Incident ー02『分解』
読んでいただいた13人の方々に感謝。
これからも読み続けていただければ幸いです。
それではしばらくの間のお付き合い。よろしくお願いします。
「ああ。なんて良い天気なんだ?」
CVR Incident ー02
『分解』
June・22・1992 ベトナム社会主義共和国/ディエンビエンフー上空 GRDF航空16便
【その日はよく晴れた、最高のフライト日和だった】
ETA
-16:08 不明 あくびの声
-15:21
航空機関士「コーヒーでも取りますか?」
機長「ああ。そうしてもらおうかな。 君達はどうする?」
副操縦士「じゃあ私も。ブラックで」
航空機関士「機長は砂糖とミルクは?」
機長「あゆみ(客席乗務員)君に言って、パルスイートがあればそれで……ダイエット中なんだ」
航空機関士「おやおや。了解しました」(笑い声)
-客席乗務員用のインターフォンを取り上げる音
-15:02
航空機関士「はあい、あゆみちゃん。コクピットへの出前を頼む。 ああ。そうだ。コーヒーを三つ。
ひとつはアリアリ。ひとつはブラック。そしてひとつは機長スペシャルの、パルスイート入りで頼む(笑い声) ああ。よろしく」
-インターフォンを戻す音
-14:44
航空機関士「今、店を出たそうで…もうすぐ届きます」(笑い声)
-14:10
副操縦士「ああ。ほんとに良い天気だなあ」
航空機関士「毎回こんな好天に恵まれれば良いんですけどねぇ」
機長「そういえば君は、こないだのハード・ランディングした機に乗ってったんだって?」
*ハード・ランディング(硬着陸)とは、航空機等が、急激に降下し地面に叩き付けられる形で着陸をすることをいう。
-12:50
航空機関士「ええ。死ぬとこでした。もう汗、どっぷり。 あの機の機長、ご存知ですか?」
副操縦士「うーん。まぁ噂はね。一緒に飛んだ事はないが……」
航空機関士「私は二度とごめんですね。 あんな奴と飛ぶのは。 いばりくさって……」
機長「私も嫌われないように気をつけなくちゃ」(笑い声)
-12:22 -ドアをノックする音。 開ける音。
-12:16
客席乗務員「お待たせしました」
航空機関士「お待ちしてました」(笑い声)
副操縦士「やあ、きたきた」
客席乗務員「はい、ブラックです。 こちらがアリアリ。 はい。最後は機長スペシャル」
機長「スペシャルを、ありがとう」(笑い声)
-11:03
客席乗務員「順調ですか?」
副操縦士「順調、順調」
機長「この調子なら定刻通り、北京に到着できそうだ」
【GRDF航空16便はベトナム・ホーチミンから、中国・北京経由、ロシア・モスクワに向っていた】
-10:38
航空機関士「こんな良い天気の日には、なにも起こらないよ」
【この時、航空機関士の顔前にあるパネルで、ひとつの警告灯が点灯する。
それは飛行中に第1エンジンが逆噴射を起こす可能性がある。 という警告だった。
一番最初に気付いたのは、居合わせた客席乗務員だった】
-10:02
客室乗務員「これ、なんですか?」
航空機関士「ん? ……いや、これは。 んん?」
副操縦士「どうした?」
航空機関士「第1エンジンに逆噴射警報です。 でも……」
機長「飛行中に逆噴射?」
航空機関士「はい。警告ではそうなっています。 でも……」
-09:24
不明「そんな事あるもんか」(小さく、ほとんど聞き取れない)
-09:04
機長「ランプの故障じゃないのかね?」
航空機関士「ちょっと調べてみます」
機長「マニュアルには何て書いてある?」
- ガサゴソ音。 恐らく「緊急時機能不全チェックリスト」を取り出したと思われる。
-08:05
機長「何て書いてある?」
副操縦士「あーえー。待ってください」
客席乗務員「それでは私は戻ります」
機長「ああ。コーヒーをありがとう」
-ドアの開閉音
-07:34
航空機関士「やっぱり電気的なトラブルかな?」
副操縦士「あった。これだ。 なになに……付加システムの不具合により、飛行中に作動するおそれがある。 着陸後、正常な操作を望む」
機長「それだけ?」
副操縦士「これだけです」
機長「うーん。 そうか。なるほど……」
-06:27
航空機関士「整備士に訊ねてみますか?」
機長「何? なんだって?」
航空機関士「地上の整備スタッフに確認してもらいますか?」
機長「ああ……ああ、そうだな。頼む」
-06:00
航空機関士「サイゴン・カンパニー。聞こえますか? サイゴン・カンパニー応答願います。こちら16便」
【この後、数分にわたり、地上整備スタッフと、航空機関士のやり取りが続く】
-02:12
機長「うーん。でもまぁ、湿気かなにかの影響だろう。 それ以外には……」
副操縦士「おっ。またランプが点灯してるぞ?」
航空機関士「ええ?」
機長「地上はなんと?」
航空機関士「整備記録を調査中だそうです」
不明「はん!」(誰かが鼻を鳴らす音)
-01:58
副操縦士「高度を落としましょう」
機長「なんだって?」
副操縦士「高度を落として、速度を抑えましょう」
機長「うーん」
01:05 航空機関士「うあ。逆噴射が設定された」
00:56 ーバチッという音がコクピットに響く。
00:53 機長「大変だ!」
00;50 -三種類の警報音が、一斉に鳴り出す。
00:50 警報音「ピューゥ。ピューゥ。ヴゥーヴゥー。ワァーン」
00:43 不明「これはー」
00:40 不明「どうした!?」
00:37 警報音「ピューゥ。ピューゥ。ヴゥーヴゥー。ワァーン」
00:32 不明「スイッチ! スイッチ・オフ!!」
00:30 警報音「ピューゥ。ピューゥ。ヴゥーヴゥー。ワァーン」
00:25 警報音「ピューゥ。ピューゥ。ヴゥーヴゥー。ワァーン」
00:20 航空機関士「だめだっ」
00:12 不明「待て! しまった!」
00;08 警報音「ピューゥ。ピューゥ。ヴゥーヴゥー。ワァーン」
00:06 警報音「ピューゥ。ピューゥ。ヴゥーヴゥー。ワァーン」
00:03 -炸裂音
【テープ終了】
機体は約20000フィートの上空で空中分解し落下。胴体、翼、機首はそれぞれ、1マイル離れた場所で見つかった。
事故原因は、第1エンジンが逆推力装置バルブの故障により、飛行中に逆噴射したものであると推定されている。
またー
「予期せぬ事態に陥った乗員にとって、この事故は回避できないものであった」
との、「Incident(出来事)」が報告されている。
GRDF航空16便の乗員・乗客は全員死亡した。
CVR Incident ー02 『分解』 end
ETA= en Estimated Time of Arrival
航空機 船舶 車両 あるいはコンピューター・ファイルが ある場所に着くと予想される時間、時刻の事・「到着予定時刻」




