カルダミネ―色合せた恋
待ち合わせは最寄駅だった。
あれからパソコンを駆使していろんな美味しそうなお店を探してきた。
頼りたくはなかったが、三沢にもお願いして探した。
三沢は俺よりも恋愛経験があるので一応聞いてみた。
とりあえず電車で5分の駅にあるところだった。
「せいぜい頑張れよー」
「うるせー!」
「応援してるんだって」
三沢の車で駅に送られ、俺はその待ち合わせ場所に向かった。
「ありがと」
「いいえー。しかし男なんだから免許ぐらいもてよなー」
そういうと三沢は車に乗って帰ってしまった。
確かに免許持ってたら楽だろうな。
今の俺には本当になにもないような気さえしてしまう。
数分後待っていると、桜井さんが見えた。
「お待たせしましたー!待ちました?」
と、桜井さんは笑顔でこちらにやってきた。
俺はその声を聴いて緊張が最高潮に達した。
「う・・ううん!じゃぁ行こうか」
駅に着いて10分くらいで着くイタリアンだった。
ランチの時間帯のせいか人が少し多くて、賑やかだった。
運ばれてきたパスタは評判通りの美味しさだった。
食事を終えると紅茶が運ばれてきた。
とても洒落乙なコーヒーカップに運ばれてきた。
「美味しかったねぇ。ここのパスタ」
笑顔を向けながら話す彼女に俺は見られずに目を反らした。
「よかった!気に入ってくれたみたいで」
「こんな近くにこんな美味しいお店があるなんて知らなかった」
俺も自然と笑って、やっぱり楽しいなと思った。
「香川さんは恋とかしてないんですか?」
急に核心を突かれたので俺はビクッとしてしまった。
「いや、また何を急に」
「なんとなく聞いてみたんだけれども」
「まぁ、それなりに」
口の中が乾いてきたので、また紅茶に口をつけてしまう。
「恋愛っていいですけど、本当叶わないと辛いだけですから」
「そんなこと、あったの?」
「あったっていうか、まぁやるせないことなら何回か。はっきりしない人だった」
「はっきりしない?」
「ひどかったですよー。年上なのに頼りなくて。いきなり床にバック置いて財布探す人とか。いまなら笑い話ですけど、本当隣にいるだけで恥ずかしい」
「それは・・」
そのとき桜井さんは俺の目をしっかり見てきたと思う。
「いいですか、年上はしっかりしてなんぼ。結局年上に求めることは安心感と、頼りがいですよ」
「・・確かに、そうかもしれないな。俺にはない要素かも」
「香川さんは十分頼りがいありますよ!言ったでしょう?もっと自信持った方がいいって。こんな話したの、信頼してるからですよ。ほかの男性に話したことないから」
俺は嬉しい半分、複雑な気分半分だった。
2時間ぐらい雑談してその日は駅で別れることにした。
「桜井さん、ひとつ聞かせてくれないか」
別れ際で改札に向かう彼女の背中を追いかけた。
「何ですか?」
「俺にもチャンスはあるだろうか」
少し沈黙が訪れた。こんなにこの時間は長いと感じるのだろうか。
「それは香川さん次第ですよ」
そう言うと彼女は笑っててを振って帰っていった。
俺はその背中をただ見送るしかなかった。
***
あれから1週間経ち、俺は大学のキャリアセンターから出てカフェに向かっていた。
携帯を見ると、三沢からのメールが届いていた。
『デートどうだった?話聞かせろよなー』
俺は三沢に連絡を取り、迎えに来てもらうことにした。
10分後、三沢が車で迎えに来た。
「よ、しおれた顔してんな?」
三沢はそう話しかけると、乗れよ、と言った。
「上手くいかなかった?」
「いや、そんなことはなかった。むしろ幸せだと思った」
「じゃぁ何でそんな顔?」
「俺にも分からない。とりあえず、出してくれ」
三沢はそれ以上問い詰めずに車を走らせた。
ここから自宅まではそう車ではかからないと思う。
三沢は無言で走らせたけど、途中で話しかけた。
「今日飲まない?サークルの奴らも誘ってさ。コンビニでも寄るか?」
俺は生返事でうん、とだけ言った。
近くのコンビニに車を止めると、時刻は夕方を指していた。
俺の住んでる近くには土手がある。
春になると桜並木ができてとても美しい。
もうこの土手の桜を眺めるのは今年で4回目、きづくと緑の木に染まるだななんて。
そこに1代の青い車が止まった。
乗っているのは、あの爽やか君の葉山君だった。
「イケメンは車も運転できるんだなー」
なんてぼんやり呟く俺のスーツとネクタイは完全にくたびれていた。
就活真っ只中のこの俺が本当に頼りがいがあるのだろうか。
その横からドアが開き、だれかが出てきた。
俺はその場に目が釘付けになった。
出てきたのは、桜井さんだった。
俺はその場で逃げればよかったなぁと今からなら思うけれどもあの時は足が棒のように動かなかった。
俺はくたびれたスーツを着て、葉山君は爽やかな白いシャツを着こなしている。
その横で彼女は淡いベージュのシャツに淡いスカートだった。
そこからは死角になってよく見えなかったが、隣で笑う桜井さんも葉山君も
2人にしか分からないような温かい空気が出ていた。
お互いを慈しみあうようなそんな笑顔が包んでいた。
あぁ、こいつらそういう関係なんだな。
そう悟った。
「香川、乗れ。行くぞ」
三沢に声をかけられ俺は無言で乗り込んだ。
「ぱぁっと飲みに行くか?」
「いいや、このまま自宅で飲もう」
「分かった」
三沢はやっぱり無言で走り抜けて、音楽をかけ始めた。
あの桜の並木の土手はどんどん遠ざかっていく。
俺の恋もこれで終わる。
窓の外を見ながら初めて涙を流した。
恋ってこんなに辛いんだな。
そう、思うと止められなくなった。