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腐った神々と尻の痛み

――剣も恋も、二刀流デュアルブレイド!?


あらすじ

気づいたら異世界に転生していた俺。転生特典として授かったのは、よくある 「チートスキル」……だったはずが、なんか様子がおかしい。


俺のスキル 《二刀流》 は、剣の 「二刀流」 だけではなく、 「恋愛の二刀流」 までセットだった!?


──つまり、 男も女も恋愛対象になってしまう という、絶望的なオマケ付きだったのだ!


真面目で恥ずかしがりやな俺は、この 「もう一つの二刀流」 を隠しながら、ダンジョン攻略に挑むことにした。

だが、どういうわけか……


「へぇ、二刀流か。面白い。俺と手合わせしてみるか?」(硬派な剣士)

「ふふっ、貴方の剣さばき……とても興味深いわ」(妖艶な魔法使い)

「兄貴! 俺にもその技、教えてくれよ!」(元気な冒険者の弟分)

「あなたと一緒にいると、心が揺れる……」(お姫様的存在)


──気づけば 男も女も妙に距離が近い!?


「俺はただ、ダンジョンを攻略したいだけなのに……!!」


二刀流(剣)を極めるため、俺は戦い続ける。

だが、二刀流(恋愛)の方は、どうしても隠しきれないらしい……!?


──俺の異世界転生、チートどころかカオスなんだが!?



…なんだか、お尻が痛い。


目を覚ました瞬間、まずそれを認識した。


どこか硬い床の上にうつ伏せで転がっている。ほんのり冷たく、しかし妙に馴染んでいる感触。それでも、お尻に鈍い痛みが残っているのは事実だった。


(俺……何してたんだっけ?)


ぼんやりとした意識の中で、最後に覚えているのは——


トラック。


そうだ。


おれは警察官で、夜勤明けの仕事帰りにコンビニへ立ち寄り、弁当を買って帰ろうとしたその瞬間、視界の端から突っ込んできた大型トラック。全く避ける間もなく、そのまま轢かれ——


(……死んだ? 俺、死んだのか?)






「……よ、よ……よこそ……転生の間へ……」


ぼそぼそとした、覇気のない声が耳に入る。


目の前には——


クラスの地味目な腐女子みたいな女。


長い前髪で半分隠れた目、猫背気味の姿勢、異様に早口でぼそぼそと喋る口調。


これでいてなんと女神らしい。どうやら俺の常識とは俺の常識とは違うらしい。


「え、えっと……転生……です……あなた、死にました……えっと……次の世界、ですね……」


「……は?」


話をしながら、俺は女神に違和感を覚えた。


俺の尻の痛みをチラチラ見て、女神がわずかに動揺している。




なぜだ。




「いや、ちょっと待て……なんで俺、こんなに尻が痛いんだ?」


「あ、あー……えっと、その……えっと……気にしないでください……たぶん、その、ちょっと……うん……たぶん、その……」


「たぶん?」


女神の目が泳ぐ。


その時——


「フフフ……やっと目覚めたか、我が愛しき二刀流の戦士よ……!」


突然、部屋の天井が割れ、眩い光と共に現れた男。


長身、筋肉、爽やかな笑顔。そして、異様なまでに整った顔立ち。


「おお、ついに目覚めたな! いやぁ、今回は素晴らしかった……いや、違う違う! 何でもないぞ!」


「……え?」


「私の上司の男神モフォー」です。


女神が目を逸らしながら紹介し、男神は満面の笑み。


ーモフォー?なにか引っかかったが混乱して状況を整理しきれていないため、一旦置いておくことにした。


「さぁ、これから君は新たな世界で二刀流として生きることになる!」


「二刀流?」


「そう! 剣の二刀流! そして……恋愛の二刀流! 」


「は?」


「つまり!! 男も女もいける ってことです!!」


……


……………………。


「帰らせろ。」


俺は真顔で言った。


「それは無理ですねー……」


女神はぼそぼそと呟きながら、わずかに震えていた。


「で、では……異世界でチート能力持ちの転生者ライフを送る準備を……」


(……どうなってんだ、この世界)





