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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Trust Or -prologue

作者: 高畑 まこと

本プロローグに血がぶしゃぁ!とかの表現はありません。

本編(ゲーム内)に基づき、R15指定を入れさせていただきます。


《20XX年7月20日午後2時34分 真夏高校 2-C教室前》

「かったりー……何だよ、この課題の数はよぉ……」

理不尽だ。理不尽すぎる。

明日から夏休みなのだから、午前が終業式なのはわかる。

だからってどうして、午後を丸々使って夏休みの課題配布になるんだよ!

「テスト期間終わったら配布するとは言ってたけどよぉ」

大げさにぼやいてると思うかもしれないが、本当に多い。

しかも、この課題の量は俺たちのクラスに限ったことではない。

二年のクラスしかない階を行き交う生徒のほとんどは、手に手に多くの課題を抱えている。

「確かに。一年の時より多い気がするな……例のイベントの為もあるんだろうが」

廊下で課題の入った紙袋を足元に置き、しゃがみ込む俺に冷静な声が降る。

見上げるとそこに居たのは、昨年同じクラスだった冬樹だ。彼も両手に課題のたっぷり入った紙袋をぶら下げている。

ついでに言うと、俺たちが持つ紙袋は学校からの支給だ。しっかり横に校名がプリントされている。うっかり電車等に置き忘れても、間違いなく学校に届けられるのであろう。

「そもそも、それが矛盾してね?

肝試しに参加させる為の課題とか、本当に意味不明なんだけど?」

「意味不明なら、やらなきゃいいじゃない」

「課題やらないと休み明けにこってり絞られるだけだしぃ?」

冬樹とは反対側から、二人の声。

振り向くまでもない。性格そのままの、はきはき話す少し高い声は美春。

しっとりと低く落ち着いた話し方は(しゅう)だ。

「絞られたくないからやるんだろーがっ!」

憮然と答え、こいつらはどうやって持って帰るんだ?と量の多さを考えて目を向けると、二人とも自分の鞄しか持っていなかった。

「……出るのか?」

冬樹の簡潔な問いに美春は答える。

「勿論!楽しそうだしね。てか、二人は参加しないの?」

彼女は鞄の外ポケットから、小さくたたまれたプリントを出して広げ、そのままずいっと俺の目の前に突き付けた。

見せられなくてもわかる。夏休み中に有志で開催される肝試しの参加用紙だ。

「何が楽しくて、夏休みの真っただ中に学校に出てこにゃならんのだ!」

参加者名の記入できる枠は5つ。既に2つの枠には美春と萩の名前が入っている。

「……登校日もあるし。課題(それ)、全部やるよりはまし」

俺の横にある紙袋を指さし、ぼそりと萩が言う。

いや、登校日は”登校”日だし。肝試しとは別の日だし。

読者に告ぐ。……決して、怖いから出たくない訳じゃないぞ!!

