拝啓 親愛なる王妃へ 40年の時を超えて
懐かしい夢を見た
目を覚ました王妃は朧げながら夢を見ていたことを思い出した。
ドラフト王国王妃、ハイネ・ドラフト・フォン・アリアドネは王国の賢母として王と並び国の頂点に君臨している。
35年前、弱冠20歳にして戦争状態にあった近隣諸国との関係改善を成し遂げ、国交の正常化を推し進めた手腕は今もなお語り継がれる武勇伝である。
彼女は政治的な手腕はもちろんこのこと、民にまで愛される理由がもう一つある。それは彼女が王国を誰よりも愛しているからである。
演説一つするだけで、彼女の口から王国への想いが溢れてくる。政治的な取り組みや新聞のインタビューにも見えてくるその想いが、我が子のように国を愛しているように見えることからも、賢母と呼ばれる所以である。
「もう40年も前のことになるわね」
随分と懐かしい夢に、ふふふと笑みを浮かべながら再び目を閉じ当時の思い出を振り返った。
「嫌だわ!またパーティー!?どれだけ私をパーティーに行かせれば気が済むの!!」
当時15歳のハイネ王女はドレスの準備をしている侍従から、逃れるように部屋の隅へと行き声を荒げている。
「一国の王女たるもの、貴族が集まる社交会に参加しないのでは、示しがつきませんわ」
侍従が言うことは確かにその通りである。社交の場というのは、貴族同士の交流を深めることを名目としている。それにより、時には手を取り合いながら領地を経営していくことで、より国を発展させていくことができるのだ。
そして、各貴族が一番に手を取りたいと考えている相手は王家である。王家の人間に顔を覚えてもらうことで、王家発進の事業に声をかけていただける機会が増えるのである。
だが、国王や王妃は大きな社交会にしか現れない。国家の最高権力が現れては、多くのものが萎縮してしまうからだ。
そこで王家代表として社交会に参加するのは王女の務めとなっている。
現国王夫妻は子宝に恵まれなかったこともあり、子供はハイネ王女のみ。王子王女が複数人いれば、分散できた負担も、ハイネ王女が一人で背負わなくてはならず、これも彼女のストレスに拍車をかけている。
「...分かったわよ。ドレス着る前にお手洗いを済ましてくるから、少し待ってなさい」
王女のこの発言も最近では毎度のことで侍従も恐れることはない。
ただ、一度侍従から注意されると観念したように大人しくなるあたり、頭では理解していると言うことは伺える。
なまじ頭がいいために頭で理解して、嫌々ながらも毎回社交会に参加するあたりさすが王女であると皆感じていた。
だからこそ、気づくのが遅れたのだろう。トイレの窓からカーテンが投げ出されており、それを伝って王女が外に逃げ出したことに。
「...はぁ...はぁ...はぁ。ここまで来れば暫くは見つからないでしょう」
王城から抜け出してきた王女は、王都のメイン通りの商店街まで走り抜けてきた。
「それにしても、私ったら抜け出すほどにパーティーが嫌だったのね。自分でも意外だわ」
自分の状況を確認して、思いの外行動力があることに少し驚きを感じつつも、客観的に自分を評価している。
「折角来たんだし、散策しようかしら。そもそも、一人で城外を歩くなんて初めてだわ!」
普段は欲しい物があれば、侍従が使いをやって買ってきてくれる。用があって外出する時は馬車に乗せられて護衛がついており、いかにも王女様のお通りと行った感じで、この15年自分の足で歩いて王都を回った経験がないのである。
普段とは違うことに気を逸らせながらいろんなお店を物色して回っていく。
最初は王城を抜け出した事への罪悪感があったものの、本来自分が見て回れない世界を満喫しているうちに、次第に目の前の好奇心へと心が移り変わっていった。
どれもこれもが新しい発見ばかりで、どこに視線をやればいいのか困るほどである。まるで、初めて都会に来た田舎の子供と言っても遜色ない様子であった。
