第1話 本能が叫んでる。アレは最高にカッコいいと……!
新作です!
是非とも楽しんでいただければ嬉しいです!
それに遭遇したのは、とある日の下校中のことだった。
「……ん?」
通学路の中ほどにある商店街。少し前、近くにショッピングモールが出来たのもあってだいぶ人通りが減ったように見える。
そんな商店街通りを歩いていると、去年ぐらい、流行りに乗ろうとタピオカドリンク店を開いたものの結局あまり人が来ずに潰れてしまったお店が視界の端に入った。今はシャッターが下りているそのお店だったが、その横を通り過ぎようとしたときに――ふと視界に違和感を感じた。
何となしにちらりと視線を向けたときに、何か視界が歪んだような気がしたのだ。
目が乾燥したせいとか、まあそんな理由だと思ったけど、少しだけ気になって足を止める。
そして改めてそっちに視線を向けると、その違和感は確かにそこに存在していた。
シャッターが閉まるお店の横、左右のお店に挟まれた狭い通路のその奥に景色が揺らめている場所があるのだ。
「なに、あれ?」
飲食店の横とかなら換気口から出る熱気が原因かな、なんて思ったと思う。
でも残念ながら、両隣のお店はとっくに閉店して営業していない。それどころかどちらも住人が住んでいない完全な空き家のはずなので、それも考えにくいのである。
……もしかして、ガス漏れとかだったりして?
今の時期はまだまだ空気が乾燥しているから、火の手が上がったとしたらあっという間に周りのお店からどんどん燃え広がってしまうかもしれない……
見過ごせないなと思った私は、念のためにその陽炎の正体を確かめてみることにした。
口元にハンカチを当てて、恐る恐る細い脇道に入っていく。
すると、近くに寄っていっても特にガス臭さとか変な臭いは感じなかった。てことはどうやらガス漏れとかでは無さそう。
だったらアレはなんだ?と改めて疑問に思いつつ、その正体を確かめるべくそのまま真っ直ぐ進んで行き徐々に陽炎に近づいていく。
そして、あと数mぐらいまで近づいた――その時だった。
突然、目の前で景色が『割れた』。
比喩表現とかじゃなくて文字通り、本当に目の前の景色がガラスでも割るかのように、さっきまでの光景が液晶に映った映像だったかのように割れてしまったのだ。
それと同時に、その割れた光景に向かって強烈な吸引力が発生する。
まるで宇宙船の窓ガラスが割れて、中の空気が宇宙空間に吸い出される映画のワンシーンのようだった。割れた先にある真っ暗な空間に向かって、周りのものがガンガン吸い込まれていく。
「え、あ、えっ!?――」
身体が浮くような凄まじい吸引力は地面の塵だけじゃなく、枯れた花が植えっぱなしになっている鉢植えだったり、何故か放置されている陶磁器の破片?なんかも全て吸い込んでいく。
アレに吸い込まれたら絶対にヤバいと感じて、慌てて近くにあった何かのパイプを掴んで何とか飛ばされまいと耐える。
しかし――
「っ!? うそ、ダメ!! いや!!」
握力など力の強くない私が耐えるには、その勢いはあまりにも強すぎた。
徐々にパイプを握りしめる手から力が抜けていき、数秒なのか数分なのか分からない攻防の末、パイプから手が離れた私の身体はあっさりと暗闇の中へと吸い込まれる。
さっきまで自分が立っていた路地の景色が遠ざかっていくのを見ながら「もっと握力鍛えておけばよかった……」などとそんな場合じゃないことを考えつつ……
視界が完全に真っ暗に染まった瞬間、それと同時に私は意識を失ったのだった。
次に目が覚めたとき、私は地面に寝転がっていた。
頬で冷たい感触を、身体で硬くて痛い感触を感じながら、その不快感によって私は意識を取り戻した。ゆっくりと意識が浮上していき目を開けると、自分の身体が石の床にうつ伏せで横たわっているのを理解した。
慌てて飛び起きて辺りを見回すと、そこはどこか人の気配を感じさせるような建造物が広がっている場所だった。
……ただし、壁には蔦が広がり、床はあちこちが苔むしている随分と長く人の手が入っていないであろう場所だったけど。
「本当に、ここどこ?」
自分がどれぐらい気を失っていたのか?
