Incident ー06 『自動』(最新話)
マレーシア航空機の乗員乗客の皆様のご無事を、心からお祈りしたします。
「いったい、どうなってんだ、これは?」
CVR Incident ー06
『自動』
April・26・1994 オーレット共和国/アピート国際空港 好古航空140便。
この日。好古航空140便(エアバスA300型)は、乗員乗客270名を乗せ、オーレットのアピート国際空港へと飛行していた。
エアバスA300型は、この当時の最新鋭機であった。
CVRは墜落の14分前から始まる。
ETA-13:45
副操縦士「フラップ15。降下中」
-グラグラと揺れる音
機長「わあっ」
副操縦士「いつもこの付近で揺れますね。まともに後流(前に飛んでいる飛行機が引き起こす乱気流)に入ります」」
機長「そうだねぇ」
副操縦士「おかしいな。今日は最初から最後まで後流に入っているようです」
-10:22
機長「方向舵をしっかりと足で支えていなさい。揺れがそんなにひどくならないから」
副操縦士「はい、教官(機長の事)」
-09:54
副操縦士「間もなく、ILSで進入開始」
*ILS進入=計器着陸装置による進入。
-09:32
副操縦士「1番の自動操縦装置を作動させます」
これはこれまで使用してきた2番の自動操縦装置に加え、着陸時の安全のため、2番の自動操縦装置も併用するための処置。
-08:48
副操縦士「ILSのコースに乗りました」
機長「前の機は……うわぁ(また大きく揺れたものと思われる) 君、もう少し速度を殺したほうがいいよ」
副操縦士「教官、あれは747型機じゃないですか?」
機長「747かどうかは分からないが、君ももう少し速度を殺したほうがいいよ。170ノットまで……そうしないと、あれにくっついて行ったんじゃ、引っくり返っちゃうよ」
副操縦士「はい。教官」
機長「低空での修正は、少し小さ目にやるんだ。大きく修正しないで、少しずつ、スムーズに」
-08:02
-機体が激しく揺れる音
副操縦士「ウィンド・シャー!」
*ウィンド・シャー=風の急変による揺れ
機長「気にするな、それは。 もうちょっとしたら、全神経を集中して『これ』を注意しておけばいいんだ」
副操縦士「はい。教官」
機長が言った『これ』とは、ILSのコースとグランドスロープ(進入角度)からのズレ等を見やすくするPFD(基本操縦計器)の事だと思われる。
同時に機長の椅子を調整する音が聞こえる。
機長は場合によって、自分が操縦を代わらなければならない状況を想定していたと思われる。
-07:44
副操縦士「グランドスロープに入りました」
機長「飛行機が多すぎるから、仕方ない」
副操縦士「じゃあ、自動操縦を切ります」
ILSを使用中、前方に飛行機がいると電波が乱れ、コースやグランドスロープの表示がゆれる事がある。
自動操縦を切ったのは、装置が、ゆれるILSの指示に追従しようと、過敏に機体を動かすのを避けようとしたためと思われる。
-07:32
機長「いいよ。手動で飛べば」
副操縦士「グランドスロープに乗った。もう問題ない」
この時点で、両方の自動操縦のスイッチが切られた。
-06:55
副操縦士「アウターマーカー通過」
*アウターマーカー=滑走路から約12・8キロの地点にある無線標識。
-06:11
副操縦士「フラップ20度」
*フラップ=下げ翼
主翼の後縁に取り付けられている装置で、下がることによって翼面積が増したり、迎え角を大きくする作用がある。
これがセットされていないと、航空機は離陸や着陸を正しく行う事ができない
-05;24
機長「高度2000ft(約600m)。速度150ノット(時速約278キロ)」
副操縦士「ギア・ダウン」
- ゴーっという車輪が降りる音
-05:03
機長「スーリーグリーン(車輪が全て無事に降りた事を示す、三個の緑のライトが点灯した)」
副操縦士「フラップ40。スポイラー・スタンバイ」
*スポイラー=主翼の上面に取り付けられた動翼で、着陸後機体の速度を落とすための装置。
-04:43
副操縦士「ランディング・チェックリスト」
*ランディング・チェックリスト=着陸点検リスト
「ギア(脚)下げ」の確認。
「フラップ全開」の確認。