「あっ....」
そんなだったからだろうか。目の前を歩いていたら男の子にぶつかってしまい転ばせてしまった。
「あ、ごめんなさい。....大丈夫?ええと....こう言う時はどうすればいいのかしら....」
転んでしまった男の子に謝りながらも泣き出してしまった子にどう接すればいいか分からなくなって、オロオロとあたりを見渡す王女。
「こう言う時は治療費を払うのがいいのかしら?!いやいや、今すぐ病院へ連れていくのがいいのかしら?!そもそも病院ってどこ?!」
ドレスを見に纏った王女としての姿では見せることのないような慌てぶりで、いつものように客観的に状況を判断する事ができなくなってしまっている。
「ほら、大丈夫かい?怪我したところを見せてごらん。....うん、ちょっと擦りむいただけだね。水で洗って綺麗にしとけば治るさ」
王女と同じくらいの歳の男の子が、横から現れて男の子の傷の具合を確認する。
短く整えられた栗色の髪。堀の浅い顔。高くも低くもない身長。一言で言えばどこにでもいそうな少年だった。
「もう大丈夫。さあ、立ち上がって。ちゃんと前を向いて歩くんだよ」
「うん、お兄ちゃんありがとう!」
持っていた水筒の水で傷口を洗ってあげた後、泣き止んだことを確認してから男の子を見送った。
「あなた凄いのね。流れるように手当てをしていたわ」
「ははは、そんな事ないよ。まあ、弟がよく怪我するのもあって少し慣れてるだけさ」
怪我は医者が治してくれるものとして育ってきた王女には、こんな男の子が怪我の具合を確認できることに驚きを隠せずにいた。
「そんな事より、君はここら辺が初めてなの?きょろきょろしながら歩いていたようだけど」
「ええ、こうして王都を歩くのは初めてだわ」
「それなら、僕が案内してあげようか?ここら辺はよく歩いているから詳しいんだ」
「...そうね。それなら是非お願いしようかしら」
王女の周りには、国王はもちろんのこと、侍従や料理人をもってしても、貴族しかいない。
そんな彼女は目の前の平凡な人間が大変珍しく映っていた。
だから、この少年はどう過ごしているのか、何を感じているのか気になってしまった。
だから、もう少し少年と過ごすことにした。
「君は今日どこら辺を見ていたんだい?」
「この通りを北側からまっすぐ歩いていたところよ」
「そうか、じゃあ、この通りは殆ど見たって事だね。それなら、僕のお気に入りのお店を巡るのはどう?」
「いいわね!なんだか面白そうだわ!案内してちょうだい」
その言葉を聞いて「それならあっちへ行こう」と言いながら、少年は王女の手を取って案内し始めた。
普段から社交会で異性にエスコートしてもらうことの多い王女だが、乱暴に手を握られる経験はなくどこか不思議な感覚を覚えていた。
「最初に案内する場所はここだよ」
「ここは本屋かしら?」
「そうさ!僕はこう見えて本を読むのが好きなんだ」
「あら、それはいい趣味じゃない!私も本は読むの」
話しながらお店の中に入っていく二人。その本屋は少し埃っぽくて古ぼけた本が無数に並んでいた。
王城内の図書室とは違い整理されていない本に少し目を白黒させながら店内を歩いていく。
「僕のおすすめはこれかな。魔導大全!これ一冊で色んな魔導が載っているんだ!」
「そういうのが好きなのね!なら将来は魔導士ね!」
「ううん、残念ながら僕には魔導の才能がなくてね。君はどんな本を読むんだい」
少し寂しげな目をしながら話題を逸らす少年。少年にとってあまり触れてほしくない部分でもあるのだろう。
何となくそんな雰囲気を感じた王女はこれ以上深掘りをするのをやめた。
「んー、私のおすすめはこれね!諸国漫遊、グルメ旅。色んな国の沢山の料理が載っている本よ!他国の料理って中々食べることができないから、これを見て想像するのが好き!」
「いい本だね!確かに各国の料理を食べた気分になれるのはお得だね!」