どうしてこんな場所で気絶していたのか?
色々と疑問は尽きないけど、残念ながらその疑問に答えてくれるような人も物も無い。
せめて携帯があればっ!と思ったけど、下校するときに持っていた鞄はどこにも無かった。携帯は鞄の中に入っていたはずだし、僅かな希望を抱いて制服のポケットを探ってみるもやっぱり空っぽだった。
飴玉一個すら手持ちに無く、今あるのは自分の身体と身に着けている衣服のみ。
完全に着の身着のままという言葉がぴったりな状態だ。助けを呼ぶ手段もなく、自力での帰還を助けるような道具すら無い……
…………
「ヤバくね……?」
それを自覚した瞬間、顔面に冷や汗が噴き出してきた。
「本当にここ、どこっ!」
建造物とは言ったけど、周りにあるのは人の手で作られただろう通路が四方に伸びているだけ。
でも通路があるってことは外に繋がる通路もある――はず。
まさか地底人の住処じゃないんだから、外に出るための道が無いってことはない――はずっ。
そう信じて、取り合えず目が覚めたときに正面にあった通路に進んでみることにした。もし行き止まりだったら引き返してくればいいし、仮に先に進む道があったとしても、分かれ道とかに遭遇したら一度戻ってこよう。残りの三本の通路も念の為に確かめておきたい。
そうして四方に続く四本の通路を全て調べてみた。
すると四本のうち、正面と右手と道は歩いて行くと突き当りになっており、ただし正面の扉は突き当たった先に扉が設置されていた。右手は完全に行き止まりだね。
そして左手の通路は進んでいくとT字路になっていて、再び左右に道が分かれていた。
最後に後方の扉。これについては、進んでいくと大きな広間に繋がっていた。広間のちょうど向こう側には更に続く通路があってまだ進むことが出来そうだった。多分、他に通路は無かったと思う。
ここまでの調査に体感で一時間ぐらいは使った気がする。
歩き回って喉が渇いているけど、残念ながら飲み水は発見できなかったので我慢するしかない……
本当に早くここを脱出しないと、飢えと渇きで死にかねない。
「う~ん……」
問題はどの道を進むか、ということだ。
右手の道は除外でいいとして、選択肢は3つ。
正面通路の扉を開けに行くか、左手通路の分かれ道を行くか、それとも後方通路の広間を越えた先の通路を行くか。
非常に悩ましい……
「……よし。正面から攻めるか」
結果、最初に見つけた正面通路の扉から攻めることにした。
もし扉を開けて更に通路が続いていたとしても、一旦次の分かれ道とかが見つかるまでは真っすぐ進んでみるつもりだ。
こうなりゃ正解なんて分からないんだから自分の運を信じるしかない。
一見重厚そうな扉だったけど、押してみると案外軽く力の弱い私でもなんとか押し込むことが出来た。
すると扉を開けたその先に広がっていたのは――――目が眩むほどの、一面の金色だった。
金色の正体。
それや山と積まれた金貨だった。
文字通りの、山。
金色の輝きを放つコインが私の背丈を遥かに超えるほど何千、何万、ひょっとすると何億枚も無造作に積み重なている。さらにその中には金貨だけじゃなく、金で作られた様々な装飾品や盃などといった調度品も埋もれている。他にも金とは別の輝きを放つ、色とりどりの宝石なども潜んでいるのがよく見れば分かった。
……なんたら埋蔵金とか、古代の王の墓とか。
そんな場所ぐらいでしか見ることが出来ないような、まさしく金銀財宝がそこにあった。
それを呆気にとられつつざっと見渡して――私の視線は、ある一点で完全に固定された。
財宝の山、その手前――そこにあったのは小さな、といっても私の胸ぐらいの高さはある一つの台座。
私にはそれが、この部屋の真の主のように見えた。
この部屋を彩る金銀財宝は全て、その上に乗せられたものを飾り立てる為の舞台装置。
そう思わせるだけの、何か圧倒的な存在感のようなものを感じった。
台座の上に安置されているのは……二丁の銃。
いや、形が銃っぽく見えるだけでそうじゃないかもしれない。けれど持ち手にある引き金と伸びる銃身から十中八九そうだといえる見た目をしている。
