開幕『優しい叔父と放蕩者(ほうとうもの)の甥(偽)』
(*・ω・)(´Д`)いいこいいこ
第七魔道騎士団宿舎の4人部屋で荷物の整理をする若い団員とその横で手際よく手伝う近衛騎士の儀礼服を着た中年の男性が荷物の整理をしていた
訓練が終わり団員達がそれぞれの部屋へと戻って行く
「見ろよルース、アイツも出て行くみたいだな」
「空き部屋がまた増えるのか。おいマクス!あれ近衛隊長殿だよな?」
「だな。アイツ近衛隊長殿の息子か?」
「いや、歳が違う。それに近衛隊長殿の息子殿は近衛騎士団に入っているはずだ。親族の子じゃないか?よし!隣の空き部屋で斥候の情勢収集訓練だ!」
「〘隠遁〙静かにな?」
「おう!」
ルースとマクスはこっそりと隣の空き部屋に入り壁に耳を押し付け聞き耳を立てる
暇な団員達の噂話のネタ集めの一環だった。
近衛隊長は手入れの良い使い込まれた団員用のライトアーマーを若い団員に手際よく装着していく
近衛隊長は微笑みをこぼす
「フッ、あの小さかった子が大きくなったものだな全く心配させよって…無事で何よりだが。どうだ?装備各所のベルトの締め付けはきつくは無いか?オース」
「はい、叔父上、大丈夫です。ですが肩はもう少しきつくてもいいのかもしれませんが?」
若い団員は左右の肩を相互に回してみる
身体を捻り可動域を確かめる
締め付け感もなく自由に動かせる
肩アーマーがずれる感じが少しする
「ふむどれどれ。余りきつく絞めすぎると肩関節の可動域が狭まり剣や槍、魔法戦闘の際に対象に対して標準が甘くなる。肩は特に可動域が大きい。指がこれくらい入りアーマーが多少前後にずれるくらいが丁度いいのだ。」
「そうなんですね?成る程…ならばこれで問題はありません。叔父上、装備装着の指南ありがとうございます」
「いや、よい。装備装着は自己流に次第になりがちなのでな。しかしオース、何故私にも黙って第七魔道騎士団に入隊していた?」
少しの沈黙の時が過ぎる
「…俺、いや私には剣と魔法の腕しか取り柄が無いので…やはり私は魔道騎士を目指す事を諦めねばならないのですか?叔父上」
どうやら彼は近衛隊長殿の親族のようだ
黙って第七魔道騎士団に入隊していたことがばれて退団を薦められたようだ
ルースとマクスは顔を見合せ頷き情報収集を続ける
「個人としては魔法剣士を目指す事は別によい。しかし現状での第七魔道騎士団の魔道騎士は駄目だ。分家とは言え時期家長の長兄を支えるのが次男三男の役目。忘れてはおるまい?」
「それは忘れてはいません。しかし…」
「しかしではない!私がここまでするには理由もあるのだ!第七魔道騎士団の団員の次の遠征就任の予定地が何処なのか解っているのか?」
近衛隊長の声に鋭さが増す
「…リダム領です」
若者は小さな声で答える
「そこがどういった場所なのか戦場なのかわかっているのか?オース」
「いえ、そこまでは詳しくは噂程度です…」
若い団員は首を横に振る
近衛隊長は大きなため息を吐き出すと若者の両肩を近衛隊長が両手で掴み若者の目を真っ直ぐに見詰めて言う
「リダム領は現在本国においての最前線の一つだ。確かにリダム領は我が王国の領土である。だが今の情勢ではもっとも危険な最前線でもあるのだ。オースこれはここだけの話だ」
近衛隊長の声が小さくなる
若い団員が真剣に頷く
「先ほど城で勇者降臨が行われた。それは知っているだろう?」
「はい先日、通達がありました。城にて本日行われると」
近衛隊長の目が鋭くなる
潜めた声に怒りが滲む
