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第十七話


「もう一度確認しますけど、本気でいいですか? 殺してしまっても問題はないんですよね?」

 ユーマが笑顔で先ほどと同じ質問をする。


「なっ、い、いや」

 デレクは何が起こったのかわからずにいる。ナイフが頬を切り裂いたことはわかっていたが、なぜそんなことが起きたのかまでは理解できなかった。


「くそっ、こんな小僧に主導権を握られてたまるか! あぁ、本気でかかってこい!」

 戸惑いは確かに強かった。強かったが、戸惑いよりも先に怒りがきていた。


 デレクよりもはるかに歳の若いユーマ。まだ冒険者登録すらしていない。そんな新人を怖いと逃げ出すわけにも、負けを認めるわけにもいかない。

 そんなプライドが彼を突き動かしている。


「だったら、こうしますか。展開、”剣”」

 剣がデレクの足元に突き刺さる。


「うおっと!」

 デレクが一歩後ろに下がる。


「”展開、槍”」

 下がった少し後方に槍が突き刺さる。


「う、うわっ!」

 デレクは槍に背中をぶつけてバランスを崩した。


「”展開、ナイフ、フォーク”」

 ナイフが反対の頬を切り裂き、フォークが大剣に命中して更に姿勢を崩す。


「”展開、片手剣”」

 そして、ユーマは剣を手にして間合いを詰めて剣先をデレクの首元にあてた。


「まだ、やりますか? 傷、増えますよ?」

「う、うぐっ」

 ユーマの質問にデレクは言葉に詰まってしまう。


「や、やめえ! ユーマさんの勝利です!」

「はい、了解です。それじゃ、”収納、武器”」

 ユーマは今回使った剣などを全てしまっていく。


「えっと、ありがとうございました。これでBランク冒険者になるんですか?」

 あまりにも簡単に勝ってしまったため、ユーマはこれだけで一番下のFから一気にランクアップするのかと首を傾げている。


「えっと、その、本来ならそれでいいんですが……約束したことですし」

 そう言うとキャティはチラリとデレクに視線を向ける。


「あ、あぁ……いや、俺も男だ。言ったからには約束は守る。お前は今日からBランク……」

「どういうことですか?」

 デレクの言葉の途中で、ユーマがかぶせるように質問する。


「どう、とは?」

 なんのことだ? とキャティが首を傾げた。


「いや、だって、おかしいでしょ。キャティさんはデレクさんを心配しているし、デレクさんは何か覚悟を決めているようだった。つまり、俺がそのままBランク冒険者になると面倒なことになるってことですよね? もしかしたら、新人に負けた試験官は職を追われるとかですか?」

 ユーマは状況から予想した内容を口にし、それを聞いた二人は驚いた顔で固まっていた。


「やっぱりそうですか……わかりました、だったらFランクってことにしましょう!」

「「えっ?」」

 ユーマの思ってもみない提案に、キャティとデレクは重ねて驚いてしまう。


「実際のところはいきなりクビになるとかはないと思いますけど、多分デレクさんにとってまずいことがおこるんですよね? だったら、俺は大したことなくてFランクってことにしておきましょう。そうすれば、俺は下からコツコツやれるしデレクさんは仕事に困らない。あとはキャティさんが黙っていてくれれば問題なし、ですよね?」

 ユーマが最後に問いかけたのは、キャティでもデレクでもなく第三者だった。


「ほっほっほ、よく気づいたのう。気配は消していたつもりだったんじゃが」

「ギルマス!?」

「ギルドマスター!」

 現れたのはユーマよりもはるかに背の低い、目算で恐らく130センチそこそこの老人だった。


「やっぱり、ただ物じゃないと思いましたよ。明らかに持ってる魔力が強い」

 ユーマはギルドマスターを見て、その力の強さを感じ取っていた。マリーと比較しても遜色ないほど強力な魔力をその小さい身体に秘めている。


「ほっほっほ、お主もひと目でわしの力を見抜くとはただ物ではないようじゃ。さて、それよりも先ほどのやりとりについてじゃな。Bランクのデレクを倒したのであれば、その実力をBと認定しても問題はない……じゃが、お主。Fの方がいいと思っておるな?」

 ユーマは自分の考えが見抜かれたため、一瞬驚いた顔をしたあと笑顔に戻る。


「いやあ、さすがギルドマスター。俺の考えなんてお見通しですね。そのとおりです。デレクさんとの戦いでは思わず勝ってしまいましたが、別にFランクでいいんですよ。そのほうが上がるにしても目立ちすぎませんから」

 既に城では死んだことになっており、城から離れた街にやってきている。


 しかし、登録時からBランクというと目立って注目されてしまう。ならば、Fランクから徐々に上がっていったほうがいいのではと考えていた。


「ふむ、お主がそれを望むのであればFから始められように手配しよう。ただし、実力は本物のようじゃから、色々と内密に依頼をするかもしれん」

 ある意味ではギルドからの圧力ともとられかねない発言だった。


「えぇ、もちろんです。ただその時は報酬は相応に高いものだと理解しますが、よろしいですか?」

 実力のあるものを使おうとするなら、それなりの対価が必要になるぞ? と反対にユーマからも確認という名のプレッシャーが放たれる。


「ほ? ほ、ほっほっほ、それは当然に決まっているじゃろ? ほっほっほ!」

「いやあ、ありがたいことですよ。はっはっは!」

 動揺するギルドマスターに対して、してやったりと笑顔のユーマ。


 二人の間に流れる不穏な空気を感じて、キャティとデレクは背中を冷たいものが走っている。

 何はともあれ、ここに新人Fランク冒険者が登録されることとなった。


 


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[一言] 計りをったな!孔明!ユーマですが何か?
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