「着陸灯」の点灯確認 等ー
六項目についてリストを読み上げ、その計器の確認を行うもの。
-03:02
機長「ランディング・チェックリスト、終了」
副操縦士「ありがとうございます」
-02:49
管制塔「HOG-140便。 Clear to Land(着陸支障なし)」
副操縦士「HOG-140便。了解」
-02:09
機長「えっ? あれ? あれ?」
-02:06
-警報音。同時にエンジン音、高まる。
-02:00
機長「君、君はゴーレバーを引っ掛けたぞ! 着陸モードが変わった」
副操縦士「はい。はい。はい。少し触りました」
-01:50
機長「それを解除して」
副操縦士「はい」
機長「それ」
副操縦士「はい」
【何を指して『それ』と言っているかは不明】
-01:30
ー自動操縦のスイッチが再び入れられた。
機長、副操縦士のどちらが入れたかは、コールされていない。
どちらにせよ、自動操縦装置を使用して、ILSのコースと進入角に飛行機を乗せようとしたものと思われる。
-01:26
機長「君見て。外を見て外を。それを押して。そう、君、それを……スロットルを切って」
副操縦士「ええ。高過ぎる」
機長「君はゴーアラウンド・モードを使っているぞ」
*ゴーアラウンド=「着陸復行・TOGA」 航空機が着陸もしくはそのための進入の継続を断念し、上昇体制に移ること。
-01:15
機長「いいから。ゆっくり。また解除して。手を添えて。ゴーアラウンド・モードは解除したのだな」
副操縦士「はい、教官。解除しました」
機長「もっと押して、もっと押して。もっと押して」
副操縦士「はい」
機長「もっと押し下げて」
【パイロット達は操縦桿を押して、高度を下げようとしていたと思われる。
しかし実は解除したと思っていたゴーアラウンド・モードが解除できていなかった。
この時、自動操縦装置は、ゴーアラウンドするために高度を上げようとしていた。
このため、パイロットと自動操縦装置で操縦桿を奪い合う形となっていたのだ】
-01:01
機長「今、ゴーアラウンド・モードになっているぞ」
副操縦士「教官。オートパイロット、解除しました」
【フライト・レコーダーの記録によると、この段階ですでに水平尾翼は(自動操縦装置にしたがって)最大限、機首上げ位置に角度が調整されていた。
そのため、手動で機首を下げようとすると、大きな力を必要としていた】
-00:54
副操縦士「やっぱり押し下げられません。ええ」
機長「私の。あの着陸モードは? いいから、あわてずに」
【この時、どちらかが水平尾翼の角度を示す表示を確認しておけば、事故を回避するチャンスはあったかもしれない。
また機長は、着陸モードのスイッチを入れれば、ゴーアラウンド・モードは解除されると誤解していたようである】
-00:47
副操縦士「教官。スロットルがまた自動になりました」
機長「OK。私がやる。私がやる。私がやる」
副操縦士「解除して。解除して」
-00:41
機長「いったい、どうなってんだ、これは?」
副操縦士「解除して。解……」
機長「ゴー・レバー。 ちくしょう! どうしてこうなる!」
-00:36
副操縦士「管制塔。HOG-140便。ゴーアラウンドします」
-「グランドスロープ」(進入角から外れたときに鳴る警報)音声、響く。
機長「え?」
【フライト・レコーダーの記録によれば、この時、フラップが操作され15度になった。
機長が命じた音声がCVRに残っていないため、この操作は副操縦士が独断でゴーアラウンドのために行ったと見られる】
この時、140便は急激に機首を上げ、上昇し始めた。 このため、速度が落ち始める】
機長「え? これじゃ失速するぞ」
- 非常警報音。鳴り響く。
-00:28
機長「終わりだ」
- 失速警報音(2秒間)鳴る。
副操縦士「早く、機首をさげて!」
【フラップ20度になる】
-00:21
副操縦士「セット。セット。機首下げて!」
機長「いいから。いいから、あっ……あわ……あわてるな、あわてるな」
副操縦士「パワー、パワー、パワー!」
-00:14
機長「アッ、ワアッ!」
- 失速警報音、最後まで鳴り響く。
-00:09
副操縦士「パワー!」
機長「終わりだ!」