「…先ほどアブダダタタータ伯爵以下の貴族達が国家転覆反逆罪で捕縛された。どう言う事か判るか?」
「え?伯爵様が?リダム領の背後の領地は確か伯爵様の領地だったのでは?」
「その通りだ。つまりリダム領は敵対国と謀反人の伯爵に挟撃される危険性があった戦場だ」
「まさか…伯爵が敵と内通を?」
「それは判らぬが私達近衛騎士団も伯爵と貴族達の捕縛に動いたのだ。今城下の貴族邸宅にも衛兵達が向かっている。王都でもそのような混乱した事態なのだ。第七魔道騎士団の有用性は高い危険性の高い。その戦地に才能のあるお前を向かわせる事は出来ない。なおさら領主が捕縛されて領地の情勢が更に不安定になったのだ。多少強引だったが私はお前を本日で退団させる手続きを押し薦めた。国王陛下からも認可の書状は戴いている。荷物が纏まったら騎士団長に面会し退団を薦める。退団後は冒険者都市に向かい冒険者となり腕を磨き路銀を貯めゆっくりと時間をかけて旅をしながらでいい。まだまだお前は若い。世界を見て見聞を広げなさい。いずれ旅を終えたら故郷の遺跡都市バストレイク向かいなさい。故郷でもまだお前の知らなかった事もあるはずだ。冒険をしてみよ。それに家族が皆お前の事を心配している。近い内に私がお前の無事を知らせる手紙を出して置く。いつか家族の元に帰りなさい、判ったな?オース」
「ですが叔父上…」
「オースこれはバルティ家筆頭の家長としての命令だ、口答えは許さん!容量が小さいようだが異空保管庫が使えるようだな?」
「…はい、使えます」
「それは僥倖。それだけでもお前の家での地位は安定する。家に帰っても不自由は無いだろう。」
二人で若者の荷物を袋と鞄に入れ着替えなどを若者が異空保管庫に入れて行く
「オース、荷の忘れ物は無いか?」
少し不貞腐れているような若い団員は返事をする
「…ありません。叔父上」
「今は判らなくともよい。これからの人生で学び、いつか今日の事が理解出来る日が来ることを私は願う。オース、騎士団長殿に書類を提出と別れの挨拶に向かう。私に遅れずについて参れ」
「はっ!叔父上」
「オース、まだここでは近衛隊長殿と呼ぶのだ。誰が見ているのか判らん」
「はっ!失礼致しました。近衛隊長殿!」
「よろしい。では予定通り騎士団長殿と面会に向かう。ついて参れ」
「はっ、オース・バルティ御同行致します」
二人は騎士団長の部屋に向かって歩いて行った
「…なぁ、アイツはここを辞めたくなかったみたいだな?」
「あぁ、でも近衛隊長殿のがアイツを相当可愛がっているのはめちゃめちゃ伝わったな」
「黙って家を出て王都まで来て第七魔道騎士団に入隊っていくら三男でも中々貴族のボンボンの出来る事じゃないぜ?どうやら近衛隊長殿の推しで入隊した光り物じゃ無いようだし」
「確かに…貴族で態度のデカイ奴がいるとか、近衛隊長殿の親族が入隊したって噂すらなかったからな…でもあの噂通りにリダム領は危ないようだな?近衛隊長殿の情報だ。噂の信憑性はデカイな、情報を近い奴らにも回しておくか?」
「ああ、それがいいな。俺もリダム領の警護就任の命令が来たら退団するぜ。好き好んで死地に飛び込めるかよ。婚約者がいるんだ。帰ったら式をあげる約束をしているしな」
「俺もだ。しかしこの国の内政どうなるんだ?」
「…しばらく荒れるだろうな?難しい事を考える前に俺達も退団志願書でも書いておくか?」
「退団したあとはどうするんだよ?ルース」
