第3話
深夜のコンビニバイトは人が来なくて暇だ。けれどあの日は違った。
深夜、僕はコンビニで週2~3日だけアルバイトをしている。眠くてぼうっとする2時から4時が僕にとっての峠だ。この時間の僕のやることは、大抵雑用。田舎のコンビニだから滅多に人は来ないし、来るとしても、ゾンビみたいな顔色をしたトラックの運転手たちが煙草を求めるだけだった。
けどこの日は違った。僕の人生を決定的に変える“出会い”と呼べるものがそこに会ったと思う。君島海と最初に会ったのは、2020年の6月14日の事だった。深夜1時35分に僕は初めて彼女を“観測”した。外に立っている彼女が僕の目に映った。人間離れしたその容姿に僕は一目見て“恐い”と思った。息をするのを忘れていたと思う。自動ドアの外側に立っている彼女にいつまでも反応しないドアを、ドン、と一度蹴った。この時彼女の名前はまだ知らなかったので、彼女、と言うことにしよう。ドアが、ウィーンと、歪に開くと鼻歌交じりで彼女は店内へと入ってきた。
ぐるりぐるりと店内を時計回りに何周かすると、レジの前を通るたびに彼女が抱えている商品は増えていった。
「これと、これと、これくださあい」
バサバサとお菓子とジュースをレジに持ってきた彼女は笑顔だった。まだこの地方の田舎の夜は肌寒いというのに、彼女は白く細いキャミソールのワンピースに身を纏い、頭には同じく白のヘッドドレス。黒と白のストライプの靴下に、黒のスニーカー。カジュアルなのか女の子らしいのか僕にはわからなかった。しかし、後々考えてみるとこれが彼女の出かける時よく着ていた服だったと思う。
「963円です―――」というと、コイントレーに小銭をじゃらじゃらと落とす。絶対に数えていないだろうと思われるそれは、100円玉と50円玉と1円玉がいっぱいと、10円玉が少しで、きっと足りているんだろうけれど、もう少し考えて出した方がいいぞ。と言いたくなる。
「ちょうど、お預かりします。これは、残り」
トレーの中の小銭をじっと見つめる彼女の瞳に反射した小銭が写る。トレーをもつと、そのまま全て募金箱にひっくり返した。上手く入らなかった小銭が床に散らばって、チャリンチャリンと音を立てた。「あーあ」と彼女は声をあげる。僕も「あーあーあー」というと、くすくすと笑った。
「そのままでいいわ。じゃあ、また」
そういうと彼女はそのまま袋に入った商品を持っていってしまった。僕が彼女の名前を知ったのはこの時で、ドアが開いたタイミングで「君島~!遅いよ」と言われていたこと、彼女がじゃらじゃらと捨てた小銭と一緒に握られていたメモに「きみしま うみ」とかいてあったことからだった。この名前の書いてあったメモを彼女が何故握っていたのか僕は最後まで知ることはなかった。