8 倉田真人と永井加奈
「すみません、倉田さんですか?」
俺と佐々木は倉田真人のマンションを訪ねた。
高そうな…いや、間違いなく高級の低層マンションだった。
「はい…そうですが…」
「警察の吉村と申します、こっちは佐々木です」
佐々木がペコリと頭を下げた。
倉田は俺と佐々木を見定めるように目を細めた。
そして佐々木を見て…「ふっ」と一度笑った。
「すみません、進藤七海についてお話しを聞かせていただきたいのですが…」
「ああ…いいですよ」
倉田はマンションのコンシェルジュに話しをして、住民専用の会議室を開けてもらう。
「狭い方ですが、3人なら充分ですね…どうぞ」
「俺の部屋より広い…」
佐々木の呟きが聞こえた。
俺は早速事件の事を聞く。
「お忙しいところすみません、えー今回の「吉村さん、先に私から話させて頂いてもよろしいでしょうか?」
俺の話を遮るかたちで倉田はそう言った。
「え、ええ、どうぞ」
「ありがとうございます。
まず、私は七海に愛情は持っていません。
私は女性を恋愛対象としていませんので。
それでも七海と婚約したのは、周りの…特に親ですね、親から早く結婚しろと言われる事の解決策として、街コンで男遊びをしてそうな七海を選んだだけです。
七海は2、3年もしないうちに浮気でもするでしょうから、それを理由に離婚するつもりでした。
まさか結婚前に殺人をするとは思っていませんでしたが…。
まあ、これで今後は堂々と「結婚は懲りごり」と言う事が出来るので、私としては戸籍が汚れずに済んで良かったと思っています。
七海は男遊びを隠しているつもりのようでしたが、置きっぱなしの携帯画面に男とのやり取りがそのままの事もありましたので、本人が思っている程隠せてはいませんでした。
亡くなった男性の他にも…少なくとも二人くらいいませんでしたか?」
佐々木が黙って頷く。
「ですよね?
私は七海が殺人をする一週間前に出張でアメリカに行っています。帰ってきたのはつい先日です。
ですのでこの事件に何の関与もありません。
私からは以上です。
さて、何か聞きたい事はありますか?」
結局、俺と佐々木は大して質問もせず、倉田に見送られながらマンションを出る。
マンションのエントランス、倉田は先に歩く佐々木を見ながら「最後に一言だけ…」と、伝えてきた。
「吉村さん…倉田が女性を恋愛対象にしていないって…本当でしょうか…」
車を運転しながら佐々木が言う。
俺は呆れた顔をして佐々木を見やる。
「…本当だろうよ。倉田は最初からずっとお前を見てたぞ。俺よりお前のほうが「好み」だとさ」
。。。
倉田のマンションからの帰りに、七海の友人の永井加奈に連絡をする。
すぐに出て来られるとのことで、近くのファミレスで待ち合わせをする。
俺と佐々木と並んで座って待つのもおかしいだろうと、永井が来るまで向かい合って座る。
コーヒーを飲みながら倉田との会話を思い返す。
「倉田はもともと七海の事を信用していなかったんですね…利用する為に結婚って…」
「まあ、それに気づかない七海も…お互い様なんじゃねーの?」
「他にも男がいた事知っていましたね」
七海が消去したデータは全て復元された。
そして倉田、拓海の他にも関係を持っている男が複数人はいた。
拓海は結婚前の遊びでしかないのがよくわかるやり取り。
拓海を切り捨てるつもりでいたのが上手く行かずに手間取っていると、他の男とのやり取りに書いてあった。
横山拓海は何故七海なんかに引っかかってしまったのだろう。
普通にしていたら…早紀と幸せに暮らしていただろうに…
「遅くなってすみませ〜ん」
永井が来た。
俺が席を移動しようとしたら…
あっという間に永井は佐々木の隣に座った。
「私も何か頼んでもいいですか?」
「どうぞ」佐々木が言うと「ご馳走様です!」と永井が答えて店員を呼んだ。
「このステーキをライスとスープ、サラダ付きで…飲み物はフリードリンクで。デザートは…この季節のフルーツパフェでお願いします」
食べる気満々の様だ。
「七海の事ですよね?絶対七海が犯人ですよね?」
拓海が死んだ後、2日続けてビジネスホテルに隠れていた七海。
一人でいるのに耐えきれず、友人の永井の家を訪ねた。
七海は拓海が死んだ経緯などを永井に伝えた。
そこで永井はゆっくり風呂に入るよう七海に勧め、七海が風呂に入っているうちに警察に通報したのだ。
「あの時は通報ありがとうございました。おかげで助かりました」
佐々木が言うと「いえいえ、佐々木さんのお役に立てれば嬉しいです。それに七海のせいで犯人隠避罪とか絶対嫌ですから」パクパクとステーキを食べながら永井は答えた。
「永井さん、七海との関係を教えて頂きたいのですが…」
「七海とは「友達」と呼べる程仲良くないですよ。てか、友達とか嫌です。あんな男癖の悪い女…私が注意しても、うるさいくらいにしか思ってないんですよ。痛い目に遭うよと忠告したんです。なのに痛い目ってなーに?って。馬鹿にしてると思いません?実際痛い目にあってざまあって感じですよ」
「仲良くしていたんじゃないですか?」
「やめて下さい。だって七海ってすぐ人の男にちょっかい出すんですよ。私、彼氏出来ても七海には言わないようにしてたんです。
あ、今は彼氏いないですよ?佐々木さんは彼女いますか?」
……
「ご馳走様でしたー!佐々木さん個人的に連絡先交換しません?」
「いえ、職務上そういうのはしないんです」
「なーんだ。じゃあ、また何か聞きたい事あったら連絡してくださいね。私は七海が犯人だと思っています。頑張って下さいね!」
ペロリとステーキをたいらげた永井が佐々木に手を振る。
「佐々木、お前モテモテだな…」
「ちょ、吉村さんっ!やめてくださいよ!」