「ちなみに……わたしは女神フランと申します……」


ぼそぼそとした声が響く。


女神フラン。


名を聞いた瞬間、それまでの疑念や混乱が、ひととき霧散した。


いや、正確には、俺の意識は別のことに引きずられていた。


彼女の声は確かにそこにあったが、それが意味を成して頭に入ることはなかった。


俺は、見ていた。


ただ、見ていた。


——まるで砂漠を彷徨う旅人が、湧き水を求めるように。


——あるいは、夜の海を照らす孤独な灯台を、行き場のない舟が仰ぎ見るように。


俺の視線は、彼女の存在を、その細部を、執拗なまでに追い続けていた。


彼女の肌は白磁のように淡く、陰影の淡い光を吸い込む。長い前髪が影を落とし、瞳の奥をうかがい知ることができない。控えめな唇は、何かを躊躇うように小さく動き、時折微かに濡れる。


ドレスの生地は薄く、重力のままに滑るように体に沿っている。


布の襞がつくる曲線が、胸元の起伏をそっと浮かび上がらせる。袖の緩やかな膨らみが華奢な肩を包み、細い手首へと流れる。その指先は微かに震え、ぎこちなく手元の書類を捲っていた。


耳をくすぐる声の振動よりも、布の微かな擦れる音、ゆるやかに浮き沈む肩の動きのほうが、はるかに鮮明に感じられた。


——俺は、なぜこんなに彼女を見ているのか?


自分でも分からない。


だが、確かなのは、彼女を視ることに、抗えない何かがあった。


「……え、えっと……」


ふと、声がわずかに上擦る。


「……あの……聞いてます?」


フランの声が、わずかに震えていた。


俺は、答えられなかった。


彼女は気づいたのだ。


俺が、彼女を隅々まで観察していたことに。


「え、えっとですね……その……」


彼女は頬を染め、微かに身を縮めるようにして言葉を濁した。


「わ、わたし……そっちの方向には興味なくて……! むしろ……見るのが好きっていうか……見てるのが……その……」


耳まで赤く染め、フランは目を泳がせながら身を震わせる。


その指先が、スカートの端をぎゅっと握る。


「……わ、私は……見るのが……いいんです……っ」


俺は、思わず息を呑んだ。


この女神は、一体何を言っているのか。


「フフフ……話が進まぬようだから我が説明する。改めて自己紹介しよう。我が名はモフォー、この世界の戦と愛を司る神である。」


突然、空間が神聖な光に包まれた。


目の前には、完璧な肉体美を誇る男神——モフォー。


引き締まった腹筋、無駄のない肩幅、そしてどこか艶めかしい口元の曲線。


その堂々とした立ち姿に、俺の意識は否応なく引き寄せられた。


(やばい……仕上がりすぎだろ、コイツ……)


目が勝手に這うように、彼の筋肉の動きを追ってしまう。


**その胸板、カチカチなのに柔らかそう。二の腕の筋が張って、汗が伝ったらどんな風に輝くんだろうか。**


(いや待て、俺はなにを考えて……?)


「さて、お前のスキル『二刀流』について説明しよう。」


俺は彼の胸筋の動きに目を奪われながら、適当に頷いた。


「この世界では、剣を二本持つこと自体は珍しくない。誰にでもできることだ。」


(肩の筋肉、すげぇ……)


「だが——」


モフォーは微かに口元を歪め、何か含みを持たせた。


「お前の『二刀流』は、二本の剣を使うことでステータスが大幅に上昇し、固有スキルを発動できる。つまり、圧倒的に強くなれるのだ。」


(腕の血管まで完璧か……? いや、それよりなんで俺、男にこんな……?)


「さらに——」


モフォーが何か言いかけたが、俺はまるで聞いていなかった。


思考が、視覚情報に完全に持っていかれている。


(女神はまだわかる……いやわかるけど……でもなぜ男性に……?)


