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僕と花  作者: 佐倉 夕夏
インパチェス―鮮やかな人
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インパチェス―鮮やかな人

俺が初めて本気で恋をした話をしようと思う。

現在は28歳の俺だが、当時の俺は22歳でその22年間全く恋愛というものに縁がなくて

気づいたらこんな歳になっていた。

でもあの時の俺―つまり花と出会ったあの春は本当に素敵なことだったと思う。

恋愛ってこんなに楽しいもんなんだな、と自覚できたのだから。

こんな俺の自分語り、嫌でなければ聞いてくれ。

俺としてもこんな後悔も幸福も味わった恋愛を記憶に留めておきたいんだ。

今でも思い出すあの子の笑い声や話し方は

今でも寝る前に過るくらいだ。

忘れたくても忘れられないし、忘れたくもないんだ。

こんな台詞が俺の口から出るとは夢にも思っていなかったが。

じゃぁ。聞いてくれ。


***

あれは今から8年前の話だ。

俺が20歳で大学2回生に入ろうとしていた夏のころの話だ。

きっかけはとあるバイトだったと思う。

有名な某量販店のバイトに決まったのだ。

ちなみに俺はあんまり話せる方じゃなくて、要するに地味で気弱な男だった。

実家は東北の方で田舎者。

東京の人の足の速さに何度も流されたことか俺には分からない。

最初は訛っていることもバカにされたし、東京の言葉に慣れるのも時間かかった。

その時は同期が1人いて、何でもはきはき話すような女子だった。

「初めまして!!中村麻衣です、よろしくね」

髪の毛はロングで背は小さめ。

というか俺自体もそんなに大きくないから人のことも言えないのだが。

「あ・・どうも・・えっと俺は香川修です」

頭を下げてちらっと見るとなんと中村さんは笑っていた。

何度も言うけど俺は地味な本当ひきこもりみたいなやつだから

女子からこうやって面と向かって笑われると畏れ多くて目を反らしてしまっていた。

しかも最悪なことに俺の高校時代は男子校で、女子とこうやって話すことすら普通ではなかった。

こんな俺にも笑って接してくれるんだなと思った。

モノクロの世界からカラフルの世界へ行くようなそれくらい鮮やかな人だった。


***

「もしかして、香川君?」

当時の俺は大学のテニスサークルに入っていた。

飽きっぽい俺の性格上、唯一続いた中学校からの特技だ。

中学校も高校もそこそこの成績を残してきた俺はそれを生かすためにサークルに入った。

そんな俺は友人とコートでラリーをしていた時だった。

時間制で交代のこのコートに次の予約が入っていて、その集団のなかに中村さんがいた。

春ももう5月だったからそれなりに焼ける、太陽の暑い日だ。

「え?」

俺は話しかけられた方を向くと彼女がその小さい体に大きなラケットを背負って

数人の友人とこちらに歩いてきたときだった。

「あ、やっぱり!バイトで見たときからずっと思ってたんだ」

とまた笑うと近くにいた友人数人がくすくすとこちらを見て笑っている。

というかにやついている。

俺はもちろん居心地が悪くて、思わず友人の三沢に助けを求めたが三沢はその女子に目が釘づけだった。

全く役に立たない男である。

「何、麻衣知り合いなの?」

女子がにやにやしながら言うと中村さんは笑いながらそうだよ、と答えた。

「バイトの同期なの。ね、香川君?」

「え・・あ、うん・・」

へぇ、といながらその女子はその場を去り、先に行くねーとコートの方へ歩いて行った。

「ごめんなぁ、あの子たちあたしが男子と話すといつもあぁなの。本当困る」

その時中村さんって意外とそういう男子苦手キャラで通ってんかなって考えたけど

話しぶりとかからそうとは信じられなかった。

「そうなんだ。何でかね」

「そんなんあたしに彼氏がいないからよ!唯一あたしだけいないの!笑ってしまうことに。でも別に気にしてないんだけどねー。本当香川君からしたらいい迷惑よね」

そう笑いながら話す彼女からは特に恋愛にがっついている感じもないし

特に彼氏を求めているように感じなかった。

「中村さんはそういうの気にしなさそう」

彼女は俺の肩をばんばん叩いてそうそう、とうなづいた。

