Incident ー01『墜落』
こんにちは、一陣の風と申します。
初めての方は「はじめまして」 既にお見知りおきの方々は「またお会いできて幸い」です(礼
【CVR】とは、今では全航空機に搭載されている、コクピット・ボイス・レコーダーの事で、フライト・データ・レコーダーと共に、航空機に積まれる、いわゆる「ブラック・ボックス」のひとつです。
CVRは航空機事故(ないしは事件)の多くの場合、関係者(パイロット。乗客等)からの証言が得られないため、事故原因の究明の目的で設置された装置です。
最後の瞬間の三十分前からの録音が残されており、その記録は事故原因の究明だけに留まらず、より安全な航空機の運行・設計・人的ミスの問題点などの、いわゆる「フェイル・セーフ(信頼設計)」の向上にも役立っています。
「チャーリー・ビクターロメオ」という言い方は、このCVRというアルファベットをワザと、軍用フォネティック・コードで言い換えたもので、実際の航空関係者は、こんな呼び方はしないそうです。
ーこれは小説か?
と、訊ねられたら、作者ですら「ぷいにゅん?」と小首を傾げたくなるような作品(勝手に「偽・ノンフェクション」とか「ルポルタージュ・もどき」と思ってます)ですが、いわゆる「内なる声」に突き動かされて書いてしまいました。 怯えてはいますが、反省はしていません(鹿馬
全五話予定です。
それではしばらくの間のお付き合い。よろしくお願いします。
「降ってきたなぁ」
CVR Incident ー01 『墜落』
January・16・1981 アメリカ/ワシントン・ナショナル空港 ウスティア航空78便
【それは雪の降る寒い日だった】
ETA
-28:05
機長「降って来たなぁ」
副操縦士「また降ってきましたねぇ」
【この日、ワシントン空港では朝からの降雪のため、フライト・スケジュールは大幅に遅れていた。
このため、ウスティア航空78便も長時間にわたる地上待機を余儀なくされていた】
-27:30
副操縦士「除雪をまた頼みますか?」
機長「このまま待機が続くようなら、もう一度やらなきゃな」
<ドアをノックする音~ドアが開く音>
-27:03
機長「やあ、どうした、アトラ」
客室乗務員「離陸にはまだ時間がかかりそうですか?」
副操縦士「まだ管制塔から許可がでないんだ。 なにか問題でも?」
客室乗務員「まだ飛ばないのかって、お客様がうるさいの」
副操縦士「ああ。そうだな。ちょっと聞いてみるよ。分かったら教えるよ」
客室乗務員「ええ。お願いします」
<ドアが閉まる音>
-26:00
機長「なかなか良い子だろ?」
副操縦士「機長はメガネっ娘好きですからね」(笑い声)
-25:26
副操縦士「ウスティア航空78便から管制塔。どうぞ」
管制塔「ウスティア航空78便。どうぞ」
副操縦士「離陸までまだ時間がかりそうですか? もしまだ時間がかかるようなら、再度の除雪を行いたいと思います」
管制塔「貴機の離陸の順番は……あー、今から五番目です。除雪を希望しますか?
