補欠
ピッ、ピッ、ピーッ。
無情に鳴り響いたホイッスルの音で、私はようやく絶望と対面した。熱気から取り残された感覚に全身の力が抜け、喉が嫌に渇いていた。
高校最後の大会の日、私の名前は一度も呼ばれる事はなかった。
分かっていたことだ。ここまでずっと、ベンチの端に座り続けてきたのだから。けれど、どこかで僅かに期待していた。最後くらいは俺も、という根拠のない希望を。
試合は勝った。血の滲むような努力の果てに、チームは全国の頂点に立ったのだ。
眼前で仲間達が肩を取り敢い、顔をぐちゃぐちゃにして喜びを分かち合っていた。
よくやった、お前のおかげだ、本当に良かったと、私の喉元まで上がった言葉は、影のように奥へ引き返していった。
輪の外で、私は力無く拍手をしていた。この気持ちがバレないように、遅れないように、必死に浮かないように。
「ありがとうな」
感動で涙ぐんだ監督がそう言って、私の肩を軽く叩いた。
何に対しての「ありがとう」なのだろう?補欠でチームを支えて来たから?最後だから出たいと我を出さずチームに献身的であったから?
満面の笑みで輪へ飛び込んでいく監督の背を見ると、唇が震えた。
気づけば、帰路に着いていた。
先程から携帯の着信音がうるさい。マネージャーからだった。携帯の電源を落とし、ポッケの奥へと深く突っ込む。
私は捨てるようにユニフォームを脱いだ。パサリと乾いた音をたて、地面に落ちる。汗の匂いは微塵もしない。そもそも、ほとんど動いていないのだから当然だ。
そのとき、ふと思う。
私は、この三年間で、何か一つでも残したのだろうか。懸命にプレイスタイルを研究して、死に物狂いで監督へアピールして、誰よりも早く練習を初め、遅く終わって。
大好きだったサッカーは、三年の月日と共に変わり果てしまった。いつしかサッカーする事よりも、試合に出る事が目標になっていった。
グラウンドに立った記憶はほとんどない。
誰かに名前を呼ばれた記憶も、曖昧だ。ただ、座って、見て、拍手していただけ。
才能があると勘違いした結果がこれだ。
何の事はなく、井の中の蛙が大海を知っただけ。あまりにも残酷な結末を知っていたら、蛙だって大海になど出たくなかった筈だ。
家に着いてからの時間は早かった。
確か、親が大学や就職の話をしていたような、よく覚えていない。
1人部屋の中で立ち尽くす。
見渡す限りのサッカー好きの馬鹿が居たんだなと、一目でわかる部屋に懐かしささえ覚えた。
こんなにも物はあるのに、私には何も残っていない。何も始まってすら、いなかったのだ。
私はそっとユニフォームを畳んで、引き出しの奥にしまう。
もう二度と、それを取り出すことはないと分かっていた。