そんな話をしながら店内を一周回り、次のお店に向かうことにした。
少年の行くお店は貴族子女の間で話題になるような服飾店や宝石商とは違い一風変わった店が多かった。
薬草屋、魔獣素材屋、金属加工店。そういうお店があることは知っていた王女も、実際に見てみるとそこは全く知らない世界で、新しい世界に足を踏み入れる快感を覚えていた。
「次が最後で、僕の一番のお気に入りの場所さ!」
これで最後と言わずもっと新しい世界を知りたいと思い少し寂しげな表情をみせるものの、一番のお気に入りと聞いて期待に胸が膨らむ王女。
「...ここ?」
そこには今まで以上にオンボロな建物があった。外観だけでは、お店なのか家なのか、そもそも人が住めるようなところなのか疑問に思うほどの哀愁漂う建物である。
「そうだよ!驚いたかもしれないけど、是非見て欲しいんだ!」
そう言って少年は店内へと入っていった。
"ギギギィ"
建て付けの悪い扉の軋む音を聞きながら入り口を潜った店内は、モダンテイストのオシャレな雰囲気で宝石商のように台座の上に一つ一つの製品が上品に並んでいる。
「...いいところね。外観とは別物じゃない!」
「そうさ!そして、ここにあるのは魔導具です!」
「魔道具?!こんなところに、こんなに沢山の魔導具があるなんて?!....すごいわね!!」
「そうでしょ!そうでしょ!僕はここで魔導具を見てる時間が一番好きなんだ!」
魔導具は今では失われた技術で作られており、現存するのは数百年前の遺跡から採掘されたものしかないと言われている。
王城では至る所に魔導具が使われているが、それは王国の威厳のため、魔導具を設備として導入している。
だが、数に限りがあるため莫大な費用がかかる。
決して庶民が数年働いたくらいで稼げる額では買えないのだ。
近年起きている戦争も魔導具を手に入れるための戦いだと言われているほどに、魔導具は価値のあるものなのだ。
「あなたは魔導具を持っているの?」
「さすがにね...僕には買えないや。いつか欲しいなとは思っているんだけどね...
それより見てよ!こっちにあるのは明かりの魔導具でね、ここが光るんだよ!こっちにあるのは水が出る魔導具でこの先端の部分から水が出るんだ!他にもね-------」
少年の説明は続いた。一度話し始めたら堰を切ったように彼の口から言葉が漏れてくる。
瞳を輝かせながら饒舌に話す姿に王女は、これ程までに何かを好きになることができるなんて、と感銘を受けていた。
"思い返してみると私はこんなに好きなものがあったかしら?
これまで王女として勉学に励み交友を広げ見識を広めてきた。
でも、それは王女として。私自身は何が好きなの?"
気がつけば話し続ける少年の姿横顔から目が離せなくなっていた。これ程までに好きなものがある少年が羨ましくてそしてとても眩しく映った。そして、今後少年がどう成長していくのか、たまらなく知りたくなった。
"こんなに一人の人が気になるなんて初めてだわ"
社交会で出会う貴族や世話をしてくれる侍従など表面的に仲のいい人はいる。でも、これほどまでに知りたいと思える人は一人もいない。
「ほら、いつまで見てるんだい。こんなところに来て、せっかくのデートが台無しじゃないかい」
奥の部屋から店主の老婆がやってきて、今もなお話し続ける少年に向かって、声をかけた。
「デ、デ、デ、デートなんかじゃないよ!この子に街を案内してたんだ」
先程まで饒舌に話していた様子が嘘のように、言葉に詰まる様子が面白くついつい微笑んでしまう。
「もう行こうか!じゃあね、おばば。また来るから!」
頬を赤くしながら足早に去っていく少年を追いかけるように王女も店を出た。
「ごめんね。急に店を飛び出してしまって」
未だに顔を赤くしている少年が王女に謝罪する。
「全然構わないわ!あなたは魔導具がとても好きなのね!真剣に話す姿に見惚れてしまったわ」
