席員であり、必ずしも航法や操縦に慣れていた訳ではなく、また、上官で指導教官でもある編隊長に対して、十分に意見をする事もできなかった。
3)第三の要因は、編隊長がラジオの周波数を緊急用の3000サイクルに切り換える事を拒否した点である。
その結果、彼は地上局との無線連絡を維持する事ができなくなってしまった。
彼は周波数を変える事で、部下達との交信ができなくなる事を恐れていたのだろう。
だがもし3000サイクルに変更する事ができていれば、空電ノイズやキューバ放送局からの電波干渉に邪魔される事なく、交信する事ができたはずだ。
というのは、どの局でも非常用3000サイクルの受信機は装備されていたが、訓練用4805サイクルを受信できる機材を装備している局は、非常に少なかったからだ。
そしてもし3000サイクルで交信ができていれば、HF/DF装置により(テレタイプの故障はともかく)FT-17の位置は、もっとずっと早く特定されていたと思われる。
4)最後の要因は天候である。
FT-17が離陸した時、天候は確かに「快晴」であった。
が、彼等が迷走をし始めた頃から、天気は急速に悪化していたのだ。
ダンボ・37をはじめ、捜索に飛び立った何機もの捜索機は(ダンボ・37・49以外にも多数の航空機が捜索に参加していた)乱気流と不良な飛行コンディションを報告している。
また、この海域にいた一隻の船は「烈風と激しい時化」を報告している。
そんな海に。
しかも陽は暮れ、真っ暗な中、方向を見失った指導教官に率いられた、未熟な訓練生が操縦する飛行機(SB2U艦上爆撃機自体がその名にかけてー
「サノバビッチ・セカンドクラス(Son of a Bitch 2nd Class:二流のロクデナシ)」
と、呼ばれる程の操縦の難しい飛行機だった)
で、着水を強行したのだ。
結果は推して知るべしであろう。
そして夜が明けるまでの約6時間。
海は荒れ続け、すべての痕跡を押し流されてしまったのだ。
最後に救難機、ダンボ・49の失踪原因はー
当時、その付近を航行していた民間の貨物船が同機が連絡をたったと推定されるまさにその時刻。
爆発炎上して墜落する航空機を目撃していた。
同船の船長によれば、一機の飛行機が空中で火を発し、たちまち水面に落下し爆発を起こしたという。
救難隊が使用している救難機、マーチン・PBMマリナー飛行艇は別命「空飛ぶガスタンク」の異名を持つ、欠陥機だった。
同機はしばしばガソリン洩れをおこし、ほんのちょっとした機械類のスパークや静電気によっても、たちどころに爆発を起こすおそれがあったのだ。
したがって、救難機ダンボ・49が(原因は不明ながら)で空中爆発を起こし墜落した事は、明らかである。
後年
この海域にまつわる数々のミステリーのひとつとして、この事故が語られる時。
パイロットはベテランばかりだった。 とか。
天気は快晴であった。 とか。
冒頭に掲げた台詞のように、何か「不思議な現象」にパイロット達が襲われていた。 とか。
ただ一機出動した救難機も、何の交信もなく、かき消すように消失した。
などという報告は、事故調査報告書の何処にも書かれていない。
この遭難事故の原因は、そのような「不思議な現象」。あるいは「何らかの未知なる外的要因」などではなくー
・編隊長のコンパスが壊れた事
・サンダー・ストーンヘッド機の受信機のパワーが落ちた事
・無電の受信状態が極めて悪かった事
・気象条件が急速に悪化した事
・夜が訪れた事
・HF/DFが有効に活用されなかった事
・フォート・ローターデールのテレタイプが故障していた事
・編隊長を除くすべてのパイロットが、訓練生であった事
・編隊長の飛行方向が間違っていることを、かなり早くから判っていたのに、軍の規律が独自の行動を取らせなかった事
・FT-17がその日、最後の飛行スケジュール編隊であった事
それらの出来事(「Incident」)の一つでも欠けていれば、結果はかなり変わっていたはずである。全機とはいかなくとも、1機か2機は帰還し得たかもしれない。
そうなればダンボ・49も失われる事なく、この事件は単なる遭難事故となり「航空史上、最大のミステリー」と呼ばれる事はなかったはずだ。
こうしてFT-17の九名の搭乗員(ひとりは出発直前に体調を崩し、このフライトには参加しなかった)と、救難機、ダンボ・49の10名の搭乗員。計19名は永久に失われた。
そしてー
なによりも悲劇的な事は、後の調査や証言でで明らかになったように。
FT-17の編隊長が迷ったと思いこんだ時、彼等は基地への正しい帰還コースを飛んでいた事である。
CVR Incident ーzero 『消失』 end
*参考文献
「魔の三角地帯」(R・D・クシュ著。福島正実 訳角川文庫 1975)
Ps
「バミ○ーダー・トライアングル」って、最近聞かないなぁ……(鹿馬