副操縦士「どうしますか?」
【おそらく機長は拒否したと思われる】
-24:55
副操縦士「いえ、それなら除雪はしません」
管制塔「了解、ウスティア航空78便。タキシングの用意を始めてください」
*タキシング ー航空機が自力で,地上(または水上)のある地点から別の地点まで走行すること。
-24:26
副操縦士「ウスティア航空78便。了解。タキシングに備えます」
機長「待ってました(笑い声) それじゃチェック・リストを」
副操縦士「チャーリー。チャーリー(はい、はい)」(笑い声)
【この後、約五分間にわたって、チエックリストの読み上げが続けられる】
-19:38
管制塔「ウスティア航空78便。どうぞ」
副操縦士「ウスティア航空78便。どうぞ」
管制塔「タキシングを許可します。誘導路2を通って、滑走路15へ向ってください」
副操縦士「了解、ウスティア航空78便。誘導路2から滑走路15へ向います」
-19:10
副操縦士「タキシングの許可がでました」
機長「よしよし。それじゃあ行こうか」
副操縦士「了解」
機長「あー、その前にアトラに伝えてね」
副操縦士「チャーリー、チャーリー」(笑い声)
<客室乗務員に通じるインターホンを鳴らす音>
-18:45
副操縦士「やあアトラ。出発の許可が出た。もうすぐ動き出すからよろしく。 ああ……ああ、その通り。じゃ」
機長「第三エンジン、始動」
【地上待機のため、停止させていた第三エンジンを再始動させ始める】
-17:58
副操縦士「第三エンジン。圧力上昇中。異常なし」
機長「じゃあ、行こうか」
副操縦士「了解」
【ウスティア航空78便は、離陸すべく滑走路に向かい動き始めた】
-16;30
副操縦士「うん」
機長「積もってる?」
副操縦士「前縁から中央にかけて……アンチ・アイス?」
【返答の声は録音されていない】
-16:09
管制塔「ウスティア航空78便。こちら管制塔。どうぞ」
機長「こちらウスティア航空78便。どうぞ」
管制塔「離陸滑走路を15から19に変更してください」
機長「離陸滑走路15から19に変更。了解」
【この時。管制塔への交信は機長が行っていた。 したがって操縦は副操縦士が行っていたと推測される】
-15:38
機長「滑走路を19に変更だそうだ」
副操縦士「何処ですって?」
機長「19だ。くそ、よく分からんな」
【雪が再び激しく降り始め、視界が悪くなっていた】
-15:04
副操縦士「あれですか?」
機長「いや、もう少し先じゃないか?」
-14:47
機長「管制塔。こちらウスティア航空78便です」
管制塔「ウスティア航空78便。どうぞ」
機長「滑走路19に入る誘導路は何番ですか?」
管制塔「滑走路19に入る誘導路は4番です」
機長「了解」
管制塔「貴機より先にノーズポイント航空が離陸します。その後ろで待機してください」
機長「ウスティア航空78便。了解」
-13:58
機長「あれだ」
【滑走路19と、同じく離陸待機中のノーズポイント機を視認したらしい】
-13:22
機長「ちょっと近づけようか」
副操縦士「はい?」
機長「もうちょっと(ノーズポイント機に)近寄って、アイツらの排気で氷を溶かしちまおう」
-11:55
管制塔「ウスティア航空78便。滑走路に進入してください」
機長「了解。ウスティア航空78便。スタンディング・テイクオフ」
*スタンディング・テイクオフ(standing take-off)
滑走路の中心線に機体を正対させ,いったん停止して,エンジンを離陸出力にセットした後,ブレーキを放し,離陸滑走を開始する離陸の方法。
-09:58
管制塔「ウスティア航空78便。離陸を許可します」
機長「ウスティア航空78便、了解。 テイク・ケア(さようなら)」
-09:03
機長「さあ、行こうか」
ーエンジン音、高まる。 滑走路を走る、ゴトゴトという音。
08:44 副操縦士 「おや?」
08:38 副操縦士 「遅いな……」
08:32 副操縦士 「重い」
08:09 副操縦士 「これはおかしい」
07:56 副操縦士 「機長」
07:29 機長「今日は寒いからね」
-ゴトゴト音。激しくなる
06:56 機長「V1」
*V1-離陸決定速度:ブイ・ワン(V1:take-off decision speed)
航空機が離陸滑走を開始した後,装備してあるエンジンまたはその他に重大な故障が発生したとき,離陸を中止するか,あるいは継続するかを判定し,その操作を開始する速度。
06:39 機長「ローテーション」
*ローテーション もしくは、ブイ・アール(VR:rotation speed)
離陸滑走を開始したのち,この速度(VR)に達したら,操縦桿を引いて機首の引き起こしを開始する速度。
05:59 ーガタガタ音。 失速を示す「スティック・シェーカー」が発生する。
