第1記
とにかくどこまで書けるやら……。ぼちぼち更新しますので、半分放置して見守ってください(`□`;)
太陽は燦々と大海原を照らし、穏やかな波間はかなりな沖合にもかかわらず、うねりも小さなベタ凪ぎである。
上も下も青一色に塗りつぶされた世界。そこにこの四人の男たちが波間に揺られていた。
「ついてねえ……」
その中のひとり、長い金髪を塩水でぐしゃぐしゃに乱したテトラが沈黙を破った。
イライラを募らせていたのはここにいる全員がそうだ。切られた口火にスパチャホフも噛みついた。
「テトラの舵とりのミスやろが!」
「あ、てめえ船長に向かってなんつー口のききかた」
四人は大きな一本の折れたマストに掴まり、すでに二昼夜を過ごしている。先日の嵐の夜、彼らの乗る帆船は大波に襲われてあえなく沈没してしまったのだった。
「このクソ船長めが。死ね、今すぐシロナガスクジラのクソに埋もれて死ね!」
「なにをこの変態船乗りが。お前こそ死ね、ナマコに頭ぶつけて死ね!」
「黙られい!」
二人が口汚く罵りあうのを止めたのは、マークの一喝だった。
「見苦しいと思わぬか」
東洋系の鋭い切れ長の目で二人を一瞥すると、また元の静かな東洋人に戻る。テトラとスパチャホフはバツが悪そうな顔で互いに下を向いた。
「そうだぁ、楽しい話とかしたら気持ちも落ちつくなりよ」
この絶望的な状況でもまったく緊張感のない声をあげたのは、最後のひとりチェリー(男)だ。
「おう、なんかしてみいや」
なげやりな表情のスパチャホフとは対照的に、笑顔満面のチェリーは、最近読んだ本の話を切り出した。
「二人の仲の良い夫婦がなぁ、バカンスにダイビング旅行に行くなりよ」
「ほおほお……」
「そこでぇ、船のスタッフがダイバーの人数を数え間違えて、二人は海の真ん中に取り残されてしまうなり」
「……?」
「そして最後はサメに食われてしまうなりよ」
「聞きたくねえっつーんだよボケ!」
テトラは腕を振り抜くと、渾身の拳の一撃をチェリーの鼻に撃ち込んだ。
ちなみに遅まきながらこの物語の世界観を語っておかねばならない。時代は中世後期、しかし舞台は地球に似たどこかの星とでも適当にしておく。したがってダイビングなどは存在しない。
さて、それから更に一日が過ぎた。さすがに生命の危機が間近に迫っていることを感じ取ったのか、言葉は少ない。
テトラはすでに半開きにしかならない目ではるか水平線を眺めていた。
「他の奴らはどうだったんだ?」
「どうやろな……」
彼らは世界最大の海賊『エムターン』の一員だった。そのエムターンの偉容は千隻を超える海賊船を擁し、国家の正規軍でさえ海の上では手も足も出ないまさに最強の軍団である。
他の奴らとはすなわち他の海賊仲間のことを指していた。
「我らだけであろうな、このような無様は」
普段からもの静かなだけに、マークの言葉はひとつひとつが重い。加えてチェリーまでもが口を差し挟んでくる。
「だってテトラって五級船舶免許しか持ってないもんね」
「マジかいな、ジェットスキーしか乗れへんやないか」
「バカやろう、四級だ!」
もう一度言うが、この物語の世界観は中世である。くだらない言い争いにも飽きたのでストーリーを進めよう。
「助かった……」
一行はようやく砂浜にたどり着いていた。久しぶりに重力にとらわれた足がやけに重たげに見える。そして引きずるような足跡を残しながら、四人は陸へと上がっていった。
「いやあ、一時はどうなるかと思ったなりよ。あのあとサメに襲われたり、クラゲの大群に囲まれたりで何度もピンチになったけど、四人の力でなんとか乗り切ってようやく生き残ったなりよー」
「ずいぶん説明的なセリフだな……」
「でもサメとの格闘で傷だらけだし、服も破れてしまって実はみんな全裸なりよ」
「だから誰に話してんだよ」
全裸で砂浜から小さな森を抜けると、比較的往来の多そうな街道に出た。全裸でこの道を辿ればいずれどこかの街に行けるだろう。
「全裸全裸ってうるせえんだよ、ナレーター!」