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11.処分不可能ーー其の鰐は、壊れ不

爆発の余韻が、地下にこだましていた。


粉塵。

焼けた鉄の匂い。崩れ落ちた天井。


本来なら。

そこに立っているものは、何もないはずだった。


だが。

瓦礫の中に、影がある。


ゆらり、と。


煙の向こうで、巨大な体が動いた。

ニホンザル・ハイブリッドの一体が、息を呑む。


「……は……?」


立っていた。

ジェイクは、平然と。


背中には無数のコンクリート片と金属片が突き刺さっている。

爆風でめくれた鱗はただれ、ところどころ黒く焦げていた。


それでも。痛がる様子はない。


ただ、前を見る。


金色の瞳が、揺らぎもなく、猿たちを捉えていた。


「……処分対象、生存」


誰かの声が震える。


ジェイクは、刺さった破片など気にも留めず、手にしていた配管をぐっと握り直した。


一歩。


床が沈む。


「確保班、後退——」


言い終わる前に、配管が振るわれた。


鈍い音。

装甲ごと、猿が横へ吹き飛ぶ。


次の瞬間、彼の体がねじれ、兵器のような尻尾が空気を裂いた。


ぶん。


鍛え上げられ、特殊装備と強化関節まで身につけたニホンザルハイブリッドですら、避ける暇さえ与えられず、壁まで一直線に叩きつけられ、衝撃で粉塵が舞う。


速い。

重い。

そして正確。


次々と部隊員が倒れる。


「発砲!」


消音銃が一斉に火を吹く。

見えない弾丸が、ジェイクの巨体を穿つ。


だが。


弾は、鱗に弾かれ、

あるいは浅く食い込み——止まる。


血は、ほとんど流れない。


ジェイクは止まらない。


配管が振り下ろされ、

尻尾が薙ぎ払い、装甲が砕ける。


これは戦闘ではない。

一方的な制圧だった。


「……撤退!」


隊長の声が、ようやく響く。


「負傷者回収! 即時離脱!」


猿たちは、倒れた仲間を担ぎ、煙の向こうへ消えていく。

残されたのは、瓦礫と、焦げた空気と。


ジェイク。


彼は、しばらく動かなかった。

やがて。

背中にめり込んでいた小さな弾丸が、ひとつ、音を立てて床に落ちる。


カン。

もうひとつ。

カン、カン。


筋肉が、内側から弾丸を押し出していた。

焦げた鱗の下で、組織が蠢く。

裂けた皮膚が、ゆっくりと閉じていく。


再生。

しかも異常な速度で。

背中の大きな損傷も、すでに塞がり始めていた。


ジェイクは、静かに呼吸を整える。


そして。

アリシャが流された配管の方向を、見た。


——生きている。それなら、問題はない。


今日の仕事はトラブル続きだったが、無事終わる予定だ。

ジェイクは完璧に仕事をこなしてきた、過去も、今日も、そしてこれからも、そうでなくては。


破壊された我が家を気に留めるでもなく、ジェイクは一歩を踏み出した。

ここ最近の仕事終わりには、必ずそばにいた、ふわふわの良く動く尻尾。その持ち主をピックアップしに行かなくては。





その一部始終を。


天井近くに浮かぶ超小型ドローンが、無音で記録していた。

映像は、即時転送される。


ムンドゥス中心部。

A.P.本社。

広報部部長室。


巨大なモニターに映るのは、瓦礫の中に立つイリエワニの顔を持つ鰐男の姿。


画面を見つめる、猿ハイブリッドが、息を呑んだ。


「……ありえん」


きつく握り締めた拳が、震える。


「ムンドゥスの生き物に——」


目を見開く。


「自己再生能力だと……!!」


静まり返った部屋に、その声だけが響いた。

「自己再生能力など……」


A.P.広報部部長、コーデンはモニターを睨みつけた。


「この世界に——ムンドゥスに——存在してはならないものだ!!」


机を叩く音が、静かな部屋に響く。


ムンドゥスは完全秩序の世界だ。

管理され、調整され、予測できる生態系。


一切の逸脱は、許されない。

想定外は、排除する。


それがA.P.の役目だ。


だが。

あの鰐男は、想定外だった。


コーデンは、深く息を吸う。

……感情的になるな。


すっと表情が消える。


自己再生能力など……」


 コーデンはモニターを睨みつけた。