「興味はある。先輩から聞いた噂も気になるしな」

話が長くなると踏んだのか、紙袋を足元に置き壁にもたれて冬樹は美春に返す。

俺たちが続きを待っていると、冬樹は顎に手を当ててぽつぽつと話し始めた。

「まぁ、その先輩は参加しなかったから詳細はわからないらしいけど。

クラス関係ないチーム編成だから、仲の良いメンバーで参加するらしいんだが……。

肝試しが終わると数組、険悪な仲になるらしいんだ」

……重たい雰囲気を出して話すから何かと思えば。

「単純に喧嘩しただけじゃねーの?」

それ以外の理由があるのか?と言外に置く。

「まぁ、俺もそう思った。

だが……メンバー同士で連絡が取れなくなった、消えてしまった人もいるらしいと聞くと、な」

「消えたって……んな事件あったら、もっと騒ぎになるだろうが」

入学してから一年数か月、そんな話は一回も聞いたことないぞ。

それに、理由がそれだけならわざわざ参加してみなくても……冬樹ならどうとでも調べられそうなもんだが……。

「多夏、お前が参加するなら俺も出られるな」

「はい?」

良いことを思いついたとばかりににっこりとのたまう冬樹に、素っ頓狂な声が出てしまう。

「最低でも2人一組、多くても5人一組が参加条件だろ。こっちのクラスの参加するやつは既に申請済とかだったからな」

「……つまり?」

「俺は参加したいのに、相手がいない」

「じゃー……ふーくん、一緒するー?」

にこにこと笑みを崩さない冬樹に、萩が訊く。

「あっという間に決まったな」

俺は安堵を顔に出さないように平静さを装って言った。

「ばらんす悪いから、タカくんも一緒にねー」

おい、待てこら。

「こわいかおー」

思わず顔に出ていたか。萩は抑揚なくそう言うと美春の後ろへと引っ込んだ。

盾にされた美春はというと、考え込んでいる様子で萩の行動に気づいていない。

「何だ?参加するの怖くなったのか?」

茶化して問うと冷ややかな視線が返された。

「肝試しが怖いのはナツでしょ」

「へー。怖がりなんだー」

意外さを装っているのだろうが、萩の抑揚がない口調はまるで台本を読んでいるかの様な違和感がある。

「なっ。怖くねーって!本当にいるかどうかもわかんねぇもん、誰が怖がるかよ!俺はめんd」

「はいはい。『面倒なだけだ』でしょ?本当は怖いのに、そう言って誤魔化してるだけじゃない」

俺が言い終わらないうちに、美春が投げやりな言い方で反論して寄越す。

「んだとっ」

「怖くないなら参加すればー?肝試し。怖がりじゃないって証明できるよー?」

萩は子供でもあやす様に言うが、参加したくない俺は勢いに乗って答えるわけにはいかない。

「うっ……」

確かに、その提案に乗れば怖がりじゃないと納得してくれるだろう。実際に俺は怖がりじゃないしな!

だが、俺にも譲れないものがあるのだ。

美春のこんなあからさまな売り言葉を買うわけにも行かない!!

「シュウ、その辺にしてあげよ?怖がりのナツには、夏休み中に学校に来ることすら恐怖なんだよ」

伏し目がちに萩を説く美春。だが、その口許は笑いの形に歪んでいる。

「み!は!る!?何を突拍子もないことを言うのかな!?」

やばい、ここでは切れないぞ。

「だって、怖いんでしょー?怖くないなら、ここまで言われて参加しない筈ないもんねぇ?」

無理矢理に口を笑みの形にして低めの声で凄んでみたが、こいつには全く効果がなかった。

まるで「大丈夫、わかってるから」と言うように、美春は俺の肩をぽんぽんと叩く。

俺を乗せようとしてるだけだとわかっている。わかってはいるが……。

「ふむ。怖いからと出たがらない多夏に参加を強要するのは忍びないな」

冬樹のその言葉に頭の中の何かが飛んだ。

「美春。その応募用紙(プリント)寄越せ」

我が意を得たりとばかりにプリントを差し出す美春。それを奪うくらいの勢いで受け取る。

「ぺんー」

いつの間に出したのか、萩が俺にペンを向ける。持ち手を向けて。

冬樹は紙袋の中からバインダーを出して寄越した。

……お前ら、みんなグルかよ!

が、嵌められたにしても、ここまで来て止めるのも格好悪い。

ざかざかと、空いている枠に冬樹と自分の名を書く。

「これで満足か!?」

書いた面を美春に突き付ける。だが、俺の剣幕などこの3人には何処吹く風だ。

「やだなー。『満足か?』なんて、まるで無理に参加させるみたいじゃない」

きょとんとした顔でのたまう美春。ほぼ無理矢理じゃねーか。

彼女は至極満足といったような表情で俺の手から用紙を抜き取る。納得がいかない。

「当日、ちゃんと来てこその参加だからねー。あ、これは私たちで出しておくから♪」

そう言いながら、ひらひらと用紙を振りつつ去っていく美春と萩。止めるなら今しかない。

「さて。多夏は課題を持って帰るのか?」

俺が口を開く間もなく、冬樹に機先を制された。冬樹を見、美春たちの向かった方角を見る。

既に二人は廊下の角を曲がるところだった。

自分から書いたのだし、と納得はいかないが諦めざるを得まい。

「……てかお前、いつからあいつらの味方だよ?」

そんな恨みのこもった質問は笑顔で躱された。

「誰の味方のつもりはないよ?俺は肝試しに参加したかっただけだから」

……つまりは利害関係の一致だと。俺は売り物だったと。

「で?俺は課題を持って帰るけど……多夏は置いていくのか?」

「……これの免除はクリア報酬だっけか」

深い深いため息をつき、紙袋を両手にして立ち上がる。

「鞄はこん中だしな。自習にもなるから持っては帰るさ……あいつら、置いてったってことはクリアできなかったらどうする気だろうな?」

ふと思いついたままに口にする。

「渡貫さんは……クリアできなくても、すぐに終わるんじゃないかな」

そうだ、萩はあれで常に学年上位にいるんだ。

いつもぼーっとしていて、積極性は微塵も感じられないのに。

「……美春は……クリアすることしか考えてないか」

「そんな感じだね」

俺の言葉に、冬樹は苦笑しながらも同意した。

当日のことを考えると、余計に二つの紙袋が重く感じられた。

「あー……さぼりてぇ……」

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