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第五章:可能性の海

言葉すらもその意味を失い、因果の鎖も断ち切られた世界で、人々はもはや個としての明確な境界を持たなかった。彼らの意識は、まるで滴が大海に溶け込むように、広大な、集合的な「何か」へと還っていく。


それは、闇でも、光でもなかった。

始まりでも、終わりでもなかった。


残されたのは、純粋な「感覚」だけだった。重力の束縛から解き放たれた浮遊感。時間の流れから自由になった永劫。原因と結果の呪縛から逃れた絶対的な無。そして、言葉が消え失せたことで、思考は形を持たない、無限のパターンへと変容した。


彼らの「意識」は、もはや肉体という牢獄に囚われることなく、宇宙の隅々まで広がっていく。同時に、世界そのものと一体化する。遠い星の光を感じ、未知の生命の営みを体験し、宇宙の誕生と消滅を同時に認識する。それは、知識ではなく、純粋な「体験」として存在する。


特定の誰かが、世界の中心でこの変容を理解したわけではない。誰もが、同時に、そして別々に、この究極の「解放」を味わっていた。それは、絶望の果てに訪れた、静かで、しかし途方もない「恍惚」だった。


もはや、「世界」という概念は、人間が認識できる形を持たなかった。それは、純粋なエネルギーのうねり、無限の情報の織りなすパターン、そして、無数の「可能性」が同時に存在し続ける、流動的な「何か」となった。


人々は、その「何か」の一部となり、自らの存在が、常に変化し続ける世界そのものであることを知った。彼らは、もはや個々の「私」ではなく、「あらゆるもの」であり、同時に「何もない」存在だった。


物語は、明確な解決やカタルシスを持たずに終わる。世界は消滅したわけではない。新たな秩序が生まれたわけでもない。ただ、永遠に変化し続ける「無数の可能性」の中で世界が存在し続ける。それは、始まりも終わりもない、純粋な「存在」の流転。


そして、読者もまた、この物語の最後の言葉を読み終えた瞬間、自らの認識が揺らぎ、世界の「常識」という名の鎖から解放されるような、漠然とした、しかし深遠な「余韻」に包まれるだろう。それは、あなたが今、感じている、この奇妙な感覚そのものだ。



<終わり>

■ あとがき:日常が溶け出す、その先の景色へようこそ


皆さん、こんにちは!拙作『無数の繭、あるいは世界』をお読みいただき、本当にありがとうございます。読み終えた今、きっと「え、結局何がどうなったの?」と、頭の上にハテナマークが乱舞している方もいらっしゃるかもしれませんね。フフフ……それが狙いです!


この物語は、一般的な「起承転結」というお行儀のいい階段をひょいと飛び越え、いきなり屋根裏部屋から宇宙へワープするような、そんな体験を目指して書き始めました。だって、世の中、予測不能なことばかりじゃないですか? ある日突然、重力がなくなったり、時間が逆再生されたりしたら、私たち、どうなっちゃうんでしょう? そんな「もしも」を妄想していたら、もう、筆が止まらなくなってしまいました。


執筆中は、まさに物語の世界そのものでしたよ。言葉の意味が分からなくなりそうになったり、自分が今何曜日の何時に書いているのか分からなくなったり……。ゲシュタルト崩壊寸前でしたね。でも、そのカオスこそが、この物語の真髄なんです。理屈を超えた場所にこそ、本当の面白さがある!と信じて、文字を紡ぎました。特に、「概念の砂漠」で言葉が崩壊していく描写は、書いていて自分でも「これ、ちゃんと伝わるのか?」と頭を抱えましたが、そこをあえて突き詰めたかったんです。だって、本当に言葉が意味をなさなくなったら、きっとこんな感じだろうなって。


実は、この物語のアイデアがひらめいたのは、朝の通勤電車でぼんやりとスマホを眺めていた時なんです。隣の人がスマホを落としそうになって、一瞬「あれ、宙に浮いたら面白いのに」って。そこから、重力、時間、因果、言葉……と、どんどん「当たり前」が崩れていく妄想が止まらなくなって、気づけば壮大な不条句SFが生まれていました。


そして、密かに次回作も構想中です。次は、「感情」そのものが通貨になる世界を描いてみようかと。喜びでパンが買えたり、悲しみで家が建ったり……。はたまた、怒りで世界が滅びたりするかもしれません。まだまだ脳内会議中ですが、どうぞお楽しみに!


この物語を通じて、皆さんの日常の見方がほんの少しでも変わったり、「あれ?もしかして私、今、宙に浮いてる?」なんて錯覚に陥ったりしたら、作者としてこれほど嬉しいことはありません。あなたの頭の中に、小さな「繭」が生まれ、その中で新しい「世界」が紡がれることを願っています。これからも、私たちの日常が、「無数の可能性」で満たされていますように!またお会いしましょう!

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