空き家に棲みつくもの
「それで、この人数ですか…」
治癒術師のルーソラは新調したばかりの戦棍を片手につぶやく。
今回、町中の依頼では普段見ない程多くの冒険者が集められている。
その数四組十八人。共通点は三つ星以上で、治癒術師が在籍する事。
…正確には《聖者の救済》ー除霊の術が使用出来る「元」神官。
目当てとなる治癒術師以外は、今回単なる露払いだ。
とある貴族のお屋敷の幽霊騒ぎをどうにかしたい。
彼らが近くの町からもかき集められた理由は、それである。
◆
四つ星「暮明の茨」四人。
四つ星「百目の探求者」の五人。
三つ星「猛る荒鷲」の五人。
三つ星「空腹な狩人」の四人。
どの一行も一名ずつ《聖者の救済》を覚えた治癒術師が在籍しており、
条件から指名依頼になったため、通常よりも依頼料は高額になったが、
そうまでしても依頼主の副伯爵はこの問題を解決したかった。
三つ星以上の中級冒険者で固めたのは、危険度が高いからである。
霊体や不死体相手では、物理攻撃だけでは対応が難しい。
副伯爵家の次男がこの度結婚し、従属爵位として男爵を引き継いだが、
それに伴い、領地の一つのこの町を代官として管理する事となった。
これまでは町長に任せ、元々所持していた屋敷は放置していたのだが、
次男の男爵が赴任しようとしたところで思わぬ問題が持ち上がる。
いつの間にか、放置中だった屋敷に幽霊が棲みついているというのだ。
確かにこの屋敷には、裏庭に歴代副伯爵一族の墓が並んでいる。
きちんと手順を踏んで埋葬されているならばあまりない事例ではあるが、
手順を怠ったり瘴気が溜まれば、空き家の幽霊屋敷化は有り得る事だ。
一応定期的に手入れはされていたはずだが、人が住まなくなって二十年。
管理にどこかしらほころびが出ていても、不思議とは言えないだろう。
管理をしていた町長いわく、年に二回は屋敷の扉をあけていたのだが、
今回大々的に入居準備を行っていたところ、夜までかかってしまった。
その際に屋敷内で蠢くものの影や気配を感じ、声や物音もしたと言う。
実害こそまだないが、お館様の副伯爵へ報告しない訳には行かない。
今は屋敷だけだが、町中まで幽霊が溢れ出たりすれば大惨事になる。
最初は副伯爵も町長を伴って地元の神殿に相談したそうだ。
しかし生憎神殿には治癒術はともかく、除霊可能な者が一人もいない。
近隣の町の神殿にも問い合わせてはみたが、そちらも同様であった。
さらに霊体に有効な護符や聖水も、神殿では準備できないとの事。
普段高額な寄付を受け取っておいて役に立たない、と腹を立てたものの、
出来ないものはどうしようもない。結局冒険者組合を頼る事となった。
◆
治癒術師四人で作った聖水が集まった全員に行き渡ったところで、
「まずは墓地の方を確認しましょうか」
「猛る荒鷲」所属の治癒術師の男が提案する。全員頷いて裏手へ進んだ。
ざっと見渡した限り、瘴気溜まり特有の悍ましい感覚は特に感じない。
組ごとに手分けして周辺を探ってみるが、異変らしきものはないようだ。
多少汚れてはいるものの、墓石が壊されたり荒らされたりはしていない。
「やはり屋敷内ですかね」
案内役の町長と共に、全員で屋敷内へ入っていく。
「少し待ってください。念のため《索敵》を使ってみます」
「百目の探求者」の女魔術師が屋敷内に潜む者がいないか魔術を使う。
全員が《索敵》使用時特有の、何かに撫でられるような感触を受ける。
しばらくして、女魔術師が眉をひそめた。
「んー、なんだろ。町長さん、今日はここに他の誰かが来てますか?」
町長は首を振る。
「いえ、わたしと皆さん以外は誰もいないはずですが…」
おかしい。霊体が索敵に引っ掛かるとは思えない。
スケルトンなど身体があるならばともかく、事前にそんな話はない。
「このお屋敷、地下に何かいるんですよ。それも複数」
女魔術師の発言に、全員顔を見合わせた。
◆
冒険者総出で屋敷内をくまなく捜索したところ、隠し扉が発見された。
発見者のクズリは、これはどうやら最近になって作られたようだと言う。
元々この屋敷に地下室はない。食糧庫や倉庫は渡り廊下の先にある。
扉を開けると梯子が架けられており、そこから地下へと進めた。
降りた先の扉を開けると、結構広い場所に人相の悪い連中が十人程いる。
内部は家具類なども充実しており、この連中は宴会の真っ最中だった。
しばらく惚けていたものの、我に返ると武器を振り回してきたので応戦。
多勢に無勢、腕前も天と地の差がある冒険者達、時間もかからず鎮圧。
冒険者だったのは幸いだった。神官では荒事の始末など難しかろう。
家主不在を良い事に、どうやら犯罪者の根城になっていたようだ。
町長は青い顔。お屋敷の管理は今一つ杜撰だったらしい。
捕り物が終わり、賊を騎士団へ引き渡した時には、もう夜も更けていた。
新調したのに戦棍で神聖魔術使う場がなかったな、と一人思うルーソラ。
今回戦闘専門職も多く、物理的に戦棍を使う事すらなかった。
折角だからと戦棍を握り、魔素を通して《聖者の救済》を使ってみる。
光の粒がルーソラを中心に広がり、無理なく屋敷の敷地全てを包み込む。
本来結構ぶれるはずが、術の効果範囲も効果自体も非常に安定している。
打撃武器としても神聖魔術の補正具としても、これはかなり優秀そうだ。
…なにか屋敷から、魂を凍り付かせるような低い呻き声が聞こえてきた。
幽霊、さっきは見つからなかったが、実は屋敷のどこかにいたようである。
幽霊「解せぬ」
ルーソラの戦棍は「術師が杖を使う訳」の後日、仲間の協力で新調されています。




