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僕と花  作者: 佐倉 夕夏
インパチェス―鮮やかな人
7/14

ハイビスカス・赤 新しい恋

誠に突然ではあるが、俺は大の甘党である。

男にしては珍しいわね、と何度も言われてきたが俺が一番好きなのはケーキ。

チョコレート、クッキー。

その話を俺は特に他人にしたことはないが、飲み物のセレクトが甘い紅茶とか、カフェオレとか

そんなセレクトを見てみんな俺は甘党だって気づくのだ。

「香川さん甘いのすきですよね?」

あれは天使と休憩に入ったときだと思う。

2人きりに休憩で俺は話す方じゃないから、相手が話してくれないと恐ろしく沈黙が続く。

「好きだよ、結構」

「ですよねー。その紅茶ストレートとかいってめっちゃ甘いですからね」

という彼女の飲み物は俺があんまり好まない砂糖がほとんど入っていない紅茶である。

「桜井さんは嫌いなの?」

「甘いものは好きですよ。でも紅茶党の私には甘い紅茶って飲まないんです。ストレートには砂糖はいらんだろうって。フレーバーティーだとまた違いますが」

桜井さんは紅茶にやたらと詳しい人だった。

いろんなメーカーの紅茶を飲み比べたり、こんなフレーバーの紅茶あるんですよーとか。

その代りコーヒーの知識は皆無だったようだが。

「大人だねぇ」

「2歳しか変わりません。それより、スイーツの美味しいお店とかって興味あります?」

「あるよ。でも女子ばっかで入れない」

「確かに!でもこの間見つけたお店は男性も何人かいましたよ。少数でけど」

「何が美味しいの?」

「うーん・・やっぱりタルトじゃないですか?イチゴとかのタルト美味しいですよ」

「イチゴのタルト!!」

「反応しましたね笑 今度一緒に行きますか?なっちゃんと行こうとしてるんですが」

なっちゃんとは、この間入ってきた新人、川村奈津美のことである。

「いいの!」

「えぇ。行きましょう」

・・・と俺はすんなりこの天使とごはんを食べに行くお話を取り付けた。

正直信じられなかったが、桜井さんは全然嘘っぽい顔もしてなかったし、川村さんも嬉しそうにいいですよ、と言ってくれた。俺は完全にテンションが上がった。



***

「今度スイーツ食べに行くんだってなぁ」

何時の間にか情報が漏えいしていて斉藤君ににやにやしながら聞かれた。

その日は男どもだけの華のないメンバーだった。

「な、何で知ってるの」

「桜井さんも川村さんも言ってたから。お前アクティブになったな」

斉藤君は仕事をしながら俺が入った当時を思い出しているようだった。

「桜井さんが、誘ってくれたんだもん」

「知ってるよ、お前ができるわけないしな」

ぐさっと一突き刺す斉藤君の爽やかすぎる言葉にはもう慣れた。

そこに葉山君が仕事を終えてこちらに戻ってきた。

「おーい、葉山君聞いたか?香川君桜井さんたちとスイーツ食べにいくんだと」

大声で言うもんだから俺は何故か分からないが赤面しかける。

そんなこと大体公に言われたことないから対処法がさっぱり思いつかない。

「え!?そうなの?二人で?」

「違うよ・・川村さんも」

「あ・・なんだ。そっか、楽しんできなよ」

葉山君は一瞬ホッとした顔つきをしたかのように見えた。

斉藤君はその微妙な表情には全く気にもかけず、その話を続ける。

葉山君はその話を聞きながらも俺の方は見なかった。嫌な予感がした。

「ていうか、香川君甘党だったんだね?意外!」

と笑って言ってきてくれたから気のせいかなと思い直した。


***

当日は21年間もてなかった俺は両手に華状態で待ち合わせ。

桜井さんも川村さんもいつもとは雰囲気違う可愛い恰好で俺は落ち着かなかった。

「楽しみですか?」

と川村さんに聞かれ生返事でうん、と応える俺の恋愛経験値ゼロに比例する女性に対しての扱い方の低さに絶望した。

中に入れば男性も結構多かったように思える。

カップルはもちろん、野郎共できているグループもあり俺はいささか安心した。

ケーキだけはバイキング形式で、ごはんは別に頼む感じ。

と言っても軽食だからほとんどケーキのみ。

何分か夢中で食べていると、おなか一杯になり、食べ放題って恐ろしいなと感じた。

川村さんがトイレで席を外すと俺と桜井さんだけになった。

桜井さんんは普段んと変わらないテンションで話をしてくれた。

「今日のこと、先輩に言うんだよ。俺は今日、女の子2人とごはん食べた!って」

「それ言ったら変わるかな」

「変わるとおもうけどなぁ。俺を差し置いて女2人とごはん!それって俺はもううざいってことなのか?みたいな展開になればいいね」

「そんな一筋縄で行くような相手じゃないんだよ。じゃぁ俺とも言ってくれるよな?的な」

と話すと桜井さんは押し黙って少し考えていたと思う。

「ねぇ。それって重いんじゃないの。男の重いは最低だよ?」

その言葉にピンときた。

「そう!だから重い!!重いから彼女できないんだよ」

「うわーきついです、男の重いは。女の重いも辛いけど。でもそのままなにか打開策を生まなければ香川さん結婚どころか彼女できないですよ」

ぐさっと指す言葉を言われ少しへこんだ。

でも事実だから俺は何も言い返さずに頷いた。

「ねぇ。香川さん、本気でその先輩と縁切った方がいいです。このままじゃ香川さんの優しさも全然生かせないよ。そんな香川さん見たくないです」

そう懇願されるよう諭されると、本当に俺は一体何をしてるんだと言い聞かせたくなる。

こんな関係ない年下の後輩にまで心配かけさせて、俺は最低だと。

「・・うん、本当そ思う。もうごめんね、いつも愚痴ばっかりで・・・」

「いいですよ。愚痴ぐらいならいつでも聞きますから」

そう言われて俺はとても嬉しかった。

優しいと褒めてくれた女性、

愚痴をこぼしても笑顔な女性、

頼りない俺を立てようとする女性。

俺はいつのまにか桜井さんが彼女のフリをしてくれればなぁとあらぬ想像をした。

でもその後考えた。

優しい天使の彼女はたぶんフリをして、と言えばしてくれるだろう。

でもそれを先輩が嗅ぎつけて、桜井さんに何か被害を及ぼしたら心外だ。

桜井さんにはフリすらさせたくない。

どうせなら、堂々と彼女を守れるような男になりたいなぁなんて。

そのときの俺はたぶん彼女を恋愛対象にみていたんだと思う。

友達の好きが、恋愛の好きになるその過程を思い知らされた。

その日から俺は桜井さんを好きになった。



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