「この世界に——ムンドゥスに——存在してはならないものだ!!」


 机を叩く音が、静かな部屋に響く。


 ムンドゥスは秩序の世界だ。

 管理され、調整され、予測できる生態系。


 逸脱は、許されない。


 想定外は、排除する。


 それがA.P.の役目だ。


 だが。


 あのワニは、想定外だった。


 コーデンは、深く息を吸う。


 ……感情的になるな。


 すっと表情が消える。


 社内通信機を取り上げ、落ち着いた声で告げた。


「最高責任者秘書につないでくれ。

 緊急案件だ」


 数秒後、応答。


「最高責任者と話がしたい。

 ハイブリッドにイレギュラーがいる。

 先ずデータを送る。確認後、コールバックを頂きたい」


 淡々と。

 完璧に理性的な声音で。


 通信を切ると、コーデンは再びモニターへ視線を戻した。


 画面を、切り替える。


 濡れた耳。

 路地裏のネオンを反射する横顔。


 猫型ハイブリッド——アリシャ。


 その整った輪郭を見た瞬間。


 コーデンの瞳が、わずかに光を帯びた。


「……人間の存在を知るものは、ムンドゥスから排除せねばならない」


 それは、原則だ。


 だが。


「前世の記憶を保持している個体など……前例がない」


 唯一。


 特異。


 研究対象。


「排除ではなく……管理だ」


 ゆっくりと、口元が歪む。


「徹底的に管理し、飼い慣らす。

 支配下に置き、安全な形で保持する」


 これは正しい。

 これは合理的だ。


 ムンドゥスのために。


 社会のために。


 秩序のために。


 ——自らに言い聞かせるように。


 コーデンは決めていた。


 猿類ハイブリッドとして。

 ムンドゥスを実質的に支配する種として。


 あの個体を。


 我が物にする。


 一目見た瞬間から、気に入っていた。


 手に入れたい。

 所有したい。

 従わせたい。


 玩具のように。

 ペットのように。


「……面白い」


 コーデンは椅子に深く身を沈めた。


 モニターの中で、アリシャが人混みに消えていく。


「逃げてみるがいい」


 爛々とした瞳が、暗い部屋で光る。


「ムンドゥスからは、逃げられない」

社内通信機を取り上げ、落ち着いた声で告げた。


「最高責任者秘書につないでくれ。

緊急案件だ」


数秒後、機械的な音声が応答。それを当然のように聞きながら、コーデンは口を開く。


「最高責任者と話がしたい。

ハイブリッドにイレギュラーがいる。

先ずデータを送る。確認後、コールバックを頂きたい」


淡々と。

完璧に理性的な声音で。


通信を切ると、コーデンは再びモニターへ視線を戻した。

画面を、切り替える。


そこに映し出されたのは、ぴんと先が尖った濡れた耳。

路地裏のネオンを反射する美しい猫の横顔。


猫型ハイブリッド——アリシャ。


その整った輪郭を見た瞬間。

コーデンの瞳が、わずかに光を帯びた。


「……人間の存在を知るものは、ムンドゥスから排除せねばならない」


それは、原則だ。

だが。


「前世の記憶を保持している個体など……前例がない」


唯一。

特異。

研究対象。


「排除ではなく……管理だ」


ゆっくりと、口元が歪む。


「徹底的に管理し、飼い慣らす。

支配下に置き、安全な形で保持する」


これは正しい。

これは合理的だ。


ムンドゥスのために。

社会のために。

秩序のために。


——自らに言い聞かせるように。


コーデンは決めていた。

猿類ハイブリッドとして、

ムンドゥスを実質的に支配する種として。


あの個体を、

我が物にする。


そう、彼は、一目見た瞬間から、気に入っていた。


手に入れたい。

所有したい。

従わせたい。


玩具のように。

ペットのように。


「……たまらないな」


コーデンは椅子に深く身を沈めた。


モニターの中で、アリシャが人混みに消えていく。


「逃げてみるがいい」


爛々とした瞳が、暗い部屋で光る。


「ムンドゥスからは、否、私からは、逃げられないぞ」

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