6 警察の会議室
警察署の3階、第二会議室で今回の事件について話し合う事になった。
部下の佐々木が資料を配り、ホワイトボードを使って説明する。
えー…それでは今回の事件について〜ですが…
今回の被害者は、横山拓海。
部屋で倒れていた拓海を発見、警察に通報したのは拓海の妻、横山早紀です。
推定死亡日は10日。
検視の結果、死因は何らかのアレルゲンを摂取した事によるアナフィラキシーで、気道が腫れたことによる窒息死です。
血液検査では…アレルゲンは「蕎麦」の可能性が強いです。
妻、早紀のアリバイですが、事件当日の10日の朝から、仕事で岩手にいてカメラマンの女性とずっと一緒で離れる事はなく、12日に帰宅。
現地でも多くの人に会っています。
10日は拓海も会社へ出勤し、20時まで勤務しているので、早紀の関与は極めて低いものと思われます。
ただの事故かと思われましたが、拓海の部屋のゴミ箱から使用済みの避妊具が見つかった為、事件の可能性から調査しました。
スーパーなどの聞き込みや、付近の防犯カメラの映像解析で、事件当日、拓海は早紀ではない女性と一緒でした。
そして拓海の携帯を調べたところ、進藤七海が拓海と愛人関係にあることがわかりました。
拓海が最後に接触したのは、この七海になります。
七海については、七海が友人宅を訪ねたところを、友人からの通報により身柄確保になりました。
それで…七海の供述から…
10日、拓海の妻の早紀が出張中に、横山宅のキッチンで七海が食事を作り提供。
これが21時前後だそうです。
すると22時頃、拓海がベッドの中で暴れ出し、その後動かなくなったと言っています。
七海はその場から逃走しています。
この食事でアレルゲンを摂取したものと思われます。
食べてから時間差があるのは、遅延アレルギー反応によるものと思われます。
拓海と七海の出会いですが、街コンです。
七海は拓海が既婚者と知っていました。
一方で妻の早紀は、拓海が浮気をしている事は全く知らなかったそうです。
これについての早紀と拓海とのメッセージのやり取りを調べましたが、浮気に触れる事は一切ありませんでした。
他には、隠しカメラなどで知るきっかけがなかったか、早紀の通信履歴を調べましたが、アプリなどで出張先や出先から自宅にリンクした形跡は数年遡ってもありませんでした。
知る事が無かった可能性が高いです。
七海も早紀に会った事はないと言っています。
押収した拓海の携帯を調べたところ、早紀と拓海はメッセージのやり取りを見ても、夫婦仲は良いとは思えませんでした。
ほとんど早紀からの出張の日程連絡で、拓海からの返事やメッセージはほぼありません。
しかし、拓海は七海とは日々何度もやり取りをしています。
その中には「結婚しよう」や「絶対に別れない」などがあり、七海への執着が読み取れます。
やり取りの中には、妻の早紀が死ねばいいと思っている。なども残されています。
一方、七海ですが、倉田真人と婚約関係にありました。
これは今回の事件で破談になったそうです。
七海は自身の結婚までは拓海と遊び、結婚後は別れるつもりだったそうです。
七海は事件後、携帯のメッセージなどを一度全て消去していますが復元済みです。
それで…
七海の友人の永井加奈とのやり取りの中では、自分の結婚までに拓海が別れを渋った場合「死んでもらう」と言っています。
友人とのメッセージの詳しいやり取りは、右上に赤丸のついている別紙をお読みください。
七海の話しでは、拓海が亡くなる前に話していたのは別れ話だったそうで、拓海は別れを渋っていたそうです。これが動機に繋がると思っています。
アレルゲンの特定ですが、拓海と七海は、早紀に関係が知られる事がないよう、使用した調理器具などは拓海がいつもと同じように洗って元に戻すなど細心の注意を払っていたそうで、今回も使用した食器などはきちんと洗われていたため、食器からの証拠採取は拓海の指紋のみでした。
一番疑わしいのは蕎麦ですが、拓海と七海は一緒に買い物に行っているので、拓海に気付かれずに蕎麦を購入するのはあり得ません。
家にある調味料などは全て鑑識が確認しましたが、どれからも蕎麦は発見されませんでした。
しかし、七海の部屋からは使い掛けの乾麺の蕎麦が数種類押収されています。
七海が事前に用意した蕎麦を調理中に材料に隠し入れた可能性が最も高いと思われます。
今回の事件ですが、進藤七海は、保護責任者遺棄致死で逮捕状を裁判所に請求しています。
(※病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかった罪)
それと、動機、現場に残された遺留物、メッセージでのやり取りなどの状況証拠からして、殺人の可能性についても詳しく調べていきます。
部下の佐々木が事件についてつらつらと説明した。
浮気相手との清算が拗れて殺される事件はよくある事だ。
まぁ、保護責任者遺棄致死罪は確実だな。
だがなぁ…