片方は真っ白な、もう片方は真っ黒なカラーリングで、それぞれに同じ金色の装飾が施されている。
だけどゴテゴテしているとかそういった下品さは感じさせず、それどころか上品さすら醸し出しているように見えた。おそらくは二丁一対なのだろう。
それを認識した瞬間、私の頭は後ろの金貨の山を意識の外に追い出して、全意識がその二丁の銃のみに向けられた。
私の全神経が。本能が叫んでいた。
――あの最高にカッコいい銃は、私のものだっ!!!!!!と。
招かれるようにふらふらっと銃に近づき、何のためらいもなくその二丁を手に取る。
瞬間、両手の銃が一拍はねたような気がした。
ゴトリと金属の塊のような音を出しつつ、でもさっきの扉のように見た目ほどの重さは感じない。それどころかグリップを握った瞬間、まるで掌に吸い付き馴染むような感覚さえした。
持っただけで自然と笑みがこぼれてくる。エアガンやモデルガンに触ったことはあるけど、これほどの気分の高揚は感じなかった。
間違いなく「この銃だから」だと言える。
「……っっ!!!」
喜びのあまり、声にならない声が口から洩れた。
その場で二丁を構えるポーズをとってみる。
両腕を交差させて正面に構えてみたり、片方を頭の後ろに回して構えてみたり、片方の銃を支えにしてもう片方で狙いを定めるポーズをしたり――それはもう好き放題に楽しんだ。
「ふおぉぉ~~~~~~~……!!!――これ、貰っちゃだめかな……!!?」
何か誰もいないみたいだし、ていうか暫く放置されてたみたいだからいいんじゃないか?
でもさすがに泥棒になりたい訳じゃ無いし。せめて持ち主さえいれば譲ってもらえるように交渉できるのにっ!!!
「ぐぬぬっ……欲しいっ。でも勝手に持っていくのは――」
両手の銃を台座に戻すか、このままにするか葛藤しているときだった。
突然、山と積まれていた金貨がどろどろに溶け始めた。
「えっ……?」
何が起こっているのか分からないまま、けれど何か不味いことが起こり始めたと感じた。
その現象を見た瞬間に、とっととその場を離れれば良かったんだけど、私の足はその場に縫い付けられたように動かなかった。というか目の前で起きるその不思議な現象を見届けようという好奇心が勝って、逃げようと訴える感情を抑えつけていたのだ。
宝石も含めてこの場にあった全ての財宝が溶けて、周りに散らばっていたそれらは中央の山――いや、今は球体を形成し始めたそれに吸収されていく。
暫くして、最後には二階建ての家ほどもある巨大な金色の球体へと変貌を遂げた。
するとようやく変化が終わったのか、先ほどまでの流動が嘘だったかのように動かなくなる。
「終わった……?」
そう呟くのと同時だった。
私は瞬時に身体を縮めて頭を下げた。
何故そんな行動をしたのか、自分でも定かじゃない。
ただ、そうしなければいけないと直感が警鐘を鳴らし、そしてそれに疑問を抱くことも逆らうような間も無く、身体が勝手に動いていた。
そしてすぐに、その行動が自分の命を救ったことを思い知ることになった。
続けて聞こえてきたのは、ドゴンッ!!という固い物同士がぶつかり合ったような重低音。
音に誘われるまま背後を振り返ると目に入ったのは、壁に向かって突き刺さる金色の棒と、それによって容易く貫かれて崩れ去った壁。
金色の棒は私の頭の上を通過するようにして、あの球体から伸びているのが分かった。
もし……あのまま、私がぼーっとしていたら……
あの金色の棒は、きっと私を貫いていたに違いない。
それを悟った瞬間、背筋を凍るような寒気が走った。
しかし状況は私の恐怖も混乱もおかまいなしに進む。
壁に突き刺さった金色の棒は、巻き戻るように球体へと戻っていき、そして――球体が割れた。
「……っ!!?」
中から出てきたのは、人型の彫像。
割れた球体の外側の部分を、まるで羽のように背中に纏った姿は天使のようにも見える。
黄金の天使像が宙に浮かびながら、私を見下ろすようにそこに出現した。
続きます!
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