Incident ー07 『撃墜』
【このケースは厳密に言えば事故ではない。
また原因究明に必要なブラックボックスの解明が遅れたため(詳細は後述)その全容は長らく不明のままだった。
以下は近年、ようやく公開された資料からの抜粋である】
「目標は撃墜された」
CVR Insdentー07
『 撃墜 』
October・3・1984 セレス海。
1)高句麗航空0091便 2)ルークトバニア防空軍・Su-15TM迎撃戦闘機
ETA
‐29:33
<高句麗航空0091便>
副操縦士「オーグッド管制塔。こちらは高句麗航空・0091便。ウェイ・ポイント『オヴニル』通過。西南西の風、20ノット。外気温、マイナス25度」
管制官「高句麗航空0091便。『オヴニル』通過、了解。以降はノースポイント管制塔の指示に従え」
副操縦士「高句麗航空0091便。了解。テイク・ケア(さようなら)」
【高句麗航空0091便はこの夜。乗員、乗客269名を乗せ、アーシア合衆国、オーグッド空港から、ノーズポイントに向かって飛行していた。
後の調査によるとすでにこの時点で、高句麗航空0091便は、正規のルートから北へ20キロ程ずれて飛行していた。だが0091便の乗務員達は、深夜という事もあって、その事実に全く気づいていなかった。
オーグッドの管制官も、なんの警告も出さなかった。
後にこの管制官は、気象条件によってそのような飛行経路を取る航空機はよく有り、この時も特に奇異には感じなかった。 と、証言している.
また、アーシア合衆国最西端のザント島にある、同国空軍基地のレーダーは、同機が通常の航路から逸脱している事に気づいていたが、同基地には民間航空機への管制権がなかった為に、警告は行われなかった。
当時、ルークトバニア連邦とアーシア合衆国は軍事的緊張状態にあり、互いに偵察機を飛ばし合い、軍備状況を監視し合っていた。
そのため、ルークトバニア連邦では、領空侵犯してくる航空機に対して、無警告攻撃の可能性が有る。 ーとの通達を出していた】
‐28:00
<さかんにアクビの声が響く>
機長「そういえば君、昨日はどう過ごしていたんだい?」
航空機関士「機長は覚えていませんか。ホラ。あのホテルの横にあるバーにいた黒髪の女の子」
機長「うん?」
副操縦士「ああ。知ってる知ってる。店の娘だろ? 名前は確か・・・・・・」
航空機関士「アキラ。 アキラ・F・ランボルギーニ。 21歳。 身長168cm、7月29日生まれ。 しし座のO型。 二つ名は『真紅の薔薇』」
機長「(笑いながら)えらく詳しいなぁ」
副操縦士「おいおい。まさか君・・・・・・」
航空機関士「はい。次に会う時、デートの約束を取り付けました」
副操縦士「マジか!?」
機長「思い出した! いたいた。紅い薔薇が良く似合う、男装の麗人っぽい、長い黒髪の女の子だ」
航空機関士「はい」
副操縦士「こいつ、いつの間に」
航空機関士「ふふん」
機長「なるほど。それで昨夜、私は彼とふたりっきりで、寂しく飲んでいたって訳か・・・・・・」
副操縦士「銃殺ですね」
機長「爆殺だろ」
航空機関士「ええ~ぇ(笑い声)」
‐25:45
<再びアクビの声>
機長「で。君、今度いつアーシアにもどるの?」
航空機関士「明後日の定期便です」
副操縦士「ちょっとハードだね」
航空機関士「うん。まぁ・・・・・・」
機長「管理職の俺の前だからって遠慮しなくていいぞ。確かに最近、ウチの勤務状態はキツいからな」
副操縦士「はい。すいません」
機長「だから謝らなくていい。経費削減も結構だが、俺達の権利も守らんとな」
‐24:05
「こちら高句麗航空101便。聞こえますか?」
【それは91便の15分遅れでオーグッド空港を飛び立った、同じ高句麗航空101便からのカンパニーラジオ(社内通話通信機)での呼びかけだった】
‐23:47
副操縦士「こちらは91便。少し雑音が入るが聞こえています」
101操縦士「こちらは現在、ウェイ・ポイント『オヴニル』通過中。東北東の風、10ノット。外気温、マイナス15度」
副操縦士「了解、101便。こちらも次のウェイ・ポイント『グラーバク』に向けて、順調に飛行中」
‐22:33
101便操縦士「すまないが、そちらの航空機関士に伝えておいてくれ。俺の貸した金。明後日には必ず返せよって」
副操縦士「ううん。それは難しいですよ」
101便操縦士「え?」
機長「それよりも、さらに多くの金を貸すハメになるかもしれんな」
101便操縦士「ええ?」
<操縦席内に笑い声が響く>
