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第六話


 魔法は全て収納されたが、剣だけは収納されずユーマの身体を見事に貫く。


「ぐ、がはっ……」

 数歩ヨロヨロと動いた後、ユーマは口から血を吐いてそのままバタリと倒れる。その瞬間、何かを呟いたが誰の耳にも届いていない。


「お、おぉ、見事だ! シノノメ殿見事だ!」

 王は立ち上がって手放しに喜んでいる。鬱陶しいユーマが、勇者たちの中心である尊によって倒されたことは王にとって何より喜ばしいことだった。


 他のクラスメイトも尊の作戦を称賛し、褒めたたえている。


「進藤君!」

 その中にあって、女子クラス委員の秋穂だけが、倒れているユーマの元へと駆け寄った。


「ヒーリング!」

 彼女の称号は聖女。回復魔法に特化しているため、ユーマの回復を急ぐ。


「げふっ」

 しかし、口から血を吐いただけで回復の効果はなく、死に向かっている。


「そんな……もう、ダメ。回復できない!」

 死の間際の人間には回復魔法は効かない。それは魔法を知っている者であれば常識となっており、つまりほとんど死んでいる状態だということを現していた。


「ふむ、可哀想だが死んだのであれば仕方ない。おい、誰か捨ててこい!」

「そんな!」

 王の言葉に秋穂が声をあげるが、彼女の肩に尊が手を置いた。


「これ以上彼に何かをしてあげられることはない。仕方ない、力がない時点でこうなる運命だったんだよ。行こう」

 尊はユーマの身体から剣を引き抜くと、後ろ髪ひかれている秋穂を連れてクラスメイトのもとへともどり、彼らはそのまま各自の部屋へと戻っていった。


 その間に、命令された兵士たちはユーマの死体を運んでいく。

 さすがに勇者の一人が死んだとあって、彼らは無言でユーマを運んでいく。


 連れて行った先は、城に捕らえた囚人などが死んだ場合に連れて行く死体置き場である。そこは訓練所からは離れた場所で、地下二階にある。


「うっぷ、何度来てもここはなれないな」

「さっさと捨てて行こうぜ! せーの!」

 ソーマの死体は、死体置き場に放り投げられドサリと音をたてる。


 兵士二人はさっさとこの場からいなくなりたいと、慌てて離れて行った。


 それから数分後。


「……もういいか。って、さすがにここは臭すぎる! 収納、”臭い”」

 ユーマはこの場にあった全ての臭いを、自分の身体に染みついたものも含めて収納していく。


 実際には死体が残っているため臭いはすぐに生まれるが、それでも最初よりはだいぶマシになっている。


「さて、そろそろ行くか……」

 ユーマは数々の遺体に一度手を合わせて礼をすると、静かに階段をのぼっていく。

 夜中の城内徘徊が功を奏して、この死体置き場も含めて城内の見取りは全て頭に入っている。


 その知識を駆使して、ユーマは誰にも見つからずに自分の部屋へと戻ることに成功する。


「お、これは……神山さんか」

 すると、足元に秋穂から手紙が置かれていることに気づく。

 そこには彼女の想いや情報が書かれていた。


 まず最初に記憶が収納されていたことに対する憤り、次に記憶が戻ったことへの驚き、クラスメイトのその後の反応、作戦がうまくいってよかったこと、今日の夜は食事以外は自室待機になったことなどが記されていた。


 そして、最後に離れていても無事を祈っているとも。


「はあ、神山さんいい人だったなあ……もっと色々話せてればよかったな」

 クラスの中でも浮いていたユーマはあまりクラスメイトと話す機会がなかったため、ふとそんなことを思う。


 しかし、彼女のおかげで無事に『死んだこと』にできた。

 あとは、ばれないように城から抜け出すだけだった。


 夜間の部屋からの抜け出しはこれまでに何度も行っているため、無事に見つからず森までやってくることができた。

 城の屋上から彼のことを見おくる秋穂の姿があったが、ユーマは気づくことがなかった。


「はあ、ちょっと、頑張りすぎたかな……」

 ユーマは今日あったことを思い出しながら、森の中を歩いている。


「このまま寝たら、ちょっとまずいか。あそこに行こう」

 森には魔物が生息しているため、何度か訪れた時に木の根元に回避場所を作っていた。中に入ると、入り口に岩を置いて封鎖して安全を確保する。


「とりあえず……寝た……い」

 安心と共にユーマは眠りについた。




◇◆◇


 秋穂がユーマの部屋を訪れたあの時、二人は訓練所でユーマが死んだように見せる方法について話し合っていた。


『まず、俺が登場して役立たずな俺は城を出ると話す。力がないから庇護下に置きたいとかなんとか言うだろう。そしたら、力を示す流れにする。きっと俺が東雲か誰かと戦うことになる。そこで、俺はみんなと戦う方向にもっていく』

『そんな、危険です! やめましょう!』

 ユーマの説明を聞いていた秋穂は無謀ともいえる作戦を聞いて、必死の表情で止める。


『大丈夫、うまくやってのけるよ。こう見えて戦闘経験は豊富だからな。うまく死んだように見せかけるから、神山さんはすぐに俺のとこに来て回復魔法をかけてくれ』

『……それで、私は回復魔法が効かないと言えばいいんですね?』

 ユーマの話から自分の役割を理解して返事をする。


『そういうこと! ……ところで、神山さんは演技は得意か?』

『うーん、あんまり得意じゃないかもしれません。嘘とかも苦手なので……』

『なるほどね、了解了解』

 秋穂の返事を聞いて、ユーマはどう動いていくか一人で納得していた。


『まあ、そんなところで明日は流れに任せたり俺の動き次第なとこが大きいけど、できなかったらそこまでの人間だと思ってくれ』

『うぅ、できれば死なないで下さいね』

 気楽な様子で言うユーマの言葉に、秋穂は心配そうな表情になっていた。


『とにかく明日は俺だけじゃなく、神山さんにもかかっているからよろしくな』


 このあと、ユーマは秋穂の記憶を収納する。


 記憶を戻したのは、尊の剣がユーマを貫いた時だった。

 あたかも刺さったかのように見えたため、記憶が戻った秋穂も必死の様子で回復魔法をかけることができていた。


 あの時の口と胸の血は、以前戦ったグレイベアの血を使用している。

 貫かれたように見えたのは、前方から収納して後方から展開するという離れ業を使ったためだった。剣が肉を突き刺した感触を再現するために尊の剣をグレイベアの肉に突き刺すのも忘れない。


 今回の戦いで手のひらから収納して、手のひらから取り出すように見せていたが、それもブラフである。

 十メートル程度の距離であれば遠距離展開が可能であり、身体の近くであれば手でなくても収納は可能だった。


 今回の流れはユーマが想定していたものとほぼ同じもので、完全に彼の作戦勝ちといえた。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 森を抜けてからの今後に期待します [一言] 神山さんが聖女枠に収まりそうですね
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