「マクス俺達もアイツみたいに冒険者になるのはどうだ?確か元騎士団員の肩書きがあれば冒険者になっても始めから討伐依頼を多く受けられるD級からスタートのはず。稼ぎはここよりも多くなるはずだ。どうだ一緒に冒険者をやらないか?」
「成る程な!それいいな!よし、急いで手紙で実家に頼んで退団嘆願書を書いて貰うぞ!」
「おう!」
ルースとマクスは自分達の部屋に足場に戻って行った
近衛隊長は小さくクスリと笑う
「フッ、どうやら若い斥候達は行ったようです。使徒様あのような物言い大変申し訳ありませんでした」
「いや、俺こそあんな感じで斥候達を騙し通せただろうか?」
「使徒様はとても自然に私の話に合わせられていました。私は感服致しました。」
近衛隊長はニコリと微笑んでくれた
周皇も頷いて応える
「使徒様、騎士団長殿の前では胸に右手を付け頭をさげましたらソファーにお座り下さい。あとは私が話を薦めるので騎士団長殿から問われ返答を求められた時のみ発言して下さい」
「うん、判った。第七魔道騎士団か思ったよりも優秀な魔道騎士がいるな?それにかなりの人数が抜けているのだろう?」
「はい、抜けた人数はある程度の期間で随時補充されます。それに辞めていく者は一年未満の団員達です。騎士団長殿も顔の覚えは余り良くない方なので新入隊の団員の顔を全てまでは存じ上げていないかと。ですので私が話をそれらしく語っていきます。先ほどの書類にお名前の御記入はよろしいですか?」
「ああ、オース・バルティと、これでいいのか?」
周皇は近衛隊長からインクとガラスペンを渡され書類に名前を記入していく
神様式翻訳機能のお陰で現在の世界の文字もすらすらとかける
昔の文字も読み書き出来るのだが現在の世界ではそれらは古代文字となるようだ
近衛隊長は書類に目を通し終わると頷く
「はい、これで全て揃いました。ではもうすぐ到着致します。入室は私の後ろから入室時に名前をお名乗り下さいませ。」
「うん、判った」
数人の騎士団員とすれ違い敬礼を交わす
咄嗟に近衛隊長から声がかけられる
「では、オースよいか?」
「はい叔父上、いえ近衛隊長殿!」
近衛隊長が騎士団長の部屋の前で扉に立つ騎士に声をかける
「リヒルト・ディート・バルティ、オース・バルティと共に第七魔道騎士団長殿に面会に来た」
「少々お待ちを、失礼します。団長、近衛隊長殿がお目見え致しました」
「参られたか、丁重にお通ししろ」
中から入室許可の声が聞こえて来る
「近衛隊長殿ではどうぞ」
騎士が扉を開く
「うむ、失礼する」
近衛隊長が先に部屋の中に入る
「オース・バルティ入室失礼致します」
騎士が周皇を上からしたまで観察し頷く
「装備防具の乱れなし、武器類の装備なし、オース・バルティ入室を許可する。入れ」
「はっ!ありがとうございます」
騎士に促され中に部屋の中に入ると騎士が扉を静かに閉める
フルプレートの騎士鎧を着た三十代の男性がソファーに座り左手で近衛隊長にソファーに座る様にと促す
「近衛隊長殿こちらに」
「騎士団長殿、時間を作って頂き感謝する」
近衛隊長はソファーに座る
近衛隊長の後ろで直立不動の姿勢で立っていた周皇に騎士団長から声がかかる
「オース・バルティ、少々話は長くなる。君も掛けたまえ」
「はっ!失礼致します」
周皇は近衛隊長に教わった作法通りに頭をさげ近衛隊長の横に座る
騎士団長は近衛隊長から渡された書類に目を通す
合間合間で騎士団長と近衛隊長が言葉を交わす
周皇は黙って大人しく黙って姿勢を正して座って待っていた
読み終わると騎士団長はため息は吐く
