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第九話


「あー、それは……詳細は言えませんが、旅の途中でたまたま立ち寄った程度です。色々と訳ありなもので、本当だったらこうやって一緒にいたら皆さんに迷惑をかけるかもしれないので、そろそろ……」

「ダメです!」

 腰をあげようとしたユーマの腕をギュッと握ってマリーが止めた。


「マリー……はあ、仕方ない。もう少しいようか」

 ユーマはその反応に困ったなという表情になるが、彼女の気持ちを無下にするわけにもいかず再び腰を下ろした。


「出会ってからここまで、君は自分のことをなるべく話さないようにしている。何か後ろ暗いことでもあるのかとも思ったが、君の様子を見ていると何かに巻き込まれているように見える。どうだね?」

 マークスはここまで話した短い会話の中で予想した内容を口にする。


「……まあ、そんな感じですね」

 正解か不正解か明言せずに、含みを持たせたような返事をユーマがする。


「うむ、深くは聞かないことにしよう。もし、話してもいいと思ったら言ってくれればいい。おっと、飲み物が空になったようだ、もらってこよう」

 そう言うとマークスは一度ニコリと笑ってから、騎士二人のもとへと飲み物をとりにいく。


「もっと突っ込んで聞かれると思った……」

 領主という立場ある人間であるなら、素性の知れないユーマの秘密を問いただすと思っていた。


「ユーマ様、お父様はそんなことをしません。もしユーマ様が大悪党だとしても、我々の命を救って下さったことにかわりはありませんから。恩人に失礼なことはできません」

 年下の少女のセリフとは思えないような言葉が出てきたため、ユーマは目をパチパチして驚いている。


「な、なにかおかしかったでしょうか?」

「いや、マリーは俺なんかよりすごく大人だなと思っただけだよ。今は話すことはできないけど、いつか俺のことを話せるようになるといいなって思ってるよ」

 それは互いに信頼しあうことができ、秘密を話しても大丈夫な相手だと判断した時になる。それがいつになるのかはわからないが、ユーマもマリーたちになら話す日が来るかもしれないと思っていた。


「お嬢様、ユーマ殿、食事の準備ができたので食べましょう!」

 デミトリが料理をもって二人のもとへとやってくる。アンディも残りの料理を、マークスは飲み物をもって戻ってきた。


「ユーマ殿は酒は飲めるかね?」

 いっぱいどうだ? とマークスが勧めてくるがユーマは首を横に振る。


「俺の国だと酒を飲んでいいのはニ十歳からなので、遠慮しておきます」

「ほほう、ちなみにユーマ殿はいくつなのかね?」

 話の流れでマークスが質問したが、その質問に密かに強い食いつきを見せているのは無言で聞いているマリーだった。


「えっと、俺は十六歳です。もう少ししたら十七歳だと思いますが……」

 それを聞いてマリーの表情がぱあっと明るくなる。


「私は十三歳です! ユーマ様は落ち着いているのでもっと年上だと思っていました! よかった、そんなに離れていない……」

 マリーはユーマは二十代半ばくらいだと思っていた。


 対してユーマは小柄なマリーのことを十歳くらいだろうと思っていたが、三歳差と考えると確かに年齢差はほとんどなかった。


「ふむ、まあここは別の国だから、と言うこともできるがそれは申し訳ないな。アンディ、彼とマリーには果実水を用意してくれ」

「承知しました!」

 アンディは料理を置くと、急いで飲み物の準備をする。


「ただただ料理を用意してもらうのは申し訳ないので、俺はこれを。展開、”パン”」

 大きめのバスケットいっぱいに入ったパンが簡易テーブルの上に置かれる。


「うわあ! ユーマ様、すごいです!」

「これは……すごい、温かいままだ!」

 マリーはパンが突如現れたことに驚き、マークスは手にとったパンが焼きたてであることに驚いていた。


「えっ? 温かいパン? ほ、本当だ!」

「お、おいおい、それはすごいぞ!」

 ラルフとアンディもそれぞれがパンを手に取って驚いていた。


「えっと……?」

 パンが出てきたことを驚くのは理解できる。しかし、温かいパンになぜそこまで驚いているのかユーマには理解できなかった。


「もしかして、あの戦いの時の槍も!?」

「なるほど、確かに先に準備しておいて取り出せばあれだけの威力に……」

 レッドベアを倒した時の槍の威力の理由についてデミトリが先に気づき、アンディも納得していた。


「えっと、まあここまで見てきてわかると思いますが俺の能力は物をしまうことができるだけの能力なんです。それを知った人たちにはマジックバッグと同じ能力を持っていても使えないと言われたんですが……」

 ユーマは城での王たちからされた仕打ちを思い出しながら、なるべくマイルドな言葉を選んで説明していく。


「いやいや、これはマジックバッグなどと比べられるものではないぞ! ユーマ殿、君の収納する力はしまった物の時間を止めている。マジックバッグは収納こそできるが、中身に入っているものはバッグの外と同じだけ時間が流れているんだ」

 それを聞いたユーマは動揺、するがそれを顔には出さないようにする。


(えええええっ!? マジックなバッグなんだろ? つまり、魔法のカバンってことだ。魔法なんだから、時間停止機能くらいあるんじゃないのか? ただたくさん入るって、空間魔法か何かで拡張されてるだけってことなのか? そりゃ大きめのカバンを持つよりも小さいカバンでたくさん入ったら便利だけどさ。あー、重さっていう観点もあるか。軽いほうがいいに決まっているし……待て待て、マジックバッグの容量ってどれくらいなんだ? 俺の魔法は今の感じだと上限はなさそうだし、サイズも関係なく収納できるぞ。デカイ魔物だって、壁だって、扉だって、武器だって収納……普通に武器を収納してもマジックバッグは破れたりはしないのか?)

 こんなことを一瞬のうちに頭の中で考える。


「あぁ、そうなんですか。つまり……便利ってことですね!」

 そんなことを考えながらもなんとか、強引に笑顔で乗り切ろうとする。


「う、うむ……」

「え、えぇ……」

「いや、まあ、そうなんだが……」

 ユーマの端的な表現に男性陣三人は、そういうことなんだけどそうじゃない! と言いたい気持ちでいっぱいになっている。


「ユーマ様すごいです!」

 ただマリーのみがユーマのことを称賛していた。





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