「み、見惚れただなんて、やめてよ。僕なんてただの魔導具オタクさ。最後にもう1箇所行きたいところがあるんだけどいいかな?」
「えぇ!是非連れてって!」
そう言って王都の中心部に向かうこと数分。そこは王都が誇る時計台だった。
この時計台は王都の至る所から時間が確認できるように、周辺の建物よりも高く作られていて、王城からも見ることができる。
「最後は時計台かしら?ここに何があるの?」
「実はこの時計台、中に入れるんだ」
「そうだったの?!そんなの聞いたことないわ!!」
「知る人ぞ知る名所ってやつさ。まぁ、不法侵入とも言うけどね」
お茶目にウインクをしながらも、悪戯っぽく悪う表情に、つられて王女も笑みが込み上げてくる。
「あら、私に犯罪を勧めてくるだなんて、それはそれはいい物があるんでしょうね?」
「もちろんさ!」
自信満々の少年に連れられて中へと入っていった。
中は遥か高くまで螺旋階段が続いていた。
「凄く高いわね!これを登るのかしら?」
「ああ、ちょっと大変だけど絶対後悔はさせないよ」
そう言いながら階段を登り始める少年の後ろをついて行った。
5分ほど登り続けて二人とも息が上がってきたところでやっと最上階へと辿り着いた。
最上階には時計を回す歯車が敷き詰められていた。
「...はあ...はあ...はあ。さぁ、到着さ!」
「凄い!時計の中はこんな風になっているのね!こんな大きな歯車初めて見たわ!」
今もなお動き続ける歯車は想像以上に大きく立派で、壮観の一言であった。
「それも凄いところなんだけど、もう1箇所凄いところがあるんだ!」
そう言って、歯車を避けながら奥へと進んでいく。
壁の一角に直径30cmほどの丸い切れ込みと取っ手がついてる。
「これは何の取っ手かしら?」
「それはね、こうするのさ!」
少年は取っ手を思いっきり引いた。重いためかゆっくりではあるが、少しずつ後ろにずれてきている。
力を入れながらも慎重に引き抜いていく少年。
"スポッ"という音と共に引き抜かれた先には王都の街並みが見えた。
夕暮れに照らされた街並み。その先に見える王城。そして、オレンジ色に輝く空。
まるで別世界に来たような幻想的な空間が広がっていた。
「凄い.....」
ハイネ王女は感動のあまり声を出すことを忘れていた。
「凄いだろう!!これが一番好きな場所なんだ!!」
「王都ってこんなに綺麗な場所だったんだね」
ハイネ王女は今まで見たことのない王都の景色に、しみじみと感慨深いものを感じていた。
この景色を目に焼き付けることに夢中になっていた王女。ふと気がつけば、この景色を二人で覗くために少年と頬が触れ合うほど近づいていたことに今更ながら気がついたら。
ドクンっと心臓の跳ねる音がした。急に動悸が激しくなり顔が熱を帯びていく事を感じる。
少年の顔を見ると顔を赤くし、少し呼吸が荒げている。
少年も同じことを思っていると感じた。
「君はさ、王都は好き?」
「えぇ、好きですけど。どうしたの突然?」
「僕はね、魔導具好きなのなはさっきも話したけど、それと同じくらいこの王都が好きなんだ。だって、こんな綺麗なんだよ!嫌いになるわけないよね。
でも、最近は戦争が起きることもよくあって色んな村が破壊されているし、破壊している。
原因は魔導具にあるって言うじゃないか。数の限られた魔導具を奪い合うような戦争。そんな戦争でもしこの王都が無くなったら僕はとても悲しいよ。
だからね、僕は魔導具師になるって決めたんだ!今は無きその技術を僕が復活させる!そうすれば、戦争なんてする必要なく、みんなで平等に魔導具を使える世界になるって信じてるんだ」
夕陽を見ながら語る少年は、先程までのお茶目な一面とは正反対の真面目な顔で、自分の夢を語っている。
美しい景色の前で、王女は少年から目を離すことができなかった。
「....素敵な夢ね」
相槌を打ちながら王女思考はぐるぐる回る。
"私はもっと直接的にこの街を守れる立場にいる。その私は何もしなくていいの?"
