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第十八話


「さて、なんの依頼を受けようか……」

 簡単に説明を受けたユーマは、慣れるために何か依頼を受けようと掲示板を見ていた。


 ユーマのランクは一番下のFであるため、受領可能なのは一つ上のEランクまでとなる。


「……とりあえずこれと、これを受けるかな」

 しばらく掲示板を眺めて二つに絞ったユーマは、依頼の用紙を剥がして受付へと持っていく。担当してくれたのは試験の時にも世話になったキャティだった。


「すみません、依頼を受けたいのですが……」

「あっ、ユーマさん。早速の依頼受領ありがとうございます。内容は……薬草採集、ゴブリン討伐……ですか?」

 ユーマの実力を知っているキャティにとって、初歩的な依頼を選んだことに首を傾げてしまう。


「えぇ、なにせFランクですから。基本的な依頼を受けて、コツコツ実績を積もうと思います」

 初心者冒険者の心構えとしてはお手本のような考えである。この会話が聞こえて来た冒険者の中にはそのとおりだ、と頷いている者もいるくらいである。


「えっと、もっと強い魔物と戦うとかはどうですか?」

「いえいえ、Fランクですから。ね?」

 ユーマにそう言われて、実力を隠そうとしていることを思い出したキャティは笑顔になる。その笑顔の裏ではダラダラと汗が滝のように流れている。


「そ、そうでしたね。登録されたばかりの方にちょっと無茶を言っちゃいました。それでは手続きをしますので、冒険者ギルドカードの提示をお願いします」

「はい、お願いします」

 ここまでユーマはずっと笑顔で話をしている。彼自身はにこやかに対応したほうがいいだろうと思っているだけだった。


 しかし、強い魔物と戦うことを薦めてしまったキャティは失敗したと内心で冷や冷やしており、ユーマが笑顔の裏で何か考えているのではないかと勘繰っていた。


「これで手続き完了です。薬草は十枚でひと束、最低三束からです。ゴブリンは、右耳にゴブリングを身に着けているのでそれを持ってくるのが討伐の証拠になります。最低討伐数は五体になっています。どちらも西の森へ行くのがいいと思います」

「わかりました、色々ありがとうございます」

 ユーマはカードを受け取ると彼女に背を向けてギルドを後にした。


 穏やかな物腰のユーマを見ていた他の受付嬢たちは、有望な新人が現れたとはやし立てていた。

 その様子を見ていた冒険者の何人かは、苛立ちを覚えていた。


 新人でFランクということは、実力試験で結果を残せなかったということ。そんなFランクのユーマが受付嬢にちやほやされているのはいい気分のしないことである。


「よし」

「おう」

「いくぞ」

 男たちはユーマが建物から完全に出たのを確認すると、そのあとを追いかけるように立ち上がった。


 男たちが建物から出る。

 しかし、その時にはユーマの姿はどこにもなかった。


「あれ?」

「ど、どこいった?」

「いない……」

 キョロキョロとあたりを見回すが、どこにもユーマの姿を確認することはできず男たちは再びギルドの中へと戻っていった。


「……行ったか。それじゃ行くか」

 ユーマは建物から出ると同時に、布をかぶって小さくなることで隠れていた。ただの布だったが、それは冒険者ギルドの壁に近い色であったためうまく隠れることができた。


 何事もなかったかのようにユーマはスタスタと街中を進んでいき、街の西門から出ていく。


「さてと、少し走ってみるか」

 召喚された際に身体機能が底上げされており、それに加えて魔物を倒したことでも成長していると思われる肉体。


 そんな自分の身体の状態を把握するためにも、実際に身体を動かしてみるのが一番だった。


 ユーマが思っていた以上に、身体は強化されており森までの数キロを走っても多少疲れた程度で、大きく呼吸が乱れるようなことはなかった。

 徒歩で進んでいれば数時間はかかりそうなところを数十分で到着することとなった。


「さて、ゴブリンを確認しつつ薬草の採集だな」

 森には魔物もいるため、薬草だけに集中していては背後から攻撃される可能性もあるため油断はできなかった。


「薬草、薬草……」

 城で読んだ図鑑に薬草は乗っていたたため、薬草の形は覚えていた。あとは、それを摘んでいくだけである。


 しばらく森を歩いて回ると、水の音が聞こえてくる。


「川かな? ……確か、水が綺麗な場所にとかあったような気がする」

 ユーマは本に書いてあった特徴を思い出しながら、水が流れる音がする方へと進んでいく。


 そこには小川があり、近くには目当ての薬草が群生していた。


「これを一枚詰んで……収納、”薬草”」

 魔法で収納したあと、一覧で中身を確認するとそこには正しく薬草と記載されている。


「よし、これでいけるな。もう一度、収納、”薬草”」

 一枚確認できたあとは、魔法でまとめて収納することで、一気に採集することができる。

 もちろん、今後のことも考えて全部ではなくある程度の量をを残してあった。


「これで一つ目は完了、二つ目は……」

 ゴブリンの討伐であり、ここまで魔物と遭遇することがなかったため、今度は戦うために森を散策していく。


 川に沿って北に向かっていくと、魔物の姿が遠くに見えたためユーマはすぐに川から離れ、茂みに隠れて様子をうかがう。


(あれは、ゴブリン……あとはゴブリン系なんだろうけど見たことがないな)

 城の近くの森でもゴブリンと戦ったことはあったが、視線の先にはローブを纏っていたり、ひと回りふた回りサイズの大きいものなど、複数種のゴブリンがいた。


(ゴブリン種ならなんでもいいのかな? 一応全員耳にリングはつけてるみたいだけど……まあ、やってみようか)


 ユーマはそう決めると、無防備にも姿を隠すことなく、スタスタとゴブリンたちへと近づいていく。

 当然ながら足音を危機、気配を察知し、魔力を感じ取ったゴブリンたちはユーマへと視線を向けて戦闘準備に入っていた。




 


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