*スティック・シェイカー(Stick shaker)
航空機が失速する可能性に陥った時に操縦桿が振動し、パイロットに伝える警報装置。
05:55 不明「なんだこれは?」
05:45 ー激しい息遣いが聞こえ始める。
05:44 警報装置「テレイン。テレイン(地表接近)」
05:12 副操縦士「失速。失速する!」
05:03 機長「引け! 引け!」
04:46 副操縦士「パワー! パワー!」
04:38 不明「ううう(唸り声」
04:37 警報装置「テレイン。テレイン」
03:47 エンジン音、高まる。
03:02 不明「ほんの少し……あとほんの少しだけ上がればいいんだ」
03:00 不明「ちょっと上がった」
02:48 警報音「ピューゥ。ピューゥ 。テレイン。テレイン」
02:45 ドンドン -と。 爆発音。
02:33 不明「エンジン! 第三エンジン!!」
【機首を引き起こしすぎた為にエンジンへの吸気が乱れ、バックファイアー(混合気が燃焼室の外で燃焼すること。異常燃焼)が起きたと推定される】
02:24 警報音「ピューゥ。ピューゥ」
02:11 警報音「テレイン。テレイン」
01:58 機長「やっぱりダメだ。 失速だ!」
01:22 副操縦士「落ちる! 落ちる!」
01:17 機長「チャーリー! チャーリー!」
00:57 警報音「ピューゥ。ピューゥ 。テレイン。テレイン」
00:46 不明「はーはー」(不明瞭)
00:34 警報音「ピューゥ。ピューゥ 。テレイン。テレイン」
00:26 警報音 「ピューゥ。ピューゥ 。テレイン。テレイン」
00:22 不明(おそらく副操縦士)「天にまします、我らー(以下、聞き取れず)」
00:13 警報音「ピューゥ。ピューゥ 。テレイン。テレイン」
00:06 警報音「ピューゥ。ピューゥ 。テレイン。テレイン」
00:02 衝撃音
【テープ終了】
機体は空港から、6マイル(約10キロメートル)離れた草原に墜落。 爆発、炎上した。
後の事故調査委員会で報告された事故原因はー
1) 翼についた氷の除去作業をしないまま(アンチ・アイス装置は作動していなかった)離陸を始めたこと。
翼に着氷すると、翼面の空気の流れが乱れ、揚力が十分に得られない。
また離陸前に他機の排気で雪を溶かそうとした試みは、反って事態を悪化させていた。
2) フラップがセットされていなかった。
*フラップ FLAPS(下げ翼)
主翼の後縁に取り付けられている装置で、下がることによって翼面積が増したり、迎え角を大きくする作用がある。
これがセットされていないと、航空機は離陸や着陸を正しく行う事ができない。
3)それらの状況にパイロット達がまったく気付いていなかった。
フラップに関しては、管制塔からのタキシング指示に気をとられ、チェック・リストが途中で終わってしまったため、
セットされていない事に気が付かなかった。
その後も滑走路の急な変更で、パイロット達の意識が移動に集中したため、チェック・リストが途中で終わってしまった事を忘れてしまっていた。
4)フラップの警報装置(離陸時に正しくセットされていないと、音で警告する)は、エンジンがMAX・パワーになって初めて作動する設計になっていたため、ウスティア航空78便のように、
パワーを少し絞った状態(寒さのため、少ないパワーで離陸できた)では、作動しなかった。
5)長時間の地上待機で、パイロット達のストレスが高まっていた。
乗り継ぎ等のため、運航時間に対する焦りがあった。
これらの要因がパイロット達の注意不足を招いた疑いがある。
等の「Incident(出来事)」が報告されている。
ウスティア航空78便の乗員・乗客は全員死亡した。
CVR Incident ー01 『墜落』 end
ETA= en Estimated Time of Arrival
航空機 船舶 車両 あるいはコンピューター・ファイルが ある場所に着くと予想される時間、時刻の事・「到着予定時刻」
本作を書くにあたってー
ナショジオch「メーデー!」シリーズ。
柳田邦男「マッハの恐怖」シリーズ等の書籍。
「墜落!の瞬間」マルコム・マクファーソン著。青山出版。
Web上の関連サイト。
等を参考にしましたが、所詮、机上の素人。現場は分かりません。
もし、詳しい方が居られて、用語やその他の表現方法についての間違いがあり、それをご指摘いただけるのであれば幸いです。
ですがその場合、それらの事柄について、こちらから逆質問させていただく可能性がある非礼を、今のうちにお詫びしておきます。
よろしくお願いします。
もちろん、このお話しはフィクションであり(参考にした事故はありますが)ー
実在する個人、団体、諸現象。漫画、アニメ、ゲーム、「ARIA」とは、全くの無関係です(ド阿呆