(なんか……二刀流がどうとか言ってたような……)


「……フフ、まあ、すぐに分かることだ。時間だな。」


「えっ?」


突然、足元が光に包まれる。


「ちょっ、ちょっと待て!」


「異世界で存分に活躍するがいい。我が二刀流の戦士よ!」


モフォーが微笑む。


その表情には、何かを知っているような、あるいは試すような余裕があった。


そして、俺の体は光に包まれ、瞬く間に視界が白に染まる——。


(続く)






**新しい身体、新しい感覚**


目を開けると、そこは広大な草原だった。


心地よい風が頬を撫でる。遠くには山脈が連なり、青々とした空がどこまでも広がっている。


「……異世界か」


呟いた声が、自分のものとは少し違って聞こえた。


ふと、手を見下ろす。


——違う。


俺の手は、前よりも細くしなやかで、しかし無駄な脂肪が削ぎ落とされ、精悍な筋肉が走っていた。肌は滑らかで傷ひとつない。


ゆっくりと身体を動かす。


……違う。


この体は、以前の俺ではない。


「これが転生、か……」


胸の奥に奇妙な高揚が湧き上がる。


——新しい身体。


——新しい世界。


そして、俺には《二刀流》というスキルがある。


「……よし、まずは状況を把握しないとな」


俺はゆっくりと立ち上がり、遠くに見える街を目指した。


その胸の奥には、新しい世界への期待と、妙に熱を帯びた感覚がじんわりと広がっていた。





広大な草原を抜け、俺はようやく街の門の前に立った。


**ベルグリッドの街**——この異世界で最初に訪れることになる都市。


高くそびえる城壁が、遠くからでもその堅牢さを誇示している。門の両脇には、全身を鎧に包んだ兵士たちが立ち、鋭い目つきで往来を見張っていた。


「……意外としっかりしてるんだな」


何となく、もっと荒廃した無法地帯を想像していたが、整った石畳の道や活気のある市場を眺める限り、かなり秩序の取れた街のようだ。


「さて、まずはギルドで冒険者登録だな」


門番に一瞥されつつも、俺は何事もなく街へと足を踏み入れた。


市場を抜け、大きな木造の建物が見えてくる。



**【冒険者ギルド】**


異世界転生モノなら定番の施設だ。ギルドに登録すれば、クエストを受けたり情報を集めたりできる。俺もまずはここで、正式に冒険者としての第一歩を踏み出す必要がある。


扉を押し開くと、すぐに耳を打つのは騒がしい喧騒。


酒場と一体化しているのか、奥では豪快に酒を飲む者、戦果を語る者、賭け事に興じる者が入り乱れていた。


「ふーん……思ったより雑多な感じだな」


場内を見回しながら、カウンターへ向かう。



「いらっしゃいませ。冒険者登録ですか?」


透き通るような声が、俺を迎えた。


目を向けると、そこには長身の青年が立っていた。ギルドの制服をまとい、綺麗な黒髪を肩まで流している。前世的に言うと執事のようないで立ちだ。

青い瞳が、どこか探るように俺を見つめていた。


「……ああ。登録を頼む」


俺は咳払いをして、カウンターに寄る。


妙な感覚があった。喉が少し渇き、心臓がいつもより速く鼓動している。


「では、お名前をどうぞ」


彼は慣れた手つきで書類を広げ、滑らかな指先でペンを走らせる。


(指が……長いな)


そんなことを思った自分に驚く。前世の名前は違和感を覚えられるから適当につけてみよう。


「……レクト・シュバルツ」


名前を告げると、彼はふっと微笑んだ。


「レクトさんですね。よろしくお願いします」


カウンターの向こうで、指先がほんのわずかに俺の手に触れた。


瞬間、背筋を走る奇妙な感覚。


(……何だこれ)


まるで、ほんの一瞬、電流が走ったような。


俺は無意識に息を呑んだが、青年は何事もなかったかのように微笑を崩さない。


「これで登録は完了です。初めての冒険者さんには、基本的な説明をいたしますね」


彼は優雅な仕草で紙をめくりながら、ギルドの基本ルールを説明し始めた。


——だが、俺の意識は、その声の響きに囚われていた。


どこか甘く、引き込まれるような響き。


(……くそ、俺は何を考えているんだ)