副操縦士「パワー!」
機長「あああああああああああああああああああああっ」
副操縦士「パワー! パワー!」
-00:04
- 非常警報音。
失速警報音。
-00:00
録音終了。
好古航空・140便は、急上昇した後、失速。尾部から滑走路に叩き付けられかのように墜落、炎上した。
【事故調査委員会は、パイロットの自動操縦装置の誤操作があったことを指摘したうえで、エアバスによる操縦システム設計も不適切であったとしている】
【手動操縦でのILS進入時に副操縦士が誤って着陸復行レバーを操作し、着陸を中断するゴーアラウンドモードになった。
そのため、機長は副操縦士にゴーアラウンド・モードの解除を指示するが解除できず、機長自らも試みたが解除できなかった。
そのうえ、ゴーアラウンド・モードを解除しないまま自動操縦装置に反発する機首下げの操縦を行い続けたため、
自動操縦装置は水平安定板を機首上げ方向に操作したうえ、自動失速防止装置も作動しエンジン出力を最大とした。
しかし、操縦桿の操作による昇降舵の動きの効果が自動操縦による水平安定板の動きの効果を若干上回っていたため、機体は降下をはじめた。
何とか降下はしたものの、機体が思うように操作を受け付けないため、機長は着陸のやり直しを決断し、操縦桿を元に戻した。
その結果、自動操縦装置による機首上げ操作のみが急激に作用して機体が急上昇。機首角は最大53度にまで達し、失速し墜落した】
【ゴーアラウンド・モード(自動操縦)が解除できなかった理由としてー
機長は2年前までボーイング747型機に搭乗していたため、A300型での自動操縦に慣れていなかった。
747型を始めとする「アメリカ系」の航空機は、操縦桿をある程度押し込む事で自動操縦は解除される。
しかしA300型のような「ヨーロッパ系」の航空機は、あえて複雑な解除方法(スイッチを切るだけではなく、いったん他の「モード」への切り替えが必要)を採用していた。
このため140便のパイロット達は、今回のような緊急時に、しかも混乱している状況下での、適切な対応ができなかったものと思われる】
【操縦桿を過度に押し下げた為、ゴーアラウンド・モードになっていた自動操縦装置がこれに反発。
逆に推力を上げ、上昇する為に水平尾翼を最大上昇角で固定してしまった。
この過度に操縦桿を操作した時点でオートパイロットが(自動的に)外れていれば、今回の事故は回避できたと思われる】
【一説には「ヨーロッパ系」航空機のオートパイロットの解除方法が『複雑』なのは、あえて「面倒くさい」作業を行わせて「うっかり」オートパイロットが外れないようにとの設計思想があったためとされている。
これはヨーロッパでは空港が気象状況により視認できず、オートパイロットによる空港進入が頻発するため、その飛行中に簡単には外せないような仕様になったとも言われている。
この事故の後。自動操縦装置はワンタッチで解除できるようにとの勧告がなされ、エアバス社は改修を行った】
【この事故を受けて、とあるパイロットはー
「コンピューターは『人間が入力した作業を行うもの』であり、いかにハイテク機といえども最終的には『人が判断して飛ばしているもの』だ。
コンピューターが人間の判断より優先され、人間がそれを解除できなかった事が、今回の事故の最大の原因だ」
と述べた】
等の「Incident(出来事)」が報告されている。
【アピート国際空港は、半民半軍の施設であったので、救助には多くの軍人・民間人が関わった。
彼、彼女等の懸命な救出作業の結果、七名の乗客が救助された。
助かったのはいずれも、堅牢な主翼付け根付近の前方に着席していた乗客だった。
好古航空140便の乗員乗客270名中、263名が死亡した】
追記
好古航空ではこの事件の四年後にも、同機種で、まったく同じ原因による墜落事故(乗員乗客196人全員と、墜落現場近隣住民6人の合わせて202人が死亡)を起こし大きな批判を浴びた。
CVR Incident ー06 『自動』 end
ETA= en Estimated Time of Arrival
航空機 船舶 車両 あるいはコンピューター・ファイルが ある場所に着くと予想される時間、時刻の事・「到着予定時刻」