【この時、91便の乗務員達は101便と自分達の『オヴニル』通過時点でのデーターの違いに、もっと注意をはらうべきだった。
風向きの違い(ほとんど正反対)
風力の違い。外気温の違い。
また雑音が入るカンパニーラジオにも気をつけるべきだった。
それはそれだけ両機の距離が(航路を逸脱しているために)離れている、なによりの証左だったのだ。
この時点ですでに91便は航路を外れ、ルークトバニアの領空を15キロも侵犯していた】
‐15:16
<SU-15TM>
戦闘機パイロット「目標をレーダーで補足」
【コースを逸脱し、領空に侵入してきた91便に対して、ルークトバニア防空軍の戦闘機がスクランブルをかけてきた】
‐14:58
<SU-15TM>
戦闘機パイロット「アフターバーナー点火。接近する」
*アフターバーナー =After Burner (A/B)
エンジンの排気ガスにケロシンなどの灯油系燃料を噴射して再び発火させる装置。
瞬間的に爆発的な出力を得られる反面、ミリタリー推力の数倍以上の速度で燃料を消費する。
‐14:55
<高句麗航空0091便>
機長「そろそろ高度を上げようか」
副操縦士「了解」
機長「管制塔に許可を取ってくれる?」
副操縦士「了解」
【これは、今まで消費した燃料の分だけ軽くなった機体の高度をさらに上げ、燃料効率の向上を図る ーと、いうモノだった。
これはどこの航空会社でも行なっている、通常運行の機動のひとつだった】
‐14:13
<SU-15TM>
戦闘機パイロット「目標を視認」
<高句麗航空0091便>
副操縦士「こちらは高句麗航空91便。ノーズポイント管制塔、聞こえますか」
管制塔「こちらはノーズポイント管制塔。高句麗航空91便。おはようございます」
副操縦士「おはようございます。高度を3万3000フィートまで上げる許可をお願いします」
‐13:50
<SU-15TM>
戦闘機パイロット「大型機だ。航法灯と衝突防止灯が点灯している。他に国籍を示すものはない」
<高句麗航空0091便>
管制塔「現在高度、3万フィートから、さらに上昇して、3万3000フィートまで上がりたいのですね」
副操縦士「その通りです」
管制塔「了解。高句麗航空91便。3万3000フィートへの上昇を許可します」
副操縦士「91便、了解。さんきゅー」
‐13:20
<SU-15TM>
戦闘機パイロット「これより警告射撃実施・・・実施中・・・・・・目標に変化なし」
<高句麗航空0091便>
副操縦士「上昇の許可が出ました」
機長「了解。良い?」
航空機関士「チャーリー・チャーリー(はいはい)」
【SU-15TMが行なったされる警告射撃に、91便の乗務員達は、まったく気がづいていない。
この時、SU-15TMの機銃には曳光弾(光を発しながら飛んでいく銃弾)が搭載されておらず、徹甲弾(装甲を打ち抜くための銃弾。光らない)だけの射撃だったために、91便の乗務員達は夜の闇も手伝って、その警告に全く気がつかなかったのだ】
ーエンジン音高まる。91便は上昇を開始した。
‐12:41
<高句麗航空0091便>
機長「よぉし、上昇開始」
航空機関士「エンジン圧力正常」
<SU-15TM>
戦闘機パイロット「目標が減速!」
‐11:01
<高句麗航空0091便>
副操縦士「高度3万1000。1500・・・・・・」
<SU-15TM>
戦闘機パイロット「高度を上げている。目標は高度を上げている。 逃げるぞ!」
【SU-15TMのパイロットはこの行為を、所属不明機の明確な意思を持った逃走機動と判断した。
だがそれは、単なる『偶然の一致』にしかすぎなかった事が、ブラックボックスの解析により判明した】
‐10:05
<高句麗航空0091便>
副操縦士「高度3万2000。2500」
<SU-15TM>
戦闘機パイロット「いかん! 目標をオーバーシュートした! 目標は本機の真横にいる!!」
‐9:02
<高句麗航空0091便>
副操縦士「高度3万3000到着」
機長「・・・・・・ん?」
航空機関士「エンジン正常。どうしました?」
機長「いや、なんでもない」
【もしかしたらこの時。機長はすぐ横を飛ぶSU-15の影を見たのかもしれない。
だが、その意識のない彼には、なんの反応も示す事ができなかった】
‐9:04
【攻撃命令・発令】
<SU-15TM>
戦闘機パイロット「了解。目標への攻撃許可、了解」
‐8:46
<高句麗航空0091便>
航空機関士「これでノーズポイントまで、一直線っと」
副操縦士「(アクビの声)あと4時間か。やれやれ」
‐8:44
<SU-15TM>
戦闘機パイロット「目標の後ろに回り込んだ」
