第四話
勇者たちが訓練を行っている中庭の訓練所。
そこには勇者である学生たち、訓練をつける騎士たち、そして様子を見に来ていた王や重鎮の姿があった。
しかし、今は訓練の手は止まっており、ざわざわと喧騒が支配している。
「き、貴様は……」
思わずそんな言葉を漏らしたのは王だった。
部屋に閉じ込めており、外に出ることのできないはずの落ちこぼれ勇者であるユーマ。
そんな彼が、ニコニコと笑顔で訓練所に姿を現していた。
「やあやあみなさん、お元気そうですね。訓練は順調ですか? いや、参加していない俺なんかに聞かれるのはいい気分ではないのかな? 王様も大臣さんも良い顔色で、安心しました」
ユーマは当たり障りのないことを、含みのある様子で、しかも笑顔で口にしていく。
「今頃なにをのこのことやってきやがった!」
「お前がゴロゴロしている間に、俺たちは必死で訓練をやってきたんだぞ!」
「能無しが顔を見せるな」
「ぷぷっ、才能が何もないっていうのはかわいそうだねえ」
「まあ、同情の余地もないな。力がなくてもなにくそと訓練することくらいできただろうに」
生徒たちは、なぜユーマがこれまで姿を見せなかったのか本当の理由を知らず、騎士に質問してもゆっくりと休んでいるという返事しかなかった。
ただでさえ、戦う力のないユーマのことをよく思っていなかった面々は、そのうえただ遊んでいただけ(と思われている)ユーマに悪印象を持っていた。
「ははっ、まあそういう反応にもなりますよね。ね、王様?」
ユーマはクラスメイトの反応を受けて、あえて王に話を振る。
「う、うむ、いや……」
煮え切らない様子で、返事に詰まってしまう。
「き、貴様、勇者くずれの分際で王に対して不遜だぞ!」
怒りの声をあげたのは、王と同様に全ての状況を知っている大臣だった。
「あぁ、大臣さん。これは申し訳ありません。なにせ、こんな風にみんなの前で話すのはすごく久しぶりなもので、どうにも言葉選びが下手になっているようなんですよ。ねえ、大臣さん?」
わかりますよね? とここでも笑顔でユーマが言う。
「さて、みなさんと雑談をしていたいのもやまやまなのですが、今日は報告があってまいりました」
クラスメイトのほとんどは、今更出てきて何を言うのかと呆れた様子で見ている。
王をはじめとする国の重鎮たちは、余計なことを言い出すのではないかと不安にかられている。
「今日で城を出たいと思います」
まずは結論を口にする。
「はあ?」
これは王が漏らした反応だが、ここにいるほとんどが同じ心境である。
「いや、なんの役にもたっていない俺が城にいても食費やらなんやらがかかるだけですからね。能無しで役立たずの俺なんかいないほうが、みなさんも気分がいいでしょ。というわけで、さようなら」
それだけ言って、ユーマは背を向けて城門がある方向へと歩き始める。
「ま、待て!」
呼び止めたのはこれまた王である。
「はい?」
ユーマの内心では面倒くさいという思いが渦巻いていたが、あえて笑顔で振り返った。
「そ、そのあれだ。我が国で召喚した勇者であるお主を、ただ外に放り出すような形はこちらとしてもしたくはない。外には魔物がいて危険だからな。特に戦う力のないお主では、瞬く間に死んでしまう可能性がある。それは私としても見たくない結果なのだ。だから、城にいるのいるのが安全なのだ!」
王は徐々にヒートアップして、強い口調になっていく。
クラスメイトや騎士たちは、力のないユーマにまで慈悲の心を持つ王に心動かされている。
「あー、ありがとうございます」
「では!」
頬を掻きながら礼を言うユーマを見て、思いとどまってくれたかと王は思わず立ち上がる。
「はい、旅立ちます。王様のお心遣いはとても嬉しく思います。ですが、これ以上ご迷惑はかけられません。ありがとうございました」
ユーマは深々と頭を下げると、再び背を向ける。
「ぐっ!」
状況的にこれ以上王が何かを言っては、必死に止める理由があるように見えてしまうため言葉が出ない。
「待て! おい、進藤。王様がああ言ってくれているのに失礼じゃないか。戦う力がないのだから、素直に言うことを聞いておけ!」
そう言い放ったのは、クラス委員であり西条高校二年B組の中心人物、東雲尊だった。
背を向けたまま足を止めるユーマ。思った通りの展開になったため、ユーマはニヤリと笑う。
振り返った時にはその笑いは消えて、申し訳なさそうな表情になっていた。
「あぁ、東雲君か。たしかに失礼だったね。王様すみませんでした。でも、俺が何もできないもどかしさの中にいることもわかってほしいんだ」
「うるさい! お前のようなやつは、ただ従っていればいいんだ!」
どうやら尊は盲目的に王側の立場であるらしく、ユーマの意見を聞くつもりはないようだった。
「うーん、困ったなあ……(困っていない)」
ユーマはあえて表情を崩して、言葉通りの表情を見せる。
「そうだ! 東雲君、だったら俺が少しは戦えるっていうところを見せられたらどうだろう? そうしたら王様も安心して俺を送り出せるんじゃないだろうか。いかがでしょうか?」
さも今思いついたかのようにユーマは王へと質問を投げかける。
「う、うむ、それならいいだろう。しかし、どうやって証明するつもりだ?」
「それは、同じ勇者に相手をしてもらうのがいいかと思います」
王の質問に答えたのは大臣である。
「おぉ、それがいい! であるならば、やはり戦うのはシノノメ殿かのう……」
「全員で」
王の言葉にかぶせるように言ったのは、当のユーマ本人だった。
「いや、だって、東雲君とやって力を見せても、次は俺が! 次は私が! なんて言われたら面倒でしょ? だったら、一斉にかかってくるのがいいんじゃないかな? うまくいけば俺は力を証明できる。みんなが勝てば、生意気な口をきく俺をやり込められる。王様たちも、邪魔な俺をなんとかできるかもしれない。いやあ、みんないいことだらけじゃないかな!」
ここまでくると、ユーマは素の自分を隠さずに、更にみんなを煽るだけ煽っていく。
「あぁ、でも烏合の衆だから、連携とかは無理かな? 互いに邪魔をしあっちゃうのかなあ? みんな自分が自分がって前に出てきそうだからなあ。いくら東雲君だってみんなを制御するのは無理でしょ? だって、たかだかクラス委員程度だもんね」
尊は召喚される前に生徒会長選挙で落ちていた。そこをユーマはつっついていた。
この物言いが普段のユーマのものなのか、演技なのか、親しい生徒はいないためだれにも判別できずにいる……。
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