第十六話
召喚されてからずっと城から出なかった(出ても密かに近くの森まで)ユーマにとって、異世界の街の中を歩くというのは新鮮なものだった。
「これは、ほんとファンタジーだなあ」
城でもエーデルハイト家でも、人族の姿しか見かけなかった。
しかし、街の中では様々な種族が往来を行きかっている。
そのことは、まるでゲームの世界に入ったかのようであり、ユーマを興奮させていた。
もちろん、それを表情に出さないように努力している。
努力をしてはいるが、キョロキョロと周囲を見回してしまい田舎者まるだしといった様子である。
エルフ、獣人(猫、犬、狼、虎などなど)、竜人、魚人などなど多くの種族がいるため、ファンタジー世界へのあこがれと興奮がやまないようだった。
「あ、ここか」
そんな風に怪しい姿を周囲に見せながらも、なんとか冒険者ギルドへと到着する。
大きな建物で、入り口は解放されており、備え付けられた看板には剣が二本クロスして後ろに盾というマークが描かれている。
中からは喧騒が聞こえてきて、多くの冒険者がいることが外にいても伝わってきた。
「とりあえず、冒険者登録をしないとだな……」
意を決してユーマは建物の中に足を踏み入れる。
入って左側にはテーブルとイスが設置してあり、冒険者が談笑している。
右側を見ていくと、そちらにはカウンターがあり何人もの受付嬢が冒険者の対応に追われていた。一番手前のカウンターでは魔物の素材を買い取っている。
「まずはあの受付にいってみるか……」
先に一人並んでいたが、そろそろ話が終わりそうであるため一番奥の受付に並んでいく。
「次の方、どうぞ!」
すぐにユーマの順番が回ってきた。対応してくれたのは、元気な猫の獣人の受付嬢だった。他の受付嬢と同じようにギルドの制服を身に着けている。髪の色がピンクだが、違和感がなく似合っている。
「えっと、初めましてユーマといいます。冒険者ギルドに来るのは初めてなんですけど、登録ってできますか?」
登録に条件があるかもわからないため、そこから確認していく。
「初めまして、私はキャティといいます。質問の答えになりますが、どなたでも登録可能です。開始のランク指定のために簡単な実戦テストを受けてもらうことになりますが、よろしいでしょうか?」
彼女は笑顔で説明するが、実戦という想定していない展開にユーマは一瞬考える。
(実戦ていうことは多分実際に戦って力を見せるってことだろうけど、どんなルールなんだろ? 簡単なっていうけど、実力を見極めるなら魔物、もしくは冒険者、いや試験官でもいるのか? 本気で戦うのか? でも、それだと殺しちゃうかもしれないし……でも、力を見極めるならそれなりに実力はあるだろうし。なんにせよそれをやらないと冒険者になれないみたいだから)
「わかりました、お願いします」
色々考えたものの、どんな内容にせよ立ち向かう。結論はこれしかなかった。
「わかりました。みんな、私は登録試験に行ってきますね」
「「「はーい」」」
キャティの言葉に、他の受付嬢たちが返事をする。
「それではこちらへどうぞ」
彼女はカウンターからホール側に出てくると、ユーマをどこかへと案内する。
「ギルド側で用意した試験官があなたの実力を測ることになります。得意な武器、得意な魔法等を使って実力を示して下さい。さあ、到着しましたよ!」
案内された先は開かれたエリアになっており、そこには戦うための舞台が用意されていた。
「室内訓練所になっていて、新人冒険者の力を確認する時や、新人の教育の際に使われます。えーっと……いたいた。デレクさん、登録希望の方がいらっしゃったのでお相手お願いします」
キャティが声をかけたのは、青みがかかった体毛の狼獣人の冒険者だった。
獣人には獣ベースと人ベースがおり、受付嬢は人ベースで限りなく人に近い見た目をしており、デレクは狼のように体毛が身体を覆っていた。
左瞼には斬り傷があり、そちらは閉じていた。
「……あぁ、わかった。小僧、俺はデレク。元冒険者だ。実力は今でもBランク程度はある。俺に勝てばBランク、勝てなければ一番下のFランクから始めろ」
このあたりの采配も試験官に委ねられているため、受付嬢は苦笑しながらも何も言わずにいた。
「わかりました。俺はユーマです……質問いいですか?」
「なんだ?」
ユーマはいくつか気になっていることがあり、それをデレクに投げかける。
「戦うのは何でもいいんですよね? 槍でも剣でも魔法でも」
「あぁ、俺が使うのはこの大剣だが、お前は好きなものを使うといい。武器を持っていないのなら、あそこの棚にある中から選んでもいい」
そこには訓練用の武器がいくつか置かれており、自由に使っていいようになっていた。
「あー、いえ大丈夫です。もう一つ質問、怪我をさせてもいいんですか?」
「できるならな」
「もし、殺してしまったら?」
「……おい、ふざけているのか?」
立て続けの質問にデレクは苛立っていた。質問されたことにだけでなく、質問の内容がデレクの実力を侮っているとしか思えないものだったからである。
「いやいや、何があるかわからないじゃないですか。それで、どうなんですか?」
「できるのなら、殺しても問題はない。その時は彼女が証人になってくれるはずだ」
「は、はい!」
急に話をふられたキャティは、急なこと、内容がとんでもないこと、その二つに驚きながら返事をする。
「わかりました、それなら俺も本気でいけます」
「小僧、お前が死んでも知らんからな!」
いつまでも大口をたたくユーマに苛立ったデレクは舞台の中央に移動すると、大剣の剣先を向けて強い言葉を放った。
「はい、よろしくお願いします」
ユーマはあくまで笑顔で舞台の中央付近へと移動する。
「私の合図で始めて下さい、準備……いいですか?」
デレクは武器を構えていたが、ユーマは素手のままであるためキャティが確認する。
二人が頷いて返した。
「それでは……始め!」
「うおおおお!」
開始の合図とともに先に動いたのはデレクだった。
「展開、”ナイフ”」
ユーマの言葉と共に現れた食器に使われるナイフ。それは空中から現れて、デレクの頬に傷をつける。
「えっ?」
「はっ?」
ナイフは舞台に突き刺さっており、動きを止めたデレクとキャティはそちらに視線を向けて固まっていた。
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