‐8:40
<SU-15TM>
戦闘機パイロット「目標。ミサイル・ロックオン」
‐8:36
<SU-15TM>
戦闘機パイロット「FOX・2! FOX・2!」
‐8:29
<高句麗航空0091便>
ー衝撃音
不明「なんだ。今の音は?」
【SU-15TMの放った赤外線誘導弾は、91便の尾翼に命中。同機の方向舵制御ケーブル周辺、油圧系統等を破壊し、約1.75平方フィートの穴を開けた(いずれも事故調査委員会の最終報告書による推測)】
‐8:18
副操縦士「何が起こった?」
機長「推力、絞って」
航空機関士「エンジンはノーマル」
【同機が墜落するまで、四基あるエンジンには、なんの障害も起きなかった事が、フライト・レコーダーの調査で判明している】
‐07:59
機長「ギア」
‐07:54
機長「ギアだ」
ー高度警報音、オートパイロット解除音。鳴り響く。
‐07:08
機長「上昇してるぞ。高度が上がってる。スピード・ブレーキが作動してる」
副操縦士「なに? なんですって?」
機長「確認してくれ」
ー自動客室放送のチャイム音
人工音声「アテイション、緊急降下。 アテイション、緊急降下」
‐06:47
機長「高度が上がってる。オートパイロットはダメだ。もうきかない。マニュアル(手動)だ」
副操縦士「マニュアルもダメです」
人工音声「緊急降下中。注意してください」
‐06:31
副操縦士「マニュアルもダメです」
航空機関士「エンジンは、オール・ノーマル」
人工音声「煙草の火を消してください。現在緊急降下中です。煙草の火を消してください。現在緊急降下中です」
‐5:00
航空機関士「ハイドロ(油圧)が・・・・・・」
機長「本当か?」
航空機関士「両方とも・・・・・・」
人工音声「酸素マスクを鼻と口にあて、ヘッドバンドで固定してください。酸素マスクを鼻と口にあて・・・・・・」
ー客席からの悲鳴が聞こえる
‐04:44
副操縦士「ノーズポイント管制塔。こちら高句麗航空91便」
管制塔「高句麗航空91便。こちらはノーズポイントです」
副操縦士「了解。こちら高句麗航空91便・・・・・・え~現在緊急事態・・・・・・」
人工音声「酸素マスクを鼻と口にあて、ヘッドバンドで固定してください・・・・・・」
‐04:12
機長「機首が下がっている。重い。あー重い!」
航空機関士「コンプレッション全部です」
機長「急速に減圧されてる。一万フィートに降下」
人工音声「アテンション、緊急降下。アテンション、緊急降下。煙草の火を消してください・・・・・・」
ー荒い息遣いと、うめき声が、テープ終了まで続く
‐03:33
管制塔「高句麗航空91便。10048で受信せよ」
人工音声「アテンション、緊急降下」
‐02:54
不明「引け。引け」
ー人工音声「煙草の火を消してください。アテンション」
‐02:05
不明「左だ。左に回ってるぞ」
不明「パワー! パワー!」
ー人工音声「酸素マスクを鼻と口にあて、ヘッドバンドで固定してください。現在緊急降下中です」
ー再び、客席からの悲鳴が聞こえる
‐01:24
副操縦士「ノーズポイント。こちら高句麗航空91便」
管制塔「高句麗航空91便。こちらはノーズポイント。どうぞ」
‐00:57
管制塔「高句麗航空91便。こちらはノーズポイント。どうぞ」
人工音声「アテンション、緊急降下。煙草の火を消してください。現在緊急降下中です。煙草の火を消してください。酸素マスクを鼻と口にあて、ヘッドバンドで固定してください。現在緊急降下中です」
‐00:25
管制塔「高句麗航空91便。こちらはノーズポイント。どうぞ」
人工音声
「アテンション、緊急降下。煙草の火を消してください。現在緊急降下中です。煙草の火を消してください。
酸素マスクを鼻と口にあて、ヘッドバンドで固定してください。現在緊急降下中です。
アテンション、緊急降下。煙草の火を消してください。
アテンション、現在緊急降下中です。煙草の火を消してください。
アテンション、酸素マスクを鼻と口にあて、ヘッドバンドで固定してください。
アテンション、現在緊急降下中です。
アテンション……」
【テープ終了】
テープ終了の11分後。 高句麗航空0091便はセレス海に墜落した。
<SU-15TM>
戦闘機パイロット「目標は、撃墜された」
【以上の状況は、ルークトバニア連邦とアーシア画集国の融和政策が進み、双方のデータが事故調査委員会に提出され、初めて判明した。
当初からこの事故(事件)には、二つの疑問があった。
① 高句麗航空0091便は何故、航路を逸脱したのか?
