第七話
「ううーん!」
翌朝目覚めて木の中から出ると、ユーマは大きく伸びをする。
木の中で寝る時には城で拝借していた、枕と毛布を使っていたためゆっくりと休むことができていた。
「にしても、昨日はあいつらが思ったように動いてくれたよかった」
剣が効かず、魔法も効かないとなれば同時に使うくらいのことを尊ならば思いつくだろうと予想していたが、そのとおりの行動をしてくれたため、あの結果を出すことができていた。
更には多くの魔法を収納することができたこともユーマにとって大きい。最初に使った時は様子見で、二回目以降は確実にユーマを殺しにかかった強力なもの。
これらの魔法はユーマが今後戦いを行う上で、戦術を広くしてくれるものである。
「ここからどうしていこうかな……」
ユーマは死んだことで城から完全に開放された。だから、ここからは自由に動けることになった。
元の世界に戻る方法は思いつかない。魔王を倒せば戻れると言っていた王の言葉も今となっては怪しいものである。
絶望的な状況であるが、ユーマの口元には笑みが浮かんでいる。
「まあ、帰れないなら色々やってみるか!」
ユーマは自分の力を弱いものと思っていない。直接的な戦う力は持っていないが、使い勝手が良く、色々なものをしまえるという便利な能力である。
それを活用して、この森を、この国を、この世界を楽しもうと考えていた。
なんのしがらみもない、なんの制約もない、行動を縛るものも人もいない。勇者としての使命に縛られることもない。ここからユーマの自由な旅が始まる。
「おっと、その前に少し偽装をするか。収納、”髪の色を少し”」
自分の髪の色を抜いて、茶色がかった色に変えている。こちらの世界に来てから、王に王女に兵士やメイドなど、一人として黒い髪の者はいなかった。
黒髪のまま行動しては、それだけ目立ってしまうための対応である。
目の色も変えたい気持ちはあったが、そちらは視力などに影響があることを考えて対応は見送ることにした。
「さて、色々見て回るにしても何か目標は持っておきたいな……」
森の中を歩きながら、これから自分が向かう道を思案していく。なんの目標も、目的もなくふらふらと適当に生きていけるほど甘い場所ではないことをユーマはこれまでで体感していた。
ブツブツと考えながら歩いていると、遠くから声が聞こえてくる。
「誰だ……? 複数みたいだな……行ってみるか」
声の主は一人ではなく何人かの声が混ざっている。
近づいてみると必死な様子が伝わるやりとりが聞こえてきた。どうやら、魔物に襲われているようである。
「お嬢様と旦那様はお下がり下さい!」
剣を構えた男性が、身なりのいい少女と男性を守りながら魔物と戦っていた。
「ぐっ、お、俺が怪我さえしなければ……」
槍を持った男性は膝をついて、右腕をおさえている。腕からは出血しているようで、ポタポタと血が流れていた。
そんな彼らが対峙しているのは、ユーマも戦ったことのあるグレイベア。それが三体。それに加えてひと回り大きく、赤い体毛の熊が涎を垂らして牙をむき出しにして彼らを見ている。
守られている二人は戦う力がないのか弱いのか、悲壮な顔で徐々に後ろに下がっている。
(これはまずい状況だな。あんまりうかつに動くのも良くないんだけど……)
そんなことを考えながらも、ユーマは彼らの前に姿を現す。
「何者だ!?」
剣士が質問をする。他の面々も急に現れたユーマを警戒していた。
「通りすがりの魔法使いってことで、どうやらピンチのようなので手を貸しに。展開、”回復魔法”」
視線は向けないが、怪我をしている槍の男性に向けてユーマは回復魔法を取り出す。演技の時に秋穂のヒーリングを密かに収納してあった。
「うお! な、治った……」
「おぉ、アンディ! これで戦えるな!」
槍の男性が復帰することで、これなら勝ちの目が出てきたと剣の男性が喜んでいる。
「四人は下がっていてくれ。こいつらは俺が倒す!」
しかし、彼らの考えに反してユーマが一人で倒すと宣言した。
そんなユーマに対して、四人は不安を抱く。先ほどの回復魔法は一瞬で怪我を回復させたため確かに見事なものだった。
しかし、細腕で覇気を感じられるわけでもなく、歳も若い彼が危険な熊の魔物たちを倒せるとは到底思えなかった。
「お、おい!」
剣の男性が声をかけようとしたが、ユーマは右手を前に出して戦闘準備に入っている。
「展開、”剣剣剣”」
ユーマの後方、頭の上あたりに三本の剣の先端が現れた。以前グレイベアを倒した時と同じブロードソード。兵士に支給される一般的な剣であり、特別強力ではない。
「け、剣が出ました!」
少女が驚きの声をあげる。空中に突如剣が現れるような現象、ここにいる誰もが見たことがない。
次の瞬間、ただの剣は勢いよくグレイベアへと向かっていき核を貫いていた。
前回の戦いでグレイベアの弱点となる場所をユーマは把握しており、そこを見事に撃ち抜いた。
「「はっ?」」
これは戦闘職である剣の男性と、槍の男性ことデミトリの発した言葉である。
「す、すごいな」
「すごいです!」
身なりのいい男性は動揺しながらもユーマの戦いに感嘆し、少女は素直に感動していた。
「ガ、ガア!?」
グレイベアを率いていたレッドベアも、あっという間に三体がやられたことに驚いている。
「まだだ、展開”槍”」
全員が驚いている間に、ユーマは次の攻撃に移っている。
展開した槍は、ミスリル製の槍で魔力を込めることでその威力をあげることができる。ユーマはそれを手に入れてから、時間を見ては魔力を込めていた。
さらに、ブロードソードと同じように加速させていることで威力も上がっている。
「ウガ! ガ、ガガ……」
レッドベアは槍に貫かれ、うめき声をあげるとドサリと倒れ絶命した。
貫いた槍はというと、レッドベアの後ろにあった木をも貫き、その後ろの木に突き刺さっていた。
「ふう、こんなものかな。とりあえず……収納、”魔物”」
ユーマは全ての魔物を収納してから、四人へと振り返る。
四人は口を開けて、驚き固まっていた。
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