「でしょー?そんなん焦ることじゃないじゃんね?」

「俺もそう思う」

と同調していると三沢がつまらなそうにラケットをいじり始めた。

そろそろ行こうぜということを諭されていたような気がした。

三沢、何度も言うが本当にお前は役に立たない。

「麻衣?コートの準備できたぞ」

突如低い声が聞こえてきて中村さんと一緒に振り向くと

俺とは比べ物にならない背の高さと体の強さを醸し出している男性が立っていた。

「あ、遼一さん!分かりました、早く準備します」

「何、知り合い?」

遼一さんという人は実は知っていた。

中村さんが所属するサークルと俺のサークルは割と練習試合とかする仲だったし

単純に遼一さんと俺のサークル長が仲良かったというのもある。

「あ、俺○○サークルの香川って言います」

「あぁ、俺の友人のサークルだね?今後よろしく」

と爽やかな笑顔で右手を差し出されたときは本当どうしようかってくらい戸惑った。

本当にかっこいい人だった。

こんな小さい俺がやっていいのかって暗い畏怖の類を感じた。

その時もやっぱり三沢はマイペースにラケットをいじっているのだからもうどうしようもないと思った。

中村さんはその遼一さんと一緒に笑いながら手を振ってくれた。

この遼一さんが後々俺に関わってくると思うと本当恐ろしい。

「おい、三沢お前何でそんなにマイペースなんだ」

「え?別に普通だよ。ていうか中村さん?可愛いね。紹介してよ」

にこにこ笑う三沢に殺意が生まれた。


***

その何日後かに、中村さんと同じバイトの日があった。

たまたま俺と中村さんが2人きりになった。

女子が苦手な俺も中村さんとは不思議と緊張せずにすんで楽だった。

「なぁ、この間遼一さんと会ったでしょう?」

「あぁ、うん。すごい爽やかないい先輩だよね」

「そうそう。あたしより2つ上なんだけど」

「そうだったね・・サークル長だしね。3年だっけ?」

「うん。本当大人っぽい人だよね・・」

と言うと物事はきはき言う中村さんにしては歯切れ悪い回答だった。

俺は書類に書き物をしていたのだがその手を止めた。

「何が言いたい?」

中村さんの頬の紅潮具合は今でも思い出す。

あの時の彼女は本当に恋というものをしていて

その様子を見ている俺は恐ろしいほど恋愛というものに興ざめしていた。

なんせ人を好きになるという行為自体俺にはよく分からない次元だった。

「いや・・そのあたしと釣り合うのかなって」

沈黙が襲ったと思う。

俺も俺でそんな淡い恋愛の始まり聞いてわぁ!ってならないし

そもそも俺は恋愛という経験がないからよく分からない。

「好きなの?」

「好きっていうか、あっちが・・その付き合いたいって」

「え?」

「告白されてしまって。あのあと」

急展開過ぎて俺はフリーズした。

あの遼一さんが麻衣と呼んだあの雰囲気には一石投じたいほどだったが

それは恋愛に全く縁のない俺から見る皮肉的な妄想かと思っていた。

ここで分かったことは三沢の淡い恋心も粉砕したってことも然り。

「・・で、返事したの?」

「その、どうしようかなって」

「それ俺に相談するの?全く役に立たないと思うけどなぁ、俺」

「そう?客観的な意見聞きたかったし、意見ってことで」

こんな遼一さんと全く関係のない俺、恋愛の経験も浅い俺。

そんな俺に何を中村さんは求めているのかと真摯に悩んでしまう。

「・・えっといいんじゃないの?その悩んでる時点で中村さんは遼一さんをそういう目で見ているわけだし・・

よく分かんねぇけど、それって中村さんも少しは好きってことじゃないのかな?」

目を見ずに話していたと思う。

これは持論であって根拠なんてないから、中村さんが納得いかないことを前提に話した。

なかなか口を開かずにいるからしょうがなく顔を見ると中村さんがこちらを驚いた顔で見ていた。

「香川君」

「う・・うん」

「君はすごいね!深い!!確かに香川君の言うとおりかもしれない。あたし遼一さんの気持ちに応えようと思う」

「え?あ、うん・・」

何と、俺は彼女にストライクな発言をしてしまっていたらしい。

よく分からないうちに彼女が遼一さんと付き合い始めたのはその3日後だった。

三沢、アーメン。



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