「了承した。オース・バルティ、本日を持って君の退団を認めよう。近衛隊長殿はいつ頃に彼の事を?」
「いや、全くの偶然でした。つい先日週ですな、第七魔道騎士団員の休暇日に私の休暇が重なりバザーでこれの姿を見かけたのですよ。先月、従兄弟からこれの捜索の願いの手紙が届いていたのが重なりましてな、これが無断で家を出たと書いてありましてな。いやぁ、見付けられて私も心底安堵いたしました」
「そうですか無事で何よりでしたな。ふむ、しかしオース・バルティ何故、黙って家を出たのかね?」
「はっ!三男である私には家督相続権はありません。二十歳も超えて見合い話もない私には剣と魔法の鍛練に打ち込むしか取り柄がありませんでした。しかし私にも民の為に何か出来る事があるのではと思い衝動的に動いてしまいました」
「ふむ、若い君の気持ちは私も判らなくは無い。しかしだ、兄の次男を補佐する事も三男の君の役目でもあるだろう?ましてや三男であれば御家の私兵隊の隊長として働くべきでは無いかね?」
「あっ…はい…振り返るとそうでありました」
バルティは少し俯いている
この青年はきっと真面目で思い込みが強く回りが見えなくなったのだろうと騎士団長は思った
(よい青年ではないか。近衛隊長殿が自ら退団させようと動く訳だ。近衛隊長殿は甥が可愛くて仕方がないのだろう。私も甥や姪は可愛く見えるからな)
「しかし近衛隊長殿、彼の故郷まで随分と遠いようだが?旅費はどういたすのですかな?」
「ええ、これには心身を鍛える為と路銀を稼がせる為に冒険者都市でしばらく冒険者として過ごす様にと言い付けてあります」
「ふむ、成る程な。良い考えだ。民の声を聞き民が何を求めているのかを側で目で見て、耳で聞き心身を鍛える冒険者というのはうってつけだ。まぁ、我が第七魔道騎士団にいたのだ。そう簡単には垂れ死ぬ事はあるまい。何かあれば第七魔道騎士団を頼れ。一人では手に負えない事も多くなる。退団したとしてもだ。それに近頃冒険者となった退団者が数人行方不明になっているという件も耳に届いている。いかに戦闘力、魔術力に長けているとはいえ個人は個人だ。部隊で戦うのとは訳が違う。心せよ。陰ながら第七騎士団団長グレイス・ティム・バールードも応援している。しっかれやれ、オース・バルティ」
騎士団長がソファーから立ち上がり周皇も立ち上がり踵を付け腕を真っ直ぐ下に揃えて姿勢をただす
騎士団長が周皇の肩に右手を置いた
「退団すれば末端とはいえバルティ家の三男として君の家名には勿論のことだが故郷にも恥ずかしく無い振る舞いを行わなくてはならない。肝に命じておくのだ。では君の門出に幸あらんことを!」
(ああ、この人から心地いい波動が出ている。良い人なんだな。信仰心も高いようだ)
「はい!短い間でしたが騎士団隊長殿、御指導ありがとうございました!」
周皇は腰を曲げ頭を下げて挨拶をした
騎士団長も満足そうだった
「では、団長殿、私はこれを見送りますのでここで失礼する」
「近衛隊長殿、わざわざのご足労痛み入る」
「ではまた騎士団長殿。オース行くぞ」
「はっ!近衛隊長殿!」
「オース、退団したのだ。もう叔父上でよい」
「はい…叔父上お手間をとらせました」
「よい。では行くぞ。失礼した」
「騎士団長殿、失礼致しました」
周皇は敬礼をし頭を下げ姿勢を正して廊下に出ると扉を静かに閉じた
「…惜しい人材を手放したのかも知れないな?私は」
騎士団長は一つのため息と独り言を洩らした
近衛隊長と周皇は第七魔道騎士団宿舎から出て行った
(゜ω゜)(゜ω゜)ニヤリ