② ルークトバニアは何故、民間航空機を撃墜してしまったのか?
①に関しては、ルークトバニアが回収、保管していた(その存在は長い間、秘匿されていた)ブラック・ボックスの解析により判明した。
フライト・レコーダーの記録によれば、高句麗航空0091便は、アーシア合衆国のオーグット空港を離陸した直後から、ヘディング・モードで飛行していた。
ヘディング(機首方位設定)モードとは、設定された方位に向かって、一直線に飛行する航法装置である。
恐らく高句麗航空0091便のクルー達は、離陸後、一定の距離だけヘディング・モードで進み、それから通常の「INS(慣性航法装置)」の自動操縦に切り替えるつもりが、何らかの要因で、その操作を失念してしまったと推測された。
「なんらかの要因」については、乗組員の疲労が指摘されている。
彼等はフライトの前日、高句麗航空の社内規定による「10時間の休憩」を満たしていたものの、その前日から長距離のフライトにつき、いわゆる「時差ボケ」に陥っていた。
ある国際線操縦士は「時差に疲れて休養を取るというのは、単に眠ればよいという単純な時間のつじつま合わせでは解決しない」 と述べ、乗員らの時差ボケが抜けきらなかった結果、注意力が散漫になっていたと主張している。
(事実、CVRにも何度もアクビを繰り返す彼等の声が入っている)
このため高句麗航空0091便は最後まで逸脱に気づかず、通常の航路(ロメオ20)を大きく外れ、ルークトバニア領空を侵犯してしまったモノと推測されている。
また事故発生当初から囁かれていた「スパイ飛行説」(民間機をワザと領空侵犯させる事で、ルークトバニア防空軍の動向を探ろうとした)は、このブラック・ボックスが公開された事で、完全に否定された。
CVRにも、フライトデータ・レコーダーにも、そのような事実は、何ひとつ記録されていな為である。
しかし、このデータの公開が事件の発生から10年という歳月を経ていたため、一部のメディアやジャーナリストの中には、その事実を知らず、未だに「スパイ飛行説」を唱える者もいる。
②に関しては、数年前、当のSU-15TMのパイロット(当時、防空々軍中佐。現在は退役)が、記者(アルベール・ジュネット氏)のインタビューに答えている。
それによれば「撃墜命令」は地区防空司令部から出されたもので、軍幹部、及び政府関係者がその事実を知ったのは、撃墜後、数時間たってからだったという。
また彼が明らかにしたところによれば、彼が会敵する前に複数機が91便との接触に失敗しており、司令部が(懲罰を恐れて)焦っていたという。
民間機とは、気付かなかったのか? との記者からの質問に対してはー
「目標(91便)は、航法灯と衝突防止灯は点滅していたが、国籍を示すものは何一つ見当たらなかった」と答えている。
垂直尾翼に描かれている航空会社のロゴマークは、通常、常時ライトアップされているが、当時の高句麗航空では経費削減のため、離陸と着陸時を除いてはライトを消して飛行する事が通常化していた。
また彼は、ルークトバニア防空軍では、民間機に対する迎撃訓練は、事故以前まで行われていなかった事も証言している。
そのため91便への国際周波数での呼び掛けも行われず、警告射撃も見えない(光らない)徹甲弾のみ という不十分なものになってしまったという。
彼はー
「領空を侵犯すれば、民間機であろうと撃墜するのが当時の我々のやり方だ。
迎撃機は、最初から目標を撃墜するつもりで発進している。
地上の防空指令センターは、目標が民間機かどうか分からないまま、侵入機を迎撃できなかった責任を問われるのを恐れ、ミサイルの発射を指示した。
直接攻撃したパイロット(私)に責任はない」
と、述べ、自身の行動を弁護した。
等の「Incident(出来事)」が報告されている。
事件後、ルークトバニアの海岸には、同機の破片、遺品が多数漂着した。
現在その地には、この事故への慰霊碑が建てられている。
高句麗航空0091便の乗員・乗客は、全員死亡した。
CVR Incident ー07 『撃墜』 end
ETA= en Estimated Time of Arrival
航空機 船舶 車両 あるいはコンピューター・ファイルが ある場所に着くと予想される時間、時刻の事・「到着予定時刻」