俺はギルドの説明を聞きながら、自分の胸のざわつきを必死に振り払った。


どうやらこのあたりはゲームでいう始まりの町、もしくはそれに準ずる難易度の低いダンジョンと比較的安全な町らしい。簡単なダンジョンの許可証をもらった。







登録が終わった俺は、そのまま市場へ向かった。


装備を整えなければ、ダンジョンには入れない。幸い女神がお金を入れておいてくれたおかげで最初の装備は揃えられそうだ。


武具屋の店先では、頑強な体格の男性が剣を磨いていた。彼は俺を見るなり、がっしりとした腕を組んで笑った。


「おお、新入りか? いい剣を探してるんだろ?」


「まぁな。できれば、片手剣を二本」


「ほう……二刀流か」


鍛冶師らしき男は、俺の目を覗き込んだ。


その視線が妙に熱っぽく感じられる。


「なかなかいい体をしてるな。手を見せてみろ」


「……あ?」


「剣士の手かどうか、確かめてやるよ」


俺は無言で手を差し出した。


鍛冶師の大きな手が、俺の指を包み込むように触れる。


(……あれ、なんか……熱いな)


まるで、鉄を打つ熱がそのまま皮膚を通して伝わってくるような感覚。


「お前、剣の才能があるぞ」


「へぇ……そりゃ、嬉しいね」


俺は平静を装いながらそう言った。


「だったら、こいつがいい」


鍛冶師が俺の前に差し出したのは、黒光りする二本の剣だった。


「こいつはな、持ち主を選ぶ。だが、お前なら扱える気がするぜ」


俺は剣を握りしめる。


……確かに、手に馴染む。


「いいな、これで決まりだ」


金を払い、俺は二刀の剣を手に入れた。


それを腰に下げながら、俺は目的地のダンジョンへと向かう。









剣を腰に下げた俺は、街の喧騒を抜け、ダンジョンへと向かう道を歩いていた。


夕暮れが、空を深い朱色に染める。


市場のざわめきが遠のき、石畳を踏みしめる自分の足音だけが響く。


ふと、剣の柄に指を添えた。新しい世界、新しい肉体、新しい力。


「……本当に、異世界に来たんだな」


呟くと、胸の奥が不思議な熱を帯びる。どこか浮遊感のある感覚が、意識の隅をくすぐる。






町を抜けた先、緩やかな丘を越えたところに、それはあった。


巨大な岩壁がそそり立ち、その裂け目にぽっかりと口を開けた暗闇。


**「迷いの洞窟」**


初心者向けとされるダンジョン。しかし、誰もが無事に帰ってこれる保証はない。


入り口の前には、数人の冒険者たちが待機していた。中にはすでに傷を負い、仲間に支えられている者もいる。


「おい、新顔か?」


低い声が背後から響いた。


振り返ると、鎧をまとった大柄な男が俺を見下ろしていた。


「……ああ。今日からギルドに登録したレクト・シュバルツだ」


「へぇ、二刀流か。珍しいな」


男は俺の腰に下げた二本の剣を見て、口角をわずかに吊り上げた。


「俺はガルヴァン。このダンジョンには何度も潜ったが……一人で行くのか?」


「そのつもりだ」


「ほう……いい度胸だな」


ガルヴァンは腕を組み、俺を値踏みするように見つめる。その視線が、妙に肌に馴染んだ。


「……まぁいい。生きて帰れよ」


そう言い残し、ガルヴァンはその場を離れていった。




俺はダンジョンの入口へと足を踏み入れる。


空気が冷たく変わり、肌に薄くまとわりつく。


静寂。


森とは違う、何か異質なものが潜む気配。


腰の剣を握る。心臓が、ゆっくりと高鳴る。


「——行くか」


一歩、また一歩。


俺は異世界での初めての試練へと足を踏み入れた。






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