第7話
「今日はどうしたの」
「ううん~、寂しくってぇ」
「あの彼氏は」「もう別れちゃったぁ、だからいいでしょ?」
ごろん、と寝返るかづきちゃんの派手な下着が露わになると僕は目を逸らす。もう僕のじゃないから、僕が見ていいわけがないのだった。ベッドに座ると、ぐいっと腕を引かれて僕の視界は床から天井に180度揺れた。
「寂しくって。で僕のところに来ても何の解決にもならないと思うけど」
「そう?そうかあ、そうだったかあ」
あははは、と笑う。笑うからお腹が揺れて、乗っている僕の頭がゆさゆさと揺れて、眼鏡も揺れる。伊達の眼鏡が、揺れる。はあと僕がため息をつけば、なあにと彼女が僕に尋ねる。なんでもないよ、なんでもない、というと「二回も言わなくたってわかるってばぁ」と彼女はそれから少し黙って「ねえ」というので、嫌な予感がするから僕は起き上がって「ほら、帰れよ。僕、夜勤明けで寝るんだよ」といって床に落ちていた彼女の服とかをベッドに投げた。ゆっくり起き上がった彼女は湿気た目で僕を見ている。
「もう終わったんだから、かづきちゃんから終わらせたんだから。この間だって何も言わないで出てったんだし」
着替えて、というと、かづきちゃんはゆっくりベッドから降りて、着替え始めた。それを背に僕は台所で煙草に火をつける。すぅと、副流煙の匂いが部屋に充満する。換気扇が煙を吸っている。一緒に住んでた頃は煙草が嫌いなかづきちゃんと住んでいたからキチンと換気扇とキスするように吐いていたけど、ここは僕の城だから、今となっては関係ないのだ。ポケットに入れていたセブンスターの箱はべっこりと凹んでしまっている。僕の心みたいに、凹んでる。
「着替えた。じゃーね、もみじちゃん、またあとで」
またあとでっていうのはきっと午後、天文部に行くとおもっているんだろうけど、夜勤明けはドッと疲れているし、今朝もうかづきちゃんに会ったからヘンな感じがして、一日寝潰したい気持ちでいっぱいだった。
がちゃりと、かづきちゃんは自分のトートバックをちゃんと持って、鍵も忘れないで帰っていた。はあ、と煙草とため息を一緒に吐くと、僕は換気扇から離れて、椅子に座った。まだ半分と少しくらいしか吸っていないのに、灰皿にジュっとして、火を消した。いつもより強く押し付けたから指先に少しだけ灰が当たったけど気にならなかった。