一庶民に惹かれ、そして今感銘を受けている。自身も何かしなければならい、そんな思いが込み上げてくる。
「...なら、私はこの戦争を止めてみせるわ!ハイネ・ドラフト・フォン・アリアドネの名にかけて。今まではお利口な王女として生きてきたけど、そんなの今日でおしまいだわ。これからは私が主体になって動く!なんて言っても、王都がこんなに素敵なところだって知ってしまったんだもの。この街を、延いてはこの国を汚させるようなことは許せないわ!」
王女の名前を聞いた少年は驚きを隠せないが、それ以上にその決意を宿した瞳にこれほど頼りになる人はいないと感じていた。
「私は魔導具を作れないわ!でも、戦争は止められる。そう言う立場にいる。だから、私がこの戦争を止めてくる。あなたは魔導具を作りなさい。何年何十年かかっても構わないわ。そうすれば、同じように魔導具が理由で再び戦争が起こることを防げるでしょ!」
「あぁ、素敵な提案だ!いいじゃないか!僕は必ず作り上げるよ!」
王女は少年の宣言を聞いて満足気に頷きながらも、少し寂しそうな表情を見せた。
「....今日一日でもっとあなたのことを知りたいって思ったわ。次もまた会いたいって、あなたがどんな大人になるのか見てみたいって思ったわ。
でも、私たちが会うのはこれで最後にしましょう。お互いにやるべき事が見つかったから。
今は1秒でも早く私にできることをしたいって思ってるわ」
少年の目を見つめながら、今の素直な気持ちを伝える王女。その頬は夕陽に照らされて少し赤みがかっている。
「だから、私の功績を見ていて欲しい。私は絶対に戦争を止めて、王国をより素敵な街に変えていくと誓うわ!」
王女に見つめられて恥ずかしがりながらも、真面目なその言葉に、少年も目を見つめたまま聞き入っていた。
「分かった。僕も君と今日一日過ごしてみて、とても楽しかったし、もっと一緒にいたいって思った。でも、君が僕の夢を笑わずに聞いてくれた。それだけじゃない、一緒に夢を叶えると言ってくれた。
だから、僕も今すぐにでも魔導具作りを始めたいって思ってる。1秒たりとも無駄にはしたくない」
少年も王女に感化されて、自分の夢を延いては王女との夢を叶える決意をした。
「だから、僕たちが会うのはこれで最後だね」
「ええ、それもこれも王都がこんなに美しいところだって教えてくれたあなたのおかげよ。ありがとう」
ただの夢物語にするつもりなど、二人ともさらさらない。色恋沙汰に夢中になる以上に、この王都を守りたいという気持ちが優っているのだ。
夕陽が照らす二人だけの空間。お互いに惹かれあっている二人は最後のひと時を惜しむように見つめ合いながら、気がつけばどちらからともなく口づけを交わしていた。
一瞬触れるような淡いキス。それでも二人にとってはまるで夢のような時間だった。
お互いにハニカム顔が赤いのは、夕陽だけのせいではなかったのだろう。
「最後に教えて!君の名前は何て言うの?」
「僕の名前は--------」
—コンコンコン---
ドアをノックする音で現実世界へと戻ってきた王妃。
懐かしい思い出の余韻に浸りながら、ゆっくりと返事をした。
「どうぞ、入っていいわよ」
「失礼します」
そう言って一人の侍女が入室してきた。
手には何やら荷物を持っている。
「王妃様に荷物が届いていましたのでお持ちしました」
「あら、何かしら?包みを開けてくださる?」
王妃に頼まれて侍女が包みを広げていく。中には一つの魔導具が包まれていた。
「灯りの魔導具でしょうか?」
包みを解いた侍女から受け取った荷物は、王城で使われている灯りの魔導具と似たようなものだった。
侍女から受け取った魔導具を様々な角度から観察する王妃。
「どういう目的があるんでしょうか?ただの一般的な魔導具にしか見えませんが。-----お、王妃様!?」
まじまじと魔導具をみていた王妃の頬には気づかぬうちに涙が伝っていた。
「どうされたんですか!まさか、この魔導具に何か仕掛けでも?!」
慌てて王妃から魔導具を取り上げた侍女が隅々まで魔導具を確認するとそこにはこう刻まれていた。
